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犬用経口ノミダニ薬「ブラベクト錠」の安全性について

 3ヶ月に1度、おやつ感覚で与えるだけでよいと言うチュアブルタイプのノミダニ予防薬「ブラベクト®錠」。動物病院の勧めに応じて投与する前に、基本情報くらいは押さえておきましょう(2016.6.10/日本)。

詳細

 「ブラベクト®錠」はアメリカの「MSD Animal Health」が開発したペット用外部寄生虫薬。有効成分である「フルララネル」は、犬のノミやマダニの主要種に対して即効性を発揮すると同時に、従来品のおよそ3倍に相当する12週間の持続性を有しているのが売りです。当商品はヨーロッパにおいて2014年4月から発売が開始されており、アメリカでは同年6月から、そして日本では2015年7月から流通が始まっています。 有効成分「フルララネル」を含んだ犬用経口ノミダニ薬「ブラベクト錠」  新しく登場した薬に関して注意しなければならないのは、市場に出回り始めてから数年経った頃になって、医薬品メーカーすら予測していなかった思わぬ副作用事例が発生し、リコール騒ぎにまで発展することがあるという点です。例えば2000年代初頭に起こった、「フェノトリン」を含む猫用スポット薬が良い例でしょう(→詳細)。犬用に開発された「ブラベクト®錠」でも同じことが起こらないという保障はありませんので、最低限の知識くらいは持っておきたいものです。

フルララネルについて

 「フルララネル」(fluralaner)は、日産化学工業株式会社が発明したイソキサゾリン系化合物の一種。節足動物のγ-アミノ酪酸(GABA)作動性塩素イオンチャンネルに作用し、塩素イオンの神経細胞流入を阻害することで過剰な興奮を引き起こし、ノミやマダニを死亡させる。また同時に、節足動物のグルタミン酸作動性塩素イオンチャンネルにも作用し、ダブルの殺虫効果を示す(→出典)。
 商品としては、アメリカのメルク社・アニマルヘルス事業部門である「MSD Animal Health」が開発した経口投与製剤「ブラベクト®錠」が流通している。日本国内では体重1kgあたりフルララネル25mgを基準量とし、以下のようなサイズが設けられている(→出典)。
  • 2.0~4.5kg→0.82g中112.5mg/4,300円
  • 4.5~10kg→1.83g中250mg/4,550円
  • 10~20kg→3.67g中500mg/5,100円
  • 20~40kg→7.33g中1,000mg/5,350円
犬用ノミダニ薬「ブラベクト錠」は2~40kgまでの体重別に4種類のサイズが設けられている

各国における許認可

 欧米や日本における許認可団体と認可が降りた時期は以下。なお2016年5月24日、「MSD Animal Health」は「ブラベクト®錠」のスポットオン製品(経皮投与製剤)に関する販売承認をEUから新たに取得した(→出典)。当スポットオン製品は犬と猫の両方を対象としており、チュアブルタブレット同様、ノミやマダニの主要種に対しておよそ3ヶ月の持続的殺虫効果を示す。今後は、北米ならびに日本を含むその他の国における販売を予定している。
  • ヨーロッパ2014年4月、European Medicines Agency(EMA)によって認可された(→出典)。
  • 北アメリカ2014年6月、Food and Drug Administration(FDA)によって認可された(→出典)。
  • 日本2015年6月、農林水産省によって認可された(→出典)。

安全性に関する調査

 ヨーロッパの「EMA」、および北アメリカの「FDA」が公開しているデータによると、「ブラベクト®錠」の安全性に関しては以下のようなテストが行われている。
  • 子犬 生後8~9週齢のビーグルの子犬32頭を対象とし、基準の1(56mg/kg)、3(168mg/kg)、5(280mg/kg)倍量を56日の間隔を開けて3回投与した。その結果、重大な副作用は見られなかった(→出典)。
  • 成犬と生殖能力 2~6歳のビーグルの成犬40頭を対象とし、基準の3倍量(168mg/kg)を8週間の間隔を開けて3回投与した。その結果、重大な副作用は見られず、また生殖能力にも支障をきたさなかった。ただし子犬に対する催奇形性(四肢変形・心肥大・口蓋裂)が若干確認された。
  • MDR1遺伝子変異個体 MDR1遺伝子(多剤耐性遺伝子)に変異を持ったコリーに3倍量を投与した。その結果、下痢、嘔吐、食欲不振、流涎といった副作用が1.6%見られたが、全て軽度で一時的なものだった(→出典)。
 「フルララネル」は一度消化管から吸収されると、組織全体に素早く行き渡る性質を持っている。最も高濃度で見られるのは脂肪、肝臓、腎臓、筋肉の順で、微量ながら被毛や皮膚にも広がる。なおラットを用いた調査によると、致死量は2,000mg/kg程度と推計される。

