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歯に良いフードとは?

 「歯に良いフード」とは、歯周病を予防したり軽減したりする効果をもったフードのことです。より具体的には、歯周病を引き起こす主犯格である歯垢や歯石を、歯の表面から除去する特性を持ったフードということになります。

歯磨き効果の3条件

 歯周病(ししゅうびょう)は犬や猫において非常によく見られる疾患の一つです。2010年にアニコム損保が行った統計調査(PDF)によると、10歳時における犬の歯周病発症率はおよそ3.2%で、3歳以上の歯周病予備軍は80%以上になるという結果が出ています。また2009年にアニコム損保が行った統計調査では、730件あった猫の手術費用請求のうち、歯周病に関連するものが19%にも及んだそうです。こうしたデータが示すように、歯周病は高い発症率をもっていますので、もし「歯周病を予防する効果があるフード」が存在するならば、ぜひとも試してみたいものです。
犬の年齢別歯周病発症率
犬の年齢別歯周病発症率(アニコム損保, 2010)  歯周病の元凶は、歯の表面に付着した歯垢と歯石です。歯石はひとたび沈着してしまうと除去することが困難で、多くの場合、全身麻酔と獣医さんによるスケーリング(歯石はがし)を必要とします。しかし歯石になる前のネバネバした歯垢なら、「噛む」という機械的な刺激で取り除くことが可能です。これが「プラークコントロール」で、歯周病予防のゴールドスタンダード(基本中の基本)となります。もし「歯垢を減らす効果がある」と謳っている商品があった場合、基本的に以下のメカニズムを含んでいなければなりません。
歯垢除去のメカニズム
咀嚼によって歯の表面の歯垢が除去されるメカニズム  上の図からもわかる通り、噛んだ物の表面と歯の表面とが適度にこすれ合うことが、歯垢除去の基本メカニズムです。ですから歯磨き効果をアピールする商品には、以下に述べる3つの条件を備えていることが求められます。
歯磨き効果アイテムの3条件
  • 歯垢よりも硬く、歯よりも柔らかい適度な硬さを持っている
  • 歯の表面との接触面積が大きく、十分な接触時間を保てる
  • 丸飲みできず、咀嚼と唾液分泌を促す適度な大きさを持っている
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歯磨き効果のあるフード

全ての犬猫が歯磨き好きではない  プラークコントロールの最も理想的な方法は、言うまでもなく飼い主による歯磨きです。しかし2014年に「ペット総研」が行った調査「愛犬のデンタルケア」では、約30%の犬が「手が付けられないほど嫌がる」となっています。また猫が口元を触られることを極端に嫌うことは言うまでもありません。こうした歯磨き嫌いの犬や猫の口腔ケアをしなければならないとき、噛むことによって自然と歯磨き効果が生まれるようなアイテムがあれば、非常に役に立ってくれるでしょう。 犬の歯のケア 猫の歯磨きの仕方  世間では、「オーラルケア」や「歯の健康維持をサポート」といった表現で、様々なフード、おやつ、トリーツが売られています。以下は、一般的に「歯に良い」と言われているアイテムの一覧です。本当に歯磨き効果があるかどうかを判断する際は、上のセクションで解説した3条件を持っているかどうかが目安になってくれます。

自然の食事

 犬や猫にとって「野生環境で食べているものがベストであり、人工的に製造されたペットフードは邪道の極みである」という考え方は、一部の人の間で根強く残っています。しかし実際のところ、自然食が犬や猫の歯周病を予防するかどうかに関しては、はっきりとはわかっていません
犬猫にとって「自然食=ベスト」というわけではない  1947年に行われた調査では、野生のイヌ科動物とネコ科動物が食べる自然の食事には、プラーク(歯垢)の蓄積を遅延させる効果があると報告されています(Colyer)。一方、それから50年後の1997年に行われた調査では、1~9歳までの67頭のイングリッシュフォックスハウンドに骨付き生肉を定期的に与えたところ、全ての個体に大なり小なり歯周炎が認められ、また歯の破損が多く見受けられたという結果が出ています(Robinson)。さらに同年、オーストラリア国立公園内で行われた調査では、小型の哺乳類、鳥、トカゲ、昆虫といった獲物を食している45頭の野生の猫において、歯肉炎が明らかに少ないという証拠は見いだせなかったとしています(Cameron, Clark)。
 このように相反するデータがありますので、「自然=ベスト」という公式をそう簡単には鵜呑みにする訳にはいかないでしょう。
犬と骨 犬の代名詞ともいえる骨は近年危険物として扱われ始めている  犬の自然食の一つとして骨がありますが、近年はだいぶ風当たりが強いようです。まず硬いものを噛むことによる口腔内の怪我という問題があります。犬の歯は非常に丈夫ですが、石、骨、フェンスと言った硬いものを細長い犬歯でガジガジと噛んでいると、歯の先端が欠けてしまうことがあります。また砕けた骨がのどや内臓を傷つけるというリスクも無視できません。
 骨が持つこうした負の側面を背景とし、「アメリカ食品医薬品局」(FDA)では2010年に「犬に骨を与えることは望ましくない」というお達しを出しました。野生の犬やイヌ科動物が骨をおいしそうにしゃぶっているからといって、それが家庭犬の健康にとってベストというわけではないということです。 骨をしゃぶるのが好き

