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犬・猫の購入者~お金を出してペットを買える現状が衝動買いを招く

 犬や猫の購入者とは、お金を払ってペットを購入する人の事です。日本国内においては、およそ6割近くの人が、何らかの販路を通じてペットを購入していると推計されています。

犬猫購入者の現状

 購入者とは犬や猫を購入する一般人のことです。ペットショップでの店頭販売、ブリーダーからの直接販売、博覧会や車での移動販売、インターネットでの通信販売やオークションなどを通じてペットを購入します。 ペットショップの店頭で犬や猫たちを品定めする潜在顧客  環境省が公開している「移動販売・インターネット販売・オークション市場について」では、全国の犬や猫の飼い主が、一体どこからペットを入手したかのデータが示されており、平成21年度においては、「購入した」が57.1%、「譲渡してもらった」が32.7%となっています。このことから、過半数の人が何らかの形でペットを購入しているという現状が浮かび上がってきます。
犬を1頭入手する際の経路
平成21年度における、犬や猫の入手経路  さらに、犬の購入者を平成20年度だけに限定して見た場合、その入手先はペットショップが68%、ブリーダー直販が24%、通信販売が3%、ネットオークションが2%となっており、実に7割近くの人がペットショップを通じて犬を購入していることがわかります。
犬購入者の入手先(2008年度版)
平成20年度において、犬の購入者がどこから入手したか  もっと新しいデータではペットフード協会が公開している「全国犬猫飼育実態調査」が参考になります。複数回答形式ですが、2023年においては犬の入手経路が「ペットショップ=52.9%」と過半数に達しています。一方、マッチングサイトや譲渡会などを経由して入手した人の割合は両方足しても5.2%と1割にも届きません。 ペットフード協会・統計データ
犬と猫の入手先(2023年版)
2023年における犬猫の入手経路一覧グラフ
日本におけるペットの購入文化がはっきりと見て取れますね。

犬猫の衝動買い問題

 環境省が公開している「犬・猫の引取り及び負傷動物の収容状況」によると、2022年度(令和4年度)における引取り数(飼育放棄数)は、犬で2,576頭、猫で9,559頭となっています。ペットとして飼うことを決めたはずなのに、人はなぜ飼育放棄してしまうのでしょうか?その背後には、動物を飼う側の衝動買いという問題が見え隠れしています。

衝動買いの現状

 平成20年6月に公正取引委員会事務総局が公表した「ペット(犬・猫)の取引における表示に関する実態調査報告書」では、犬・猫を購入する前に比較・検討した期間が1日未満である購入者は、購入経験者のうち29.4%であり、さらにこのような購入者のうち、45.9%は何の条件も決めずに購入を決定していたと報告されています。
 これはすなわち、犬猫購入者100人中13.5人程度は、犬や猫を見て衝動的に買ってしまうということを意味します。この「13.5%」という割合を、仮に平成20年度(2008年度)における犬猫の流通量である約59万5000頭(推計「犬を殺すのは誰か」/朝日新聞出版)に当てはめて単純計算すると、全国でなんと8万頭以上の犬猫が、出会って24時間のうちに衝動的に購入されていることになります。
犬猫を購入するまでの検討期間
購入者が犬や猫を購入するまでに要した検討期間

衝動買いの原因

ペットの小売業界では「抱っこさせたら勝ち」といわれ、購買者の母性本能をくすぐり、衝動買いを促すことをよしとする風潮がある。  購入者の衝動買いをしてしまう最大の要因としては、「子犬や子猫がもつ可愛い容姿」というものが挙げられます。ペットを売る側には「生後45日までが旬」、「抱っこさせたら勝ち」という金科玉条(きんかぎょくじょう)がありますが、これは可愛さが最高潮の生後6~7週齢の子犬や子猫を店頭に並べ、お客さんにお試し抱っこをさせて「かわいい~!」と言わせたら、たいていは売り上げにつながるよ、という意味です。こうした表現が示すとおり、幼獣のもつ容姿には人をひきつける強烈な磁力があるわけです。
 子犬や子猫がコロコロとした愛しい姿は確かに魅力的です。しかし、そうした容姿を備えているのはせいぜい最初の6ヶ月に過ぎません。これは、犬や猫の一生を15年としたら、そのうちわずか3%という極めて短い期間であり、視覚化してみるとその少なさがお分かりいただけるでしょう。
一生における子犬の時期
子犬が可愛い容姿をキープしているのは、せいぜい生後6ヶ月まで  こうした3%だけの瞬発的な可愛さに目がくらみ、小売側の思惑通り母性本能をくすぐられ、残りの97%の期間をよく考えないまま購入してしまった結果、飼育放棄という最悪の選択肢を選んでしまう飼い主が、残念ながら一部にはいます。飼育費用、犬の問題行動、老化などの現実的な負担を、たった1日で全てシミュレーションしきることなどできません。
こうした現実を頭の中で十分に吟味しないまま衝動買いしてしまうというのは、購入者側の大きな問題点と言えるでしょう。