気になる副作用

 北米やヨーロッパにおいて、死亡を含む重大な副作用が生じたという逸話的な報告が散見される。以下は一例。
  • Pet Helpers, Inc アメリカ・ウェストバージニア州フェアモントにある動物保護施設「Pet Helpers, Inc」は2015年6月11日、「ブラベクト®錠」を投与した後、 死亡してしまった「ダンカン」と言う名の4歳の保護犬についての記事をFacebook上に投稿した。内容によると、動物病院で処方された「ブラベクト®錠」を与えたところ、ダンカンは24時間たたずして死亡、もう1頭の犬も体調不良に陥ったという(→出典)。
  • Does Bravecto Kill Dogs? 2015年8月に誕生したFacebook上の公開グループ「Does Bravecto Kill Dogs?」では、「ブラベクト®錠」が原因と思われる副作用に関する情報を交換している。2016年6月時点で12,000人を超える人々が参加しており、日々新たな症例が報告されている(→出典)。
  • Change.org オンラインで署名活動をする「Change.org」内には「市場からブラベクトを即時回収するよう求める署名」と題されたページが作成され、2016年6月時点で4,000人を超える人々が賛意を示している。当ページによると、ヨーロッパの「EMA」に寄せられた副作用の件数は2016年1月時点で4,945件に上り、そのうち299件は死亡例だという。さらに、副作用を報告していない潜在的な飼い主の数まで含めると、その数は膨大なものになると推計されている(→出典)。
 上記した報告の中には、投薬と副作用の因果関係が証明されていなかったり、分子と分母が不明だったりして、情報としての価値が怪しいものもある。しかしその報告数が数千件にまで及んでくると、「飼い主の勘違い」や「ライバル企業によるネガティブキャンペーン」といった単純な説明で看過することもできない。ちなみに2016年6月現在、農林水産省が公開している「副作用情報データベース」において、「フルララネル」に関する国内での報告はない(→出典)。

解説

 「ブラベクト®錠」を犬に投与するかどうかを最終的に決めるのは飼い主です。その際、医薬品メーカー、動物病院、飼い主、犬のそれぞれの立場や思惑について考えておくと、判断する際のヒントになってくれるでしょう。
  • 医薬品メーカー 日本国内の動物医療におけるノミ・マダニ駆除剤は毎年成長している分野であり、その市場規模は約60億円と推計される。後発で既存品に対抗することは容易では無いが、「3ヶ月に1度でよい」という従来品にはない特徴を持った「ブラベクト®錠」なら、60億円という限られたパイのうちいくらかは占有できるはず。
  • 動物病院 「3ヶ月に1度でよい」という簡便さにより、飼い主の投薬コンプライアンスを得やすい。1回の処方で3ヶ月分の利益を確保できる。シーズンの初めにまとまった利益が見込め、年間での病院利益に貢献してくれる。
  • 飼い主 3ヶ月に1度でよいので投薬忘れや投薬遅れが少なくなる。毎月1回投与×3回のトータルコストよりも、1回投与のコストの方が安く上がることがある。
  •  スポットオン製品に比べたとき「シャンプーの制限がない」、「被毛が乾くまで待つ必要がない」、「全身への広がりが早い」、「皮膚刺激がない」といったメリットを有している。フレーバーが付いていて嗜好性が高く、投薬ストレスがない。
 飼い主や犬にとって、医薬品メーカーの思惑や動物病院の経営状況などはどうでもいいことです。ですから最終的に重要となってくるのは、飼い主と犬が受ける恩恵が、副作用のリスクよりも十分に大きいかどうか?という点だと思われます。
 メーカーが主張しているメリットには、それなりの魅力があることは確かです。しかし、安全性に関して過去に行われた試験のサンプル数が小さく、また北米やヨーロッパで逸話的な副作用情報が徐々に蓄積されつつあるという事実も忘れてはなりません。動物病院は、これまで使ってきたノミダニ予防薬から新興の「ブラベクト®錠」に切り替えることを勧めてくるかもしれませんが、獣医師の言葉を鵜呑みにする前に、この薬は流通してから2年ほどしか経っておらず、副作用に未知の部分が残されているという事実だけは思い出したほうがよいと思われます。 犬のノミ皮膚炎 犬のマダニ症
 2018年9月、アメリカ食品医薬品局(FDA)は「イソオキサゾリン」に属する成分を含んだペット用ノミダニ駆除薬によって引き起こされる副作用に対する注意喚起を行いました。具体的な症状は筋肉のけいれん、全身の震え、運動失調、発作・ひきつけなどです。FDAでは以下の商品に対して注意を呼びかけています(カッコ内は原因成分)。該当商品をご使用の方は投与後の犬の体調に十分ご注意ください。
  • ブラベクト(フルララネル)
  • ネクスガード(アフォキソラネル)
  • クレデリオ(ロチラネル)
  • シンパリカ(サロラネル)