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ペットショップで犬を買う前に~その犬、どこで生まれましたか?

 衝動買いによってパピーミル(悪徳繁殖業者)に加担してしまわないための注意点について解説します。ペットショップに行く前に必ずお読みください。

絶対に必要な質問

 犬を飼いたいと思ったとき、まず真っ先に頭に思い浮かぶのは「ペットショップ」だと思います。路面沿いに店舗を構えた小規模なお店を思い浮かべる人もいれば、ショッピングモールにテナントとして入っている比較的大きなお店を思い浮かべる人もいるでしょう。 ペットショップに陳列されている子犬の来歴を、店員が積極的に教えることはない  もしこれからこうしたペットショップで犬を買おうとしている人がいたら、お店の店員に必ず次の質問を投げかけてみてください。
この子犬はどこで生まれましたか?
 店員は「信頼のおけるブリーダーの元で生まれました」といった漠然とした返答をするかもしれません。その場合は、「どこに住んでいる何というブリーダーの元で生まれましたか?」とさらに突っ込んで聞いてみましょう。店員は「血統書に記載されていますので、ご購入いただいた方に対面説明することになっています」といった返答をするかもしれません。もし子犬の来歴に関する質問を投げかけても、上記したような適当な返答をするばかりで明確な答えをはぐらかすような場合は、悪徳繁殖業者の共犯者になってしまう危険性があります。
 飼い主にとって重要なのは「ブリーダーはしっかりした人なのか?」、「子犬は健全な離乳をしたのか?」、「親犬に遺伝性疾患はないのか?」、「日本国内で可能な遺伝子検査は終えているのか?」という点を事前に確かめることです。確認のための重要な情報をなかなか提供しないということは、ブリーダーに問題があるか、ショップに問題があるか、あるいはその両方ということです。 犬・猫の小売 NEXT:犬の競り市とは?

犬の「せり市」

 はっきりとした来歴がわからない子犬たちは、一体どこからきたのでしょうか?ペットショップのショーケースに並べられるひとつ前の段階に戻って見てみましょう。
 店内に常時数十頭単位の犬を確保しているような中~大型店舗では、商品として売ろうとする子犬たちを大量に仕入れる必要があります。そのときによく利用されるのが「ペットオークション」と呼ばれるシステムです。このシステムでは「オークション」という名前が示している通り、各地から集められた子犬たちが段ボール箱に詰められ、さまざまな店舗から集まったバイヤーによって競り落とされていきます。ちょうど野菜のせり市のような感じです。 オークション会場で野菜のようにコンベヤーを流される子犬  オークション会場は秘匿性が高く、ペットショップを運営していたり、これからペットショップをオープンさせようとする人以外は、なかなか入ることができません。会場を視察したことがある作家の渡辺眞子さんは、内部の様子を以下のように描写しています。
 会場は市街地から少し離れた貸倉庫のような場所。中に入ると仕入れに来た業者の席がひな壇のように並び、その中央に手動のベルトコンベヤーのようなものが設置されていました。まず午前中に動物の餌やアクセサリーなどペット関連グッズが扱われ、次に鳥のヒナやウサギなど単価の安い小動物、その後にサルとか鳥類といった犬猫以外のペット、そして休憩を挟んで午後から犬と猫のオークションが始まります。段ボール箱に入れられた子犬や子猫がコンベヤーに乗って買い手の前に流れてきます。そこで白衣を着た担当者が会場全体に見えるように箱から1頭ずつ掴み上げて犬種と雌雄、血統書の有無や身体的な特徴を読み上げ、初値を決めると値付けが始まります。設置された大きなスクリーンに設定された初値が映し出され、そこから価格は自動的に少しずつ上がるのですが、手元のリモコンボタンを最後まで押し続けた人が落札するというシステムでした。そのコンベアは会場の外の駐車場に直結しており、買い手が決まると、そのまま車で運ばれていくという一連の流れになっていました。 それでも命を買いますか?
 上記したように、各地からオークション会場に運ばれてきた子犬たちは、まるで野菜か何かのようにコンベヤーの上を流され、次から次へとペットショップのバイヤーの手に渡っていきます。会場には健康な犬もいれば、寄生虫や感染症を保有した不健康な犬もいることでしょう。しかし多くの場合、子犬を病気から守ろうとする特別な配慮もなければ、見知らぬ場所に連れて来られて怯えている子犬たちのストレスを緩和しようとする配慮もありません。 犬・猫のせり・オークション NEXT:パピーミルの実態

