トップ愛犬家の基本ノーキルへの道ノーキルのモデルケース

ノーキルのモデルケース

 海外には、保護した犬や猫を可能な限り殺さない「ノーキル」を実践している団体が数多くあり、殺処分数減少のために貢献しています。わが国においても参考にすべき部分が多々あるため、その活動内容を具体的に見てみましょう。

アメリカにおける実践団体

 アメリカでは1990年代後半から「ノーキル」を実践する団体が徐々に増えてきました。以下は、殺処分数減少のために一役買っている、代表的な動物愛護団体です。

SFSPCA

 「サンフランシスコ動物虐待防止協会」(San Francisco Society for the Prevention of Cruelty to Animals, SFSPCA)は、1868年に創立された、全米で4番目に古い動物愛護協会です。マーケットに無理矢理引きずられていくオスブタの姿に心を痛めた銀行家ジェームズ・スローン・ハッチンソンと、15人の同志によって設立されました。
 SFSPCAは、「ノーキルポリシー」の先駆者リチャード・アヴァンジーノ氏が長らく代表を務めていた(1976~1998)ことで有名です。彼は1994年、保護した犬猫のうち「健全とみなされるものに関しては殺処分せず、引き取りが決まるまでずっと保護し続ける」という、「縁組保証」(adoption guarantee)というシステムをアメリカ国内で初めて採用し、「ノーキル」の原型を作ったことで知られています。彼の作り出したこの動きは、カリフォルニア州内における動物3法(ヴィンセント法・コップ法・ヘイデン法)の制定に貢献し、さらに他の州に対しても強い影響力を発揮しました。
 彼は1998年、動物の保護施設である「Maddie's Pet Adoption Center」の開設にも一役買い、暗くて悲壮感にあふれていた従来のアニマルシェルターのイメージを、明るくて居心地の良いものに一変させました。犬や猫をケージで管理するのではなく、開放的な空間に収容するというこの斬新なスタイルは、後に多くのシェルターがお手本にすることとなります。
 アヴァンジーノ氏は1999年、「マディー基金」の設立者であるデイヴィッド・ダッフィールド氏にスカウトされ、同基金の初代社長の座に就きましたが、SFSPCAでは彼の志を受け継ぎ、「ノーキル国家」を実現するための様々な活動を続けています。
 同団体が行っている殺処分数減少のための具体的な方策は以下です。 SF SPCA:Vision 2020
SFSPCAの活動内容
  • 早期における無料もしくは低価格の不妊手術
  • 犬や猫の飼育に関する知識の普及
  • 無料もしくは低価格の医療サービス
  • 野良猫に対するTNR
  • 犬猫が新しい家庭にもらわれていった後のフォロー
  • パピーミルをはじめとする犬や猫の流通過程を明らかにし、消費者の意識を変革する
  • 問題行動トレーニング
  • 養子縁組のスクリーニング・マッチングシステム
  • メディアやイベントを通じた啓蒙活動
  • 子どもに対する動物愛護教育
  • アニマルセラピーの普及
 2009年には「The Leanne B. Roberts Animal Care Center」が開設されました。このセンターは、賛同した人々からの寄付で運営されている非営利組織で、その内部にあるSFSPCA動物病院では、医療サービス、不妊手術、野良猫の頭数コントロール、養子縁組プログラムなどを提供しています。

NSAL

 「ノースショアアニマルリーグアメリカ」(North Shore Animal League America, NSALA)は、ニューヨーク州ポートワシントンに本部を持つ世界最大のノーキル団体です。
 1944年に設立された当初は、フェンス付のドッグランとガレージしか持たない小さな動物愛護団体でした。その後1960年代に入り、熱心な支持者であったエリザベス・ルーイットと、発明家であり実業家でもあった夫のアレックス・ルーイットが参加したことによって組織が飛躍的に拡大し、多くのレスキュー団体がその傘下に入るようになりました。1969年、ルーイット氏を代表とした「North Shore Animal League America」が誕生し、ノーキルポリシーの先駆者として数多くの革新を成し遂げています。
 NSALAが殺処分数減少のために行っている具体的な方策は以下です。 NSAL
NSALAの活動内容
  • ペットショップから動物を買おうとする人々を減らすためシェルターを広告する
  • 移動式養子縁組ユニットの導入
  • 「Pet Adoptathon®」という里親募集促進イベント
  • 「Tour for Life®」という養子縁組を促進して全国を回るツアー
  • 「Adopt-A-Pet.com」という養子縁組サイト
  • 「SPAY/USA」という不妊手術促進プログラム
  • 「Mutt-i-grees® Movement」というミックス種の地位向上イベント
  • 「Mutt-i-grees® Curriculum」という教育プログラム
 またNSALAは「Alex Lewyt Veterinary Medical Center」を運営しており、24時間体制で医療サービスを提供しています。ここでは年間1万人の外来患者を受け付け、1万5千件に及ぶ不妊手術を施しています。