デンタルフード

ドライフードとデンタルフードは同義語ではない  ドライフードには歯磨き効果があるとよく言われますが、正確に表現すると、特殊な形状を持ったデンタルフードには歯磨き効果があるとなります。前のセクションでも説明したとおり、歯の表面に付着した歯垢を取り除くためには、噛むものと歯の表面との間で擦れ合いが起こらなくてはなりません。しかし通常のドライフードの場合、歯の先端がフードに触れた途端カリッと音を立ててバラバラになってしまいます。これでは歯磨き効果を期待できません。一方、「歯磨き効果がある」とか「歯の健康を促す」といった表現が与えられているデンタルフードには、フードの表面と歯の表面との接触面積を増やし、また接触時間がなるべく長くなるような工夫が施されています。
ノーマルフード(左)とデンタルフード(右)
ノーマルフードとデンタルフードの歯磨き効果比較図  市販品の中には、「当社テストの結果」として具体的な実験データを自主的に表記しているものもありますが、そうした証拠を示さないまま、ただ単に商品の売り上げを伸ばすために「歯に良い」とラベリングしている商品も少なくありません。その商品が本当に歯磨き効果を持っているかどうかは、先に示した「適度な硬さを持っているか?」、「歯との接触は十分か?」、「咀嚼を促すか?」という3条件に照らして、飼い主本人が判断した方がよいでしょう。

デンタルトリーツ

 世の中には歯磨き効果を謳ったおやつやトリーツがたくさん回っています。デンタルフードの場合と同様、こうした食品にはフードの表面と歯の表面との接触面積を増やし、また接触時間が長くなるような何らかの工夫が施されていなければなりません。しかし、ただ単に「歯に良い」と謳っているだけで、実際の効果に関しては不明な部分が多いのが現状です。例えば以下に述べるような実験結果が報告されています。 小動物の臨床栄養学4版(第16章)
デンタルトリーツの効果
  • 生皮のストリップ 毎日生皮を2本与えると、歯垢と歯石の除去に効果がある。ただし酵素コーティングの効果に関しては不明。
  • デンタルボーン 米や乳清でできた犬用ガムは咀嚼と唾液分泌を促す効果がある。
  • デンタルビスケット 犬用にしても猫用にしても明確な効果が認められない。
 このように、効果が確認できるものや効果があいまいなもの、そして効果がないものまでが混じり合っているようです。さらに2013年に行われた統計調査では、デンタルケアを謳った硬いトリーツが、逆に歯の破折事故を引き起こしているという逆説的な事実が明らかになっています。犬379頭から得られた合計609の破折歯のデータをまとめたところ、破折の原因は9割以上が「硬いものを咬んだこと」によるものだったと言います。具体的にはひづめ、ガム(デンタルガムを含む)、骨などです。こうなると歯に良いどころか、逆に歯に悪いといっても過言ではないでしょう。
 デンタルフードの場合と同様、デンタルトリーツを選ぶ際、飼い主の側に求められるのは、歯磨き効果の必要条件である「適度な硬さを持っている」(歯が折れるほど硬くない)、「歯との接触が十分」、「咀嚼を促す」という3条件に照らして、個々の商品を冷静に評価することです。