パピーミルと子犬

 オークション会場に来る前、子犬たちは一体どこにいたのでしょうか?さらに時間を遡って見てみましょう。

パピーミルの実態

 子犬を繁殖する業者は一般的に「ブリーダー」と呼ばれます。しかしその内容に関してはピンキリで、犬の健康や福祉を十分に考えた「シリアスブリーダー」(真面目なブリーダー)と呼ばれる人たちもいれば、ただ単に犬を商品として扱い、劣悪な環境下で繰り返し繁殖を行う「パピーミル」(悪徳繁殖屋)と呼ばれる人たちもいます。残念ながら、ペットショップに陳列されている犬たちの大部分は、後者において生み出されているというのが現状です。
福井県のパピーミル
 以下でご紹介するのは福井県坂井市内で営業していた繁殖施設の内部を捉えた動画です。この施設では一時、400頭を超える犬や猫たちを狭いケージ内に閉じ込め、わずか2人で管理するという劣悪な飼育環境が続いていました。さらに犬の無登録や狂犬病予防法違反の疑いもあったことから、動物愛護団体に刑事告発されています。 元動画は→こちら
 パピーミル業者はなるべく利益を大きくするため、人件費を削減して大量の子犬を繁殖させようとします。その結果、生まれてきた子犬に対するケアが不十分となり、感染症や寄生虫が蔓延してしまうということがしばしば起こります。
 例えば2015年、北里大学獣医学部小動物内科学研究室の調査チームは、東北地方にある4ヶ所のペットショップで2008年と2013年におけるジアルジア(寄生虫の一種)の感染率を比較しました。その結果、ペットショップやブリーダー経由の子犬におけるジアルジア感染率は2008年が24.8%、2013年が29.5%という極めて高い値を示したといいます。 ペットショップにおけるジアルジア原虫感染率が判明  ジアルジアは、寄生虫の未熟形態である「シスト」を含んだ糞便を口に入れてしまうことで広がる経口感染症です。ペットショップやブリーダーから来た子犬たちの感染率が高いという事実は、子犬たちが生まれた後、感染した犬と感染していない犬がごちゃまぜになり、糞便がしっかりと処理されないまま放置され、食糞行動が横行しているということを意味しています。 パピーミルで生まれた子犬達は一箇所に詰め込まれ、糞便の処理もされない  「パピーミル」を直訳すると「子犬工場」となりますが、悪徳繁殖業者にとって子犬たちは、機械から次から次に出される単なる部品にすぎないのです。そこには、本来あるべき母犬と子犬の健全な交流や、豊かな社会性を育むための人間との触れ合いなどありません。あるのは「高く売れそうか?」という商売根性だけです。

流通死する子犬たちの現状

 2015年10月に発行された「アエラNo.44」(朝日新聞社)内の記事「年2万匹死ぬ流通の闇」(P62)によって、1年間に売買される犬や猫のうち、流通過程で死んでしまう数が「23,181頭」という膨大な数に達することが明らかになりました。その中には、劣悪な環境下で放置され、適切なケアを受けなかったがために命を落とした子犬たちや、ちょっとした障害を抱えていたため生後間もなく間引かれた子犬たちが、相当数含まれていると推測されます。こうした「流通死」の背景にあるのは、子犬達のことを単なる機械部品としか考えていないパピーミルの金儲け主義です。 犬・猫の生産 犬の殺処分はどこで行われるのか? 平成25年度の行政殺処分数と、2014年度における流通過程の犬死亡数比較グラフ

不必要な断尾や断耳

 「断尾」(だんび)とは、生まれて間もない子犬の尻尾を人為的に切り落としてしまうことです。主に、人間が勝手に決めつけた「犬種標準」に犬の姿を合わせることを目的として行われます。ヨーロッパではすでに動物虐待であるという認識が進んでおり、多くの国で施術が禁止されています。一方、日本では法律でも条例でも禁止しているところはなく、一部の獣医師のみならず、医学的知識のないブリーダーが自ら行うという無法状態が続いています。
 最新の研究により、「断尾」には何のメリットもないことが証明されています。また「子犬は神経が未発達だから痛みを感じない」という言い分には、医学的に何の根拠もありません。日本で人気が高いトイプードル、ジャックラッセルテリア、ミニチュアシュナウザーといった犬種は、「犬種標準に合わせる」という全く無意味な目的のためだけに尻尾を切り落とされています。医学的知識のない悪徳繁殖業者が行った断尾によって、一体何頭の子犬たちが痛みに泣き叫んでいるのでしょうか?さらに犬の中には、耳の一部を切って立たせる「断耳」と呼ばれる整形手術が強要される犬種がいます。想像しただけでゾッとしますね。 犬の断尾 犬の断耳 NEXT:繁殖犬の悲劇

パピーミルと繁殖犬

 子犬たちを生み出すために絶対に必要なのが母犬の存在です。「繁殖犬」と呼ばれるこうしたメス犬たちは一体どのような環境で生活しているのでしょうか?