HSUS

 「アメリカ動物愛護協会」(Humane Society of the United States, HSUS)は、1954年、ジャーナリストであるフレッド・マイヤーズらがワシントンD.C.に設立した慈善団体です。
 この団体は、苦痛や恐怖を与えるような動物の利用全般に反対しており、工場型の畜産、動物同士を戦わせる事、毛皮の取引、パピーミル、野生動物への虐待などを最優先課題として捕らえています。
 HSUSの名を広く世に知らしめたのは、ライフ誌と共同で行った「犬取引業界の暴露」でしょう。1961年、組織の調査員であるフランク・マクマホンが犬の取引において日常化している虐待行為を5年間に渡って覆面捜査し、1966年、ライフ誌上でその調査内容を写真付きで紹介しました。ガリガリにやせ細った犬たちが、狭い空間に詰め込まれているというその写真は、一般大衆の怒りに火をつけ、議会に対して法律の改正を求めるという騒動にまで発展しました。その結果アメリカ合衆国議会は、「動物福祉法1966」(Animal Welfare Act of 1966)の前身となる「Laboratory Animal Welfare Act」を制定するに至っています。
 HSUSの活動は多岐に渡りますが、犬や猫に関わるものだけをピックアップすると、以下のようなものがあります。 HSUS
HSUSの活動
  • サンクチュアリの運営 カリフォルニア州、フロリダ州、オレゴン州、テキサス州において、合計5つの「サンクチュアリ」(動物の生涯飼育保証施設)を運営。
  • 動物愛護教育 1960年代から学校において動物愛護に関する教育を行っている。
  • 雑誌の無料配布 シェルターを運営している人々に対して、「Animal Sheltering」と呼ばれる隔月発行の雑誌を無料配布。その部数は2009年時点で45万部。
  • 無料医療サービス 貧困層を対象として、「Humane Society Veterinary Medical Association」が無料で医療サービスを提供。
  • 表彰 1986年から毎年、動物問題に対する一般大衆の関心を高めた人に対し「Genesis Awards」を授与。
  • 募金 組織の予算内1%をシェルターに寄付。
  • ロビー活動 パピーミル撲滅のため、インディアナ、ミズーリ、オクラホマ、ペンシルヴェニア、テキサスなどでロビー活動(政治への働きかけ)をし、法律の制定に尽力。
  • TNR活動 2006年以降、野良猫に不妊手術を施して元の生息域に戻す「TNR活動」に対する態度を軟化させ、協力する姿勢を示す。
 直近では2009年、ペットショップ大手の「Petland」を「パピーミルから多くのペットを仕入れている」として告発したケースがあります。HSUSの訴えに対しPetland側は「資金集めのための単なる話題づくりだろ!」と反論。結局この訴えは棄却されましたが、パピーミル問題に対する一般大衆の関心を集めるということが本来の目的であったならば、ある程度成功しているといえるでしょう。

ASPCA

 「アメリカ動物虐待防止協会」(American Society for the Prevention of Cruelty to Animals, ASPCA)は、1866年4月10日、ヘンリー・バーグによってニューヨークに設立されました。設立から9日後の4月19日には、動物虐待禁止法案が市で可決され、ASPCAにその執行権が与えられています。
 当初は馬や家畜動物に対する虐待や不当な扱いを是正することに力点を置いていましたが、1900年代に入ると、犬や猫などの小動物にまで守備範囲を広げています。
 ASPCAは1894年から1994年に至るまでの100年間、行き場のない動物の殺処分を行う「キルシェルター」としての役割を担ってきました。しかし1993年、この業務はもはや大衆の理解を得られないとして、ニューヨーク市との契約を打ち切り、団体の本来の目的である動物愛護や啓蒙の方に軸足を移しています。なおこの方向転換は、ニューヨークにおける動物の殺処分がなくなったことを意味しているわけでありません。1995年から同業務は「Animal Care and Control」(ACC)に移管されています。
 ASPCAが行っている主な活動内容は以下です。 ASPCA
ASPCAの活動
  • 動物のための24時間体制のホットライン
  • プロによる無料のしつけアドバイス
  • 専任獣医師の配備
  • 低所得者層向けの移動式不妊手術クリニック
  • ペットロスに対する心理的サポートサービス
  • 動物虐待の監視
 最後に挙げた「動物虐待の監視」は、いわゆる「アニマルポリス」と呼ばれる人たちの役割です。アニマルポリスとは、動物虐待を専門に監視し、場合によっては立ち入り調査を行う人の事を指します。アメリカのTVチャンネル「Animal Planet」が「Animal Cops」というタイトルでドキュメンタリー番組を放映したことから知名度が高まりました。
 誤解を避けるために解説すると、アニマルポリスと呼ばれる人たちは、アメリカ全土にいるわけではなく、ニューヨーク州など法律によって執行権を保証された州にだけいる限局的な存在です。捜査権が認められていない州において動物虐待を取り締まるのは、日本同様、普通の警察官です。

