トップ愛犬家の基本ノーキルへの道日本の行政とノーキル

日本の行政とノーキル

 殺処分大国アメリカでは、1990年代後半から広がり始めたノーキル運動とその実践団体により、徐々に処分数を減らしつつあります。一方、日本の行政でも近年、少しずつそのポリシーが浸透してきました。

国による動物愛護法の改正

 ノーキルに対する行政の動きの中で最もスケールが大きいのは、国による「動物愛護法の改正」です。適用範囲は日本全国ですので、一番大きな影響力を持つと言ってよいでしょう。最近のものでは、2012年6月から「動物の愛護及び管理に関する法律施行規則の一部を改正する省令等」が施行され、翌2013年9月からは「動物の愛護及び管理に関する法律の一部を改正する法律」が施行されています。両法の要点は以下です。
2012年改正部分
  • 夜間展示規制 販売業者、展示業者、貸出業者による動物の展示時間が、午前8時から午後8時までの12時間に制限されました。
  • 競りあっせん業者 オークション会場の主催者が繁殖業者を監視し、販売に伴う説明義務が果たされているかどうかを確認することが規定されました。また会場に運び込まれた動物に関し、伝染性の病気が広がらないよう、個々に保管する努力義務が明示されました。2012年度改正部分
2013年改正部分
  • 適正飼養の明確化 「動物愛護法の基本原則」に「何人も(中略)、適切な給餌及び給水、必要な健康の管理並びにその動物の種類、習性等を考慮した飼養または保管を行うための環境の確保を行わなければならない」という一文が追加され、特に太字の部分が明文化されました。
  • 販売業者の説明責務強化 「動物販売業者の責務」に「動物の販売を業として行うものは(中略)、購入者に理解されるために必要な方法及び程度により、説明を行うよう努めなければならないという一文が追加されました。
  • 動物取扱業 第3章「動物の適正な取扱い」において、従来の「動物取扱業」が「第一種動物取扱業」と「第二種動物取扱業」に細分され、それぞれの義務が明確化されました。
  • 犬猫の引き取り 第4章「都道府県等の措置」において、「犬猫等販売業者から引取りを求められた場合や、引取りを求める相当の理由が無いと認められる場合、引取りを拒否できる」という一文が追加されました。
  • 返還・譲渡の促進 第4章「都道府県等の措置」において、「都道府県知事等は、犬または猫について、殺処分がなくなることを目指し、返還・里親募集するよう努めるべし」という一文が追加されました。
  • 獣医師による通報規定 第5章「雑則」において「獣医師は、その業務を行うに当たり、みだりに殺されたり虐待を受けたと思われる動物を発見したときは、関係機関に通報するよう努めなければならない」という一文が追加されました。2013年度改正部分
 このように、「犬猫の流通量を減らす」、「飼育放棄・遺棄を減らす」、「養子縁組を増やす」ことを促進するような法改正がなされています。もちろんまだ完璧とは言えませんが、日本のペット産業を分析して問題点を見つけ、さらなる修正を加えていけば、 平成28年度(2016)時点でおよそ5万5千頭に及ぶ殺処分数を、今後より少なくすることができるでしょう。
日本の殺処分推移グラフ
日本における犬猫殺処分推移グラフ(1989~2012年) 全国の犬・猫の殺処分数の推移
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地方による動物愛護センターの変革

 日本の各都道府県には、保健所や動物愛護センターといった施設が置かれています。こうした地方の施設においても殺処分減少に向けての取り組みが目立つようになってきました。

熊本市動物愛護センター

 早い段階から殺処分減少に対する取り組みを行っていたことで有名なのは、熊本市動物愛護センターです。通称「熊本方式」と呼ばれる方法により2001年度に567匹だった犬の殺処分数を、2009年度の時点で1匹にまで減らしたという実績があります。「熊本方式」の具体的な内容は以下です。
熊本方式
  • 避妊・去勢手術に同意した希望者にのみ譲渡する
  • 犬の迷子札装着率を高める「迷子札運動」
  • 引き取り希望者に対する我慢強い説得
  • 動物愛護推進協議会との協力体制
 2010年に熊本市動物愛護推進協議会が「日本動物大賞を受賞」してからは、この「熊本方式」を学ぼうと、毎年全国の自治体が視察に訪れるといいます。 殺処分ゼロ