ブリーダー崩壊

 国内外のニュースを見ていると、時折「ブリーダー崩壊」という言葉を目にすることがあります。これは悪徳繁殖業者が経営に行き詰まり、確保していた繁殖犬たちを一度に大量に飼育放棄する現象のことです。パピーミルが崩壊した時の現場写真をいくつかご紹介します。 長崎におけるパピーミルの崩壊現場 東大阪におけるパピーミルの崩壊現場 狭くて不潔なケージに入れられた状態の繁殖犬たち  写真からも分かるとおり、繁殖犬たちは必要最小限のケアすら与えられていません。被毛や爪は伸び放題で手入れされておらず、狭いケージの中に閉じ込められたまま散歩もしてもらえません。ひどいときにはこの状態が一生涯続きます。このような劣悪な環境下に軟禁された繁殖犬たちは、発情期が来るたびに出産を強要され、次から次へと子犬を生むことを余儀なくされます。
 パピーミル業者にとって子犬たちが「機械部品」 ならば、子犬たちを生み出す繁殖犬たちは部品を作り出す「工業機械」にすぎないのです。そこでは、犬たちを生き物として扱う意識などさらさらなく、まして動物にとって必要最低限な「5つの自由」(飢えと渇き・不快・怪我や病気・恐怖や苦悩から解放され、正常な行動を表出する自由)など期待すべくもありません。 犬・猫の生産

人気犬種の遺伝病

 犬種には必ずと言ってよいほど特有の遺伝病が付随しています。例えば、日本でここ10年ほど人気犬種トップ3に入っているトイプードルでは、「進行性杆体錐体変性症」(PRCD)がそれに相当します。本来ブリーダーは、犬が成長してから遺伝病が発症しないよう、事前に遺伝子検査を行い、病気に関連した遺伝子を保有した繁殖犬をラインから除外していく必要があります。しかしこれは理想論であり、実際は犬の健康や福祉よりも金儲けが優先されているようです。
 鹿児島大学を中心とした研究チームは、日本国内で2003年から2014年の間ずっと人気犬種のTOP3を占めているトイプードル、チワワ、ミニチュアダックスフントの3犬種を対象に、上記遺伝病を生み出す「PRCD遺伝子」の保有率を調査しました。その結果、トイプードルでは16.5%という高い保有率が見出されたと言います。
 この病気の遺伝子検査は2006年の時点ですでに開発されているため、すべてのブリーダーが責任を持って繁殖犬の遺伝子検査を行っていれば、今頃は犬種の中から原因遺伝子が駆逐されているはずです。しかし実際は16.5%という高い値をキープしています。この事実は、犬の健康や飼い主の苦労なんかより、とりあえずバンバン子犬を産んで金儲けしようという拝金主義がペット市場を覆い尽くしていることを意味します。 トイプードルの「進行性杆体錐体変性症」(PRCD)関連遺伝子 NEXT:犬を買う前に