マディー基金

 「マディー基金」(Maddie's Fund)とは、アメリカの億万長者、デイヴィッドとシェリルのダッフィールド夫妻が設立した基金のことです。
 アメリカのソフトウェア企業「ピープルソフト」(PeopleSoft, Inc.)の創業者であるデイヴィッド・ダッフィールド氏は破産寸前だった頃、ペットだったミニチュアシュナウザーの「マディー」(Maddie)に対し、「お金持ちになったら、たくさんの動物たちを幸せにすることで君の愛にお返しをするからね」という誓いを立てていました。事業の成功により大金持ちになった彼は1994年、約束通り「Duffield Family Foundation」を設立。1997年にマディが天国に召された後は、名称を現在の「マディー基金」に改め、シェルターに収容された身寄りのない動物たちのために、莫大な金額を寄付しています。1999年からは、長年サンフランシスコSPCAの代表を務めたリチャード・アバンジーノを社長に迎え入れ、「ノーキル国家」実現のための様々な補助プログラムを実施しています。2011年度の実績だけ見ると、補助金の対象となったのは238の動物福祉団体、69の動物病院、9の大学などで、総額は1,200万ドル(約12億円)以上という莫大なものです。
 マディー基金が具体的に行ってる活動内容には以下のようなものがあります。 Maddie's Fund
マディー基金の活動
  • The Shelter Pet Project  HSUSやAdCouncilと協働した、ノーキル運動促進のための広告活動。
  • Treatable Assistance Program 怪我をしていたり年老いた野良犬や野良猫に対する特別補助プログラム。
  • Medical Equipment Grants  特定の条件を満たした団体が、医療機器を新たに購入する際の補助。
  • Maddie's Pet Adoption Days 優秀なシェルターを表彰して補助金を与える。
  • Maddie's Institute 学術的な研究を行い、シェルタースタッフのみならず一般の飼い主に対しても動物に関する最先端の知識を提供する。
  • Colleges of Veterinary Medicine 獣医学校におけるシェルターメディシン専門カリキュラムのサポート。
 最後に挙げた「シェルターメディシン」(Shelter Medicine)とは、犬や猫を大量に保護する施設内における医療のことです。動物が一箇所に密集することで生じるさまざまなリスクを回避し、心身ともに健康な動物を1頭でも多く譲渡することを目的としています。研究が始まったのは2001年とつい最近ですが、現在ではカルフォルニア州立大学デイビス校を始め、コーネル大学、フロリダ大学、コロラド大学等にも学部が設けられています。 The UC Davis Koret Shelter Medicine Program
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ヨーロッパの実践団体

 ヨーロッパでは数十年も前から「ノーキル」という考え方にのっとった動物愛護が行われています。以下は、モデルケースとして日本でも紹介されることの多い、イギリスとドイツにおける事例です。

RSPCA

 「RSPCA」の正式名称は「The Royal Society for the Prevention of Cruelty to Animals」で、日本語では「英国動物虐待防止協会」と訳されます。設立されたのは1824年のロンドンで、その時の会員はわずか22名でした。1840年にヴィクトリア女王の認可が下りてからは団体名に「Royal」がつき、現在の「RSPCA」と名乗るようになっています。
 ロビー活動(政治家の働きかけ)に熱心で、1835年の「動物虐待防止法」、1876年の「動物実験統制法」、1911年の「動物保護法」などの成立に影響を及ぼしました。近年では2006年の「動物福祉法」の成立にも関わっています。
 「RSPCA」は管轄を5つの「地区」(Region)に分割し、さらにその下に「グループ」(Group)というサブクラスを設けて効率的に活動しています。活動の拠点となる主な機関は以下です。 RSPCA
RSPCAの構成機関
  • ナショナルコントロールセンター 一般市民の中にいるメンバーから通報を受け取り、最寄りの調査員に調査依頼を出す。
  • RSPCAセンター 様々なケガや病気をもつペットや家畜動物の世話をする。ボランティアをつのり、動物にとって一番よいと思われる環境作りや飼い主探しに取り組んでいる。
  • 野生動物センター 4つ所有しており、病気、ケガ、迷いこんだ野生動物を世話し、元の環境に無事もどることができるように取り組んでいる。
  • 病院 バーミンガム、クレーターマンチェスター、パトニー、ハロウェイ等で医療サービスを行う。
  • 支所 支所は英国内、ウェールズなど各地に存在し、ボランティアによって支所毎に地域レベルで動作している。
 2012年度で、イギリスとウェールズに37のクリニックと3つの移動クリニック、および166の支所を有しています。受け付けた電話相談の総数は1,163,428件に及び、そのうち150,833件の実地調査を行いました。総収入は1億3200万ポンド(22億7800万円)で、総支出は1億2100万ポンド(20億8400万円)です。その他の細かな実績は以下。 Facts and figures
RSPCAの実績(2012)
  • 調査員=270名
  • 調査員指導官=22名
  • 動物福祉員(AWOs)=64名
  • 動物保護員(ACOs)=71名
  • 動物の保護件数=194,695匹
  • 里親への送り出し=55,459匹
  • マイクロチップを装着 =58,922匹
  • 動物虐待裁判=4,168件