デンタルサプリメント

 抗菌性や抗炎症性を謳った様々なペット用サプリメントが市販されていますが、こうした物質の多くは、犬や猫に用いた場合の効果や長期的に用いた場合の影響について検討されていません。具体的には以下のようなものがあります。
ペット用デンタルサプリメント
  • 抗酸化成分
  • エッセンシャルオイル(チモール・ユージノール・メントール・ユカリプトール)
  • グルコン酸クロルヘキシジン
  • キシリトール
  • 緑茶、マグノロール、ホノキオール、ハーブ
 こうした商品が、いったいどのような証拠を持って「歯の健康を保つ」と言い張っているのかに関しては、じっくり検討する必要があるでしょう。中には「キシリトール」のように、犬や猫に低血糖発作を引き起こしかねない危険な成分も含まれていますので、飼い主としては要注意です。

デンタル食品の注意点

 デンタルフードにしてもデンタルトリーツにしても、「歯磨き効果がある」と聞くと、ただそれらを食べていれば歯を磨かなくてもよいかのような錯覚を抱いてしまいます。しかし以下に述べる理由により、デンタル食品はメインのプラークコントロール方法にはなりえません。
デンタル商品の限界
  • 使用する歯はごく一部 犬や猫が硬いものを砕くときに使用するのは、臼歯の一部だけです。犬歯や門歯といった前方にある歯はほとんど使いません。ですから仮にフードに歯磨き効果があったとしてもその効果が発揮されるのは口の奥に付いている臼歯に対してだけです。
  • 歯の根元は使わない 犬や猫が硬いものを砕くときに使うのは、主として臼歯の先端部分であり、歯肉に近い根元部分は使われません。ですから仮にフードに歯磨き効果があったとしても、歯肉炎を引き起こしやすい歯の根元付近の歯垢を除去する能力は限られてしまいます。
  • 砕くのはごく一部 犬や猫がものを食べる時の基本は丸飲みです。人間の奥歯のようなすりこぎ状の臼歯を持たないため、何かをじっくりと咀嚼するという習慣はありません。ですから仮にフードに歯磨き効果があったとしても、歯によって噛み砕かれるのはそのうちの一部で、残りはすべて丸飲みされてしまいます。
 このように、たとえ食品に歯磨き効果があっても、その効果はかなり限局的なものになってしまいます。ですからメインのプラークコントロール方法はあくまでも飼い主による歯磨きであり、デンタル食品は単なる補助であるという認識を持つことが重要です。 犬の歯のケア 猫の歯磨きの仕方
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日本における表記問題

ペットフードは薬ではないが、治療効果を連想させる表現は一定条件の元許容される  ペットフードは原則として、医薬品医療機器等法(旧・薬事法)により「医薬品」や「医薬部外品」との混同を避けるため、病名、症状、ペットの体の構造や機能に影響を及ぼす表記はできないことになっています。しかし「口腔内で消化されやすい」、または「噛むことによる」という表現が明記されている場合に限り、「歯垢」、「歯石」、「口臭」といった具体的な病名を連想させるような言葉を併記できるとされています。また同時に、「軽減する」、「抑える」、「解消する」といった改善・予防を謳(うた)った表記も使用可能です。ペット用デンタル商品がもつ微妙な立場をまとめると以下のようになります。
デンタル商品のあいまい性
  • ペット用デンタル商品は医薬品や医薬部外品ではない
  • ある一定の文言を添えた場合に限り、治療効果を連想させるような表現を使うことができる
  • だけど薬ではないので、効果に関する実験データを提出する必要はない
 ここで消費者が注意すべきは、「歯垢を軽減する」、「口臭を抑える」といった、あたかも薬であるかのような表現がペットフードのパッケージに記載されていたとしても、そのすべてが実験による裏付けを持っているわけではないという点です。ただ単に、商品の売り上げを伸ばすために「歯に良い」的な宣伝文句をパッケージに付けたとしても、よほどの大嘘でない限り、現行法の中では大したおとがめはありません。
 なお、良いものと悪いものが混在しがちなペットフード市場での差別化を図るため、アメリカでは「Veterinary Oral Health Council」(獣医歯科学評議会, VOHC)が、犬や猫の歯垢や歯石の管理に関し、一定の基準を満たした製品の認定を行っています。日本には同様のシステムがないため、VOHCの基準をクリアした商品をわざわざ輸入して「米国獣医師認定」として売っているようです(Greenies®など)。データによる裏付けがない製品が信用できない場合は、こうしたものをトライしてみるとよいかもしれません。またその商品が本当にVOHCの認定を受けているかどうかが不安な場合は、VOHCのホームページから真偽を確認することも可能です。 Veterinary Oral Health Council
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