ペットショップに行く前に

 ペットショップに並んでいる子犬たちが、一体どこで生まれ、どのように輸送され、どのような流通経路を通ってきたのかを概観したところで、もう一度最初の質問に立ち戻ってみましょう。
この子犬はどこで生まれましたか?
 動物愛護管理法により、犬や猫の販売業者には「対面説明が必要な18項目」というものが規定されており、その中に「繁殖を行った者の氏名又は名称及び登録番号又は所在地」というものがあります。飼い主としては事前にブリーダー情報を得て、どのような繁殖施設でどのような品種を繁殖しているのかを確認したいところです。にもかかわらずペットショップがこの重要な情報をしっかりと提供してくれない場合は、そもそも名前と所在地以外ブリーダーがどんなレベルなのかを知らないか、あるいはあまりにもレベルがひどくて購入者に事前に知ってほしくないかのどちらかでしょう。
 繰り返しになりますが、もし子犬の来歴をしっかりと回答できないようなペットショップがあった場合、悪徳繁殖業者に加担してしまう危険性があります。
すし詰め子犬工場「まるで地獄」
 福井県坂井市で営業していたパピーミルの実際の映像です。適正な飼養を怠り「首根っこをつかんで移動する」など動物虐待まがいの扱いをしていたにもかかわらず、この業者は不可解な経緯で不起訴処分となりました。 元動画は→こちら
 これから犬を飼おうとする方は、ぜひ「保護犬を引き取る」という選択肢を考えてみてください。保護犬たちの中には、パピーミルで生まれたあげく質の悪いペットショップに卸され、衝動買いをした無責任な飼い主に捨てられた子たちがたくさんいます。暴力を始めとする肉体的な虐待を受けたり、「庭につなぎっぱなし」といったネグレクト(怠慢飼育)の犠牲になった犬たちもいることでしょう。子犬の頃から天寿を全うするまで一緒に暮らし、愛情をかけ続けるのも1つの飼育スタイルです。しかし、生涯の前半で辛い経験をした犬たちの、残りの「犬生」を豊かなものにしてあげるという飼育スタイルがあっても、また良いのではないでしょうか。ぜひご一考ください。 犬の里親募集機関 捨て犬・保護犬の引き取り方 食肉加工の運命にあった「タイニールビー」~保護団体に救助されて犬らしさを取り戻す
保護施設で殺処分寸前だった老犬「アインシュタイン」~映画俳優G.クルーニーに引き取られて逆転ホームランを決める
公園のベンチにぽつんと捨てられていた盲目の元繁殖犬「ポーリィ」~新しい飼い主の元で今まで未払いだった一生分の愛情を受け取り中
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子犬を繁殖者から購入するときの注意

 ペットショップやブリーダーから子犬を購入する場合、特に注意してチェックすべき点があります。これには子犬自身をチェックすることの他、子犬の繁殖に関わったブリーダーをチェックすることも含まれます。

第一種動物取扱業者の掲示

 改正動物愛護管理法(2006年6月~)の施行により、登録業者を証明する標識の掲示が義務化されました。ペットショップでもブリーダーでも、店舗内や繁殖施設のわかりやすい場所に第一種動物取扱業者「販売」の掲示をしていなければなりません。
 またウェブサイトを運営している場合、それは「広告」に該当すると考えられます。環境省のガイダンスでは業者の「氏名又は名称、事業所の名称及び所在地、動物取扱業の種別、登録番号並びに登録年月日及び登録の有効期間の末日並びに動物取扱責任者の氏名を掲載すること」と規定されています。よってサイト内のどこかに第一種動物取扱業者「販売」の詳細が記載されていなければなりません。 動物取扱業者が遵守すべき動物の管理の方法等の細目

子犬の飼育・繁殖環境

 ペットショップの場合、ブリーダーの所在地と名前しか情報をくれないことがあります。しかし、犬を買う前にぜひブリーダーの繁殖施設を見学し、飼育環境を確認してください。ケージの中に複数の繁殖犬を入れておざなりに管理している場合、犬の福祉を無視した「繁殖屋」(パピーミル)である可能性が大です。また室内はしっかり清掃されているか、換気は十分か、糞尿の臭いが充満していないかも合わせて確認します。犬を商売道具としてしか見ていないパピーミルは劣悪環境下で繁殖を強いる  動物愛護法により第一種動物取扱業者には「犬猫等健康安全計画」の策定が義務付けられています。しかし行政が繁殖業者の施設を抜き打ちでチェックするというシステムはありません。結果として、書類上は登録を受けているにも関わらず、実際は全くルールが守られていないということも大いにありえます。 動物愛護法が改正されました

母犬の扱い方

 母犬に対する扱い方を確認します。目やにがあったり鼻水がたれている場合、何らかの感染症にかかっているかもしれません。そして感染症は身近に接してグルーミングしている子犬にも移っているはずです。被毛が粗雑な場合、ブリーダーがしっかりとブラッシングをかけていないのかもしれません。「多忙」を理由に犬の健康管理を疎(おろそ)かにしているようなら、それは動物福祉よりもお金が優先だということです。 引き取り屋の狭いケージ内にすし詰めにされた犬たちの哀れな姿  年老いて繁殖が難しくなったメス犬はどう扱われているのでしょうか?家庭内で引退生活を送っていない場合、第三者に譲渡した可能性があります。悪質なブリーダーの場合、金銭を支払って「引き取り屋」(上の写真参照)という専門業者にお払い箱にしてしまいます。こうした業者の中には、劣悪な環境下に犬を軟禁し、いちじるしく福祉を損なっているものもいます。そのブリーダーが犬好きなのかお金好きなのかは、利益を産まなくなった母犬への扱い方に如実(にょじつ)に現れるものです。