販売側の不適切な説明

 平成12年12月に改正「動物の愛護及び管理に関する法律」が施行され、動物販売業者の説明責務が加わりました。動物愛護法施行規則第8条で18項目にわたる説明事項が規定され、環境省も「ペット動物販売業者用説明マニュアル」という形で購入者に対する適切な説明の重要性を強調しています。
ペット動物販売業者用説明マニュアル
  • 動物購入者が種類や品種を選ぶために必要な情報
  • 終生飼養を確保するために必要な情報
  • 適正飼養を確保するために必要な情報
  • 所有の明示
  • 繁殖制限に関する情報
  • 人と動物の共通感染症の予防に必要な情報
  • 逸走と危害の発生を防止するために必要な情報
  • 生物多様性保全の見地から必要な情報

事前説明の現状

 環境省が公開している「移動販売・インターネット販売・オークション市場について」では、平成18年度におけるペット購入時の事前説明(口頭と文書による説明)の実施率は約44%で、全国ペット協会加盟店舗では約89%という数字が出されています。
 また事前説明を受けた長さに関しては、購入者アンケートにおいて10分未満が31.5%、10~30分未満が42.5%というデータが出ており、30分未満で75%近い割合を占めていることが明らかになっています。下のグラフ中、青が購入者側の回答、赤が販売者側の回答です。
事前説明を受けた(行った)長さ
事前説明を受けた長さ・購入者と販売者からのアンケート結果

事前説明の効果・影響

 事前説明の有無が、購入者の購買意欲を大きく左右するようです。
 「移動販売・インターネット販売・オークション市場について」では、事前説明による効果や影響をアンケート調査しており、その中で「(事前説明により)顧客の安易な購入や不適切な飼い方などが減った」という項目が27.9%という高い数値を示しています。この数値は、十分な時間を掛けて必要事項を説明すれば、「そんなに面倒なら買うのはもう少し先にしようかな…」と翻意してくれる購入者が潜在的に相当数いるということを意味しています。
事前説明による効果や影響
販売者の購入者に対する事前説明が及ぼす影響一覧
  • 1:販売トラブルが減った=30.7%
  • 2:苦情が減った=25.7%
  • 3:返品が減った=15.7%
  • 4:安易な購入や不適切な買い方が減った=27.9%
  • 5:販売数が伸びた=5.0%
  • 6:販売数が減った=7.1%
  • 7:負担が大きい=14.3%
  • 8:顧客に面倒がられる=23.6%
  • 9:特に変化なし=42.5%
  • 10:その他=3.6%
 生涯にかかる費用、災害時の対策、迷子にしない方法、夏場の注意、しつけの仕方、健康チェックの方法、被毛や歯、爪切りなど手入れの仕方、散歩の仕方、老齢になったときの介護など、多岐に渡る情報をしっかりと時間を掛けて説明すれば、データが示すとおり、安易な購入者が減ってくれるものと思われます。しかし逆に、忙しさにかまけて事前説明をおざなりにしてしまうと、衝動買いに対する抑制力が弱まり、犬や猫が「うんちやおしっこをする生き物」であることを十分理解しないまま購入に踏み切ってしまう人が出てくることでしょう。

不適切な説明

 国民生活センターが公開している「ペット購入時のトラブルの実態と問題点」では、「チワワを飼っても人間にはアレルギーが出にくいから大丈夫」「マンション住まいでもほとんどの人が家主に内緒で飼っている。人が来たら隠せばいい」「今買わないとすぐに売れてしまう」など、購入者の衝動買いをあおるような悪質なセールストークの例が散見されます。
 本来力を入れるべき事前説明の代わりに、こうしたあおり文句に力を入れているような一部の店舗が、安易な購入とその結果としてのニグレクト(適正な飼育を行わない)・飼育放棄を助長しているということは確かでしょう。上記したような不適切な説明をする販売側に問題があることは当然です。しかしそうした販売側の謳い文句に乗せられ、勢いで生き物を生活に迎え入れてしまう購入側にも、同程度の問題があります。
ひとりひとりが犬の殺処分の現状を把握し、日本に根強くはびこっている「犬猫の購入文化」を覆していかなければならないでしょう。ペットショップで犬を買う前にペットショップで猫を買う前に