その他の動物愛護センター

 上記熊本市動物センターの功績は、殺処分数を限りなくゼロに近づけたということです。しかしそれよりも大きな功績は、殺処分数を限りなくゼロに近づけたことにより、他の自治体もマネせざるを得なくなったという空気を、日本全国に作り出したことでしょう。
 一度こうした実績が残されると、各地方自治体の市民は「熊本市にはできたのに、なぜうちのセンターではできないのか?」という声をあげるようになります。こうした市民の声はやがて保健所やセンター職員へのプレッシャーとなり、今まで単なる「努力義務」として軽視されていたものものが、次第に「義務」として考え直されるようになります。
 例えば以下に紹介する事例は、こうした意識変革の結果生まれたものだと考えられます。
北海道の網走保健所
 北海道の網走保健所が2013年度に殺処分した猫が初めてゼロとなった。同保健所は2011年度以降、引っ越しや高齢者施設への入所を理由にペットの引き取りを求める飼い主に対し、ペット可の物件探しや譲渡先の探し方を提案。さらに保護した犬猫の写真を掲載するホームページを開設したり、スーパーや動物病院にポスターを掲示するなどして情報発信を強化してきた。その結果、2011年度には犬5匹、猫12匹だった殺処分数が、2013年度は犬1匹、猫0匹となり、記録の残る2002年度以降初めて「猫の殺処分ゼロ」という偉業を成し遂げた(北海道新聞)。
 このように「努力義務」を「義務」としてしっかりと遂行することにより、「殺処分ゼロ」という今まで不可能と考えていた目標も、場合によっては実現可能になるのです。熊本市の残した先例は、こうした意識改革のきっかけになったという観点から、非常に大きな意味を持っています。
 また日本全国を調べると、熊本方式に感化されて意識変革を行ったと思われる事例が数多く見られます(カッコ内は新聞による報道年月日)。
熊本方式による殺処分減少事例
  • 福岡県 福岡県は、2010年度の犬・猫殺処分数が前年度比約26%減の8,817匹となり、2005年から5年連続維持していた「殺処分数全国ワーストワン」という汚名を返上した(2012.5.23)。
  • 愛知県 安易な飼育放棄を減らすために犬猫引取りを有料化していた愛知県では、県施設における引取り数が前年比で2,000匹以上減少するという成果を挙げた(2012.5.22)。
  • 群馬県 群馬県・高崎市で2011年度に殺処分された犬と猫の数が、前年度比で約8割も減少した(2012.6.25)。
  • 埼玉県 2011年度、埼玉県内で殺処分した犬猫の数は前年度比651匹減の4,367匹となり、県が進める動物愛護管理推進計画の目標を6年早く達成した(2012.12.24)。
  • 岡山県 岡山市保健所では、引取りを希望する飼い主への説得や指導を強化したことにより、殺処分数の大幅減に成功した(2013.4.3)。
  • 長野県 2012年度における長野市保健所の殺処分率が、全国の政令指定都市・中核市計107の中で最低となる「9.25%」であることが明らかとなった(2014.2.22)。
  • 神奈川県 神奈川県平塚市にある「神奈川県動物保護センター」は2013年度、1972年の開設以来初めてとなる、「犬の殺処分ゼロ」を達成した(2014.4.19)。
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その他行政の動き

 以下でご紹介するのは、日本全国の地方自治体によって行われている、殺処分減少のための活動例です。国が施行した「動物愛護法」や熊本市からの無言のプレッシャーを受け、ノーキルに向けた細かな活動が各地で見られるようになってきています。こうした動きは2014年より、環境省のホームページ内に設けられた「人と動物が幸せに暮らす社会の実現プロジェクト」というコーナーでも確認できるようになりました。

飼育放棄・遺棄を減らすための動き

 以下は、飼い主によるペットの飼育放棄や遺棄、および迷子の件数を減らすための活動です。
飼育放棄・遺棄を減らす活動
  • 迷子札の普及静岡県東部で迷子札ホルダーを、ペット登録や予防注射の際に無料配布
  • マイクロチップへの助成神奈川県横浜市と市獣医師会がマイクロチップ装着に助成金を出す
  • 猫室内飼育の努力義務茨城県の動物愛護条例が、猫は極力室内で飼育することを明記
  • 多頭飼育に対する規制埼玉県が犬や猫を10匹以上飼育する場合、県への届出を義務化/新潟市の「動物愛護管理条例」が犬や猫を10匹以上飼育する場合、市へ届け出ることを義務付け
  • 地域猫活動名古屋市が、地域猫活動を促進する「なごやかキャット推進事業」を開始
  • 引き取り有料化広島市動物管理センターや愛知県の名古屋、豊田、岡崎、豊橋の4市でペットの引き取りの有料化を開始
  • 不妊手術の補助千葉県や和歌山県田辺市などが、猫の不妊手術に助成金を出す

養子縁組を増やすための動き

 以下は、保護した犬や猫を新しい里親の元に送り出す「養子縁組」を増やすための活動です。
養子縁組を増やす活動
  • 里親会の開催回数を増やす神戸市動物管理センターが譲渡会の開催回数を従来の隔月から毎月に変更/長野市保健所が、年1回だった犬猫譲渡会を毎月開催に変更
  • 猫の里親募集を開始する神戸市動物管理センターが猫の譲渡制度を開始/三重県動物愛護管理センターが猫の譲渡制度を開始
  • ノーキルシェルターの建設熊本市が犬猫のための専用施設「愛護棟」を建設/岐阜県で犬猫の譲渡促進を図る「岐阜県動物愛護センター」が新規オープン
  • 啓蒙普及茨城県動物指導センターが殺処分前の犬が収容されている犬舎の見学会を開催

その他の動き

 その他、動物の福祉を向上させることを目的とした活動です。
動物の福祉を向上させる活動
  • ガスから安楽死へ切り替え京都府と京都市が、犬猫の殺処分方法を従来の「炭酸ガス」から、より苦痛の少ない「麻酔薬注射」に切り替える方針を固める
  • 動物虐待の通報システム兵庫県警生活経済課が、動物虐待の相談電話「アニマルポリス・ホットライン」の試験運用を開始
  • 運搬車のグレードアップ群馬県が、捨て犬や捨て猫を施設へ運ぶためのトラックを、空調設備つきのものにグレードアップ
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