社会化期と離乳時期

 犬の性格形成にとって生後3~13週は極めて重要な社会化期です。まっとうなブリーダーやペットショップならこうした時期の重要性を理解し、あまりにも幼い子犬は販売しないはずです。きょうだい犬(同腹仔)とじゃれあう「社会化」の時間、および人間の手による「ハンドリング」の時間を設けているかどうかはしっかり確認するようにします。こうした時間をしっかりとらないと、健全な性格形成が進まないことがあります。 子犬の社会化期

購入者へのインフォーム

 動物愛護法では犬や猫を販売する際、販売業者が購入者に対して「対面説明が必要な18項目」を、面と向かって直接説明することが義務付けられています。しかしこの項目は必要最小限のものであり、必ずしも理想的なものではありません。まっとうなブリーダーやペットショップなら、その品種に合わせて適切な飼育法を事細かに教えてくれるはずです。
 また犬には品種によってかかりやすい病気というものがあります。まっとうな販売業者なら海外の情報も含めてしっかりと勉強し、こうしたデメリットも含めて購入者に教えてくれます。さらに遺伝病の中には事前の検査で疾患遺伝子の有無を確認できるものもあります。まっとうな業者なら疾患遺伝子を保有している可能性のある犬を繁殖には用いません。たとえばPRCD遺伝子保有したトイプードルは「進行性杆体錐体変性症」(PRCD)の発症確率が高まるから繁殖しないなどです。高く売れるからという理由で犬の健康や福祉をないがしろにするのは、シリアスブリーダーではなく「繁殖屋」のすることです。 トイプードルの「進行性杆体錐体変性症」(PRCD)関連遺伝子

きょうだい犬の数

 子犬を見るときはきょうだい犬(同腹仔)の数も確認するようにします。品種には平均的な出産胎子数というものがあり、この数よりも極端に少ない場合は何らかの問題がある可能性を考慮します。
 以下は、母犬の体重別に見た平均出産胎子数です。2010年から2014年の期間、フランス国内において248の品種に属する合計27,221頭のメス犬から生まれた、合計204,537頭の子犬のデータが元になっています(→Chastant-Maillard S, 2017)。
 表中の「胎子数」とは、子犬の生死にかかわらず1回の出産で生まれた子犬の数を平均化したものです。「死産率」とは、生まれてきた子犬全数の中で、出産時すでに死亡していた子犬がどの程度いたのかを表しています。また「新生子死亡率」とは、死産を免れて生まれてきた子犬全数の中で、売られるまでにどのくらいの子犬が死亡してしまったのかを表しています。当然、数字が大きいほど「たくさんの子犬が死んだ」という意味です。 母犬の体重別に見た平均胎子数、死産率、新生子死亡率一覧表  日本では小型犬の占める割合が高く、表で言うと「10kg未満」の母犬が多いと考えられます。死産率も新生子死亡率も7%前後ですので、平均胎子数4.3の86%できょうだい犬の数はだいたい3頭前後と推測されます。ブリーダーの犬舎を見学した時、同腹仔が2頭しかいかなったり、まったくきょうだい犬がおらず1頭だけぽつんと売られている場合は、なぜいないのかを確認する必要があるでしょう。
 長い間繁殖を行っているブリーダーの場合、多かれ少なかれ何らかの障害を抱えた子犬に出会います。先天的疾患は命にかかわる重度のものだったり、「見た目がちょっと違う」という軽度のものだったり色々です。こうした疾患を持って生まれた子犬たちは一体どこに行くのでしょうか?障害が原因でそのまま死亡してしまうのでしょうか?障害が重度で回復の見込みが無く、安楽死させられるのでしょうか?障害が軽度で生き残り、繁殖施設のどこかで飼われるのでしょうか?それとも第三者に譲渡されるのでしょうか?
 動物愛護法では犬や猫を販売する業者に対し「終生飼養の確保」を義務付けています(→出典)。これは販売することができない個体であってもしっかりと天寿を全うさせてあげるということです。  手足の奇形、口蓋裂、心疾患、臍ヘルニア、横隔膜ヘルニア、眼瞼欠損、類皮腫、胸郭や頭の奇形、合趾症といった先天的な疾患を持って生まれてきたからといって、治療の機会すら与えずブリーダーがその犬を間引いていいなどというルールはどこにもありません
 きょうだい犬の数があまりにも少ないときは、ブリーダーにその理由を聞いておきたいものですね。
犬をどこかで購入するにしても譲渡会を通じて里親になるにしても、犬を飼う前に必要な条件は絶対にクリアしておかなければなりません。