ドッグトラスト

 「ドッグトラスト」(Dog Trust)は、1891年に創立されたイギリスの慈善団体です。かつての名称は「National Canine Defence League」でしたが、2003年からは現在名に改称しています。支援の対象を犬に限定している点が大きな特徴です。スローガンは「犬はクリスマスのためではなく、人生を豊かにするために存在している」、「ドッグトラストは、決して健康な犬を殺さない」です。こうしたスローガンを実現するため、団体では主に以下のような活動を行っています。 Dog Trust
ドッグトラストの活動内容
  • 捨てられた犬の再トレーニング
  • 里親探し(リホーミング)
  • マイクロチップの普及
  • 不妊手術の実施
  • 断尾や不要な安楽死への抗議運動
  • クルーエルティフリードッグの推薦
  • チャリティイベントの開催
クルーエルティフリードッグ
 「クルーエルティフリードッグ」(cruelty-free dog)とは、「虐待のない環境で生み出された犬」のことです。動物の福祉を無視した環境で大量繁殖させる「パピーミル」や「バッテリファーミング」に対抗する考え方として生み出されました。
 上記した活動が実際に行われるのは、イギリスとアイルランドに合計18ある「リホーミングセンター」においてです。その他「ドッグモバイル」(Dogmobiles)と呼ばれる移動式ユニットが出動することもあります。2012年度における実績は以下です。 Annual Report 2012
DogTrustの実績(2012)
  • 収入=約7,200万ポンド(約123億円)
  • 支出=約6,520万ポンド(約112億円)
  • 引き取り=16,879匹
  • 里親決定=14,825匹(87.8%)
  • 迷子の返還=202匹(0.01%)
  • 死亡・安楽死=199匹(0.01%)
 「健康な犬は決して殺さない」というスローガンを実践するため、里子に出すことが適さないと判断された犬をスポンサーシステムを通じて養ったり、人間が苦手な犬をソールズベリーにあるサンクチュアリに送り、人と接触することがない環境で養ったりしています。
犬のスポンサーシステム
 スポンサーシステムとは、里子に出すことが適さないと判断された犬を養うための「あしながおじさん」システムのことです。ネット上で特定の犬を選び、必要な情報を登録するだけで、簡単に支援金を寄付することができます。Sponsor a Dog

ティアハイム

 ティアハイム(Tierheim)とはドイツ国内にある動物保護施設の総称です。「Tier」は「動物」、「heim」は「家」を意味します。ドイツにおける保護施設の歴史は古く、1800年代中ごろには、すでに原型が出来上がっていました。
 中でも最大のものが首都ベルリンにあるに「ティアハイム・ベルリン」で、総面積16万平方メートル(サッカーフィールド38面分)の広大な敷地内に、約1,500匹の動物が暮らしています。
 引き取った動物を無条件で保護し続ける「サンクチュアリ」ではなく、分類上はいわゆる「ノーキルシェルター」です。よって、死期が近い病気を持っていたり、攻撃性を始めとする極度の行動障害を持っている動物に関しては、安楽死の対象となります。一方、性格面や健康面において問題ないと判断された動物に関しては、里親が見つかるまで半永久的に保護されます。
 施設にかかる一日の経費は約1,100~1,900ユーロ(約15~27万円)で、そのほとんどを1万5千人いる会員からの寄付金によって賄われるといいます。
 2005年の統計によると、このティアハイム・ベルリンに収容された動物の合計は10,138匹で、養子縁組率は約98%とのこと。具体的には1,781頭の犬、4,713匹の猫、2,591匹のウサギやラットなど小動物、621羽の鳥、140匹の爬虫類が新しい家族の元へ引き取られていきました。
 規模はベルリンに及ばないものの、同様の団体は全国で1,500以上あるといいます。日本でも動物保護施設のモデルケースとして紹介される機会が多くなってきました。 Tierschutzverein SankeiBiz dog actually
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