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犬がウンチを食べてしまう食糞行動は市販の防止剤では治らない

 食糞行動を示す犬を対象とした大規模な調査により、この行為は狼から受け継いだ本能的なものであり、市販の防止剤ではなかなか太刀打ちできないことが明らかになりました(2018.1.16/アメリカ)。

詳細

 調査を行ったのは「Dr.ハートの動物行動学入門」でお馴染みのベンジャミン・L・ハート氏。2010年から2011年の期間、北米に暮らす犬の飼い主を対象とし、犬が自分もしくは他の犬のウンチを食べてしまう「食糞行動」(coprophagia)に関する2段階のアンケート調査を行いました。第一調査の目的は、犬全体の中で食糞行動がどの程度の頻度で見られるのかを明らかにすること。第二調査の目的は食糞行動を示す犬の特性、行動の原因、効果的な予防法を明らかにすることです。主な結果は以下。
The paradox of canine conspecific coprophagy.
Hart, B. L., Hart, L. A., Thigpen, A. P., Tran, A. and Bain, M. A. (2018), Vet Med Sci. doi:10.1002/vms3.92

第1アンケート調査

 犬が食糞行動を見せるかどうかは無関係にアンケート調査を行い、1,552人(アメリカ89.8%+カナダ5.1%+その他)から回答を得ました。そこから子犬の糞便をきれいにする習性を持つ母犬を除外し、残った1,441頭がデータ解析の対象となりました。 北米に暮らす犬のおよそ25%は最低1回食糞行動を見せる
  • 1度も見たことがない=76.9%(1,108)
  • 1~5回=7.1%(103)
  • 6~9回=3.3%(47)
  • 10回以上=12.7%(183)
 統計的に見たとき、食糞行動の増減と関係がないと判断された項目は「性別」「不妊手術のステータス」「年齢」「母犬との離乳時期」「トイレのしつけが簡単かどうか(糞便への忌避があるか)」「強迫的な行動の有無(分離不安・攻撃行動・破壊行動・無駄吠え)」「フードの種類」です。これらの項目は「食糞がある犬」と「食糞がない犬」との間で明確な格差は確認されませんでした。 犬の性別・不妊手術ステータスと食糞行動の増減は統計的に無関係
  • 未手術オス~10.2% vs 6.1%
  • 手術済オス~41.3% vs 45.2%
  • 未手術メス~7.8% vs 7.0%
  • 手術済メス~40.7% vs 41.7%
犬の年齢・離乳時期と食糞行動の増減は統計的に無関係
  • 1歳未満~3.2% vs 1.7%
  • 4歳以上~69.7% vs 75.1%
  • 7週齢で離乳~49.7% vs 59.1%
フードタイプと食糞行動の増減は統計的に無関係
  • トイレのしつけが簡単~82.0% vs 78.0%
  • 強迫的な行動~2.9% vs 3.5%
  • ドライフード~78.3% vs 82.3%
 一方、食糞行動の頻度上昇と関係がある項目としては、以下のようなものが上がってきました。
食糞頻度との関連因子
  • 食への執着が強い(食いしん坊)
  • AKCの分類でテリアとハウンドグループ
  • シェルティ(27頭中41%)
  • 飼育頭数が2頭以上
  • 土や猫の糞を食べる

第2アンケート調査

 第2アンケート調査では、犬が10回以上食糞行動を見せ、なおかつ毎週1回以上の頻度で見せる「ヘビーイーター」(1,475頭)が解析対象となりました。「毎日見せる」が62%、「週に1回見せる」が38%という内訳です。
 第1アンケート調査の結果と比較したとき、「トイレのしつけが簡単」(74%)、「食いしん坊」(52%)といった項目に格差は見られませんでした。また飼い主が行動の対策として用いた方法は以下です。カッコ内は大まかな成功率を示しています。
飼い主による食糞対策と成功率
  • 犬を糞から遠ざける=1,048(1~2%)
  • 忌避剤(とうがらし)=295(1~2%)
  • 電気 or 騒音カラー=56(1~2%)
  • おあずけ=424(4%)
 さらに市販されている11種の食糞予防添加剤に関する有効性の調査も併せて行われました。1つの製品につき6~352人の飼い主が試した経験があり、成功率は0~2%でした。

解説

 今回の調査は中~大型犬の飼育比率が高い北米で行われたものですので、食糞の発生率およそ25%という結果をそのまま日本に置き換えることはできないでしょう。
 犬の食糞行動に関しハート氏は、祖先である狼から受け継いだ生得的行動パターンの一種ではないかと推測しています。狼の糞便中に含まれる寄生虫には蠕虫、線虫、回虫といったものがあり、早ければ体の外に出てから48時間で他の個体に移る感染能を獲得すると言います。そして狼の生態に関する権威デーヴィッド・ミーク氏(L. David Mech)に確認を取ったところ、この行動だけに着目した生態調査は無いものの、狼が自分の糞を食べるという行為は珍しいことでは無いという回答を得たとのこと。
 犬と狼の行動原理が同じである場合、病原体を含む排泄物をとっとと食べてしまうことで寝床やその近辺をきれいにし、他の個体に寄生虫が移ってしまうのを予防しているという可能性が考えられます。およそ85%においては出されてから2日以内の新鮮な糞がターゲットになったという事実もこの仮説を裏付けています。しかし、回数を度外視して食糞行動を見たときの割合が最大でも25%程度ですから、すべての犬に備わったパターンというわけではないようです。 オオカミが自分の排泄物を食べるのは寝床の衛生管理かもしれない  興味深いのは、飼い主が行った対処法の成功率の低さです。糞にペッパーを振りかけるとかショックカラーを用いるといった強い刺激を与えたとしても、犬の衝動を抑えることはできませんでした。他の方法に比べわずかに成功率が高かったのは「おあずけ」です。おそらく目の前にご褒美を見せて犬の気を床から逸らしているものと考えられます。自分のウンチと肉の欠片が目の前にあった場合、さすがに自分の排泄物を選ぶ犬はいないのでしょう。 犬の拾い食いをしつけ直す  さらに、犬に食べさせるもしくは犬の糞に振りかけるタイプの市販の忌避剤に関しては、成功率が0~2%と散々でした。日本国内にも似たような商品がありますが、レビューを見る限り5点満点中3点を超えているものはないようです。日本に暮らす飼い主もこの行為に苦戦しているものと考えられます。なおネット上には「パイナップルが効果的」といった都市伝説が流れていますが、これはリライト記事であることがバレないよう強引にオリジナリティを付け加えた結果でしょう。 食糞癖のある犬の飼い主は、犬がウンチをしたらすかさず片付ける習慣を持つ  今回の調査で分かったのは、「食糞行動は珍しいものではなく4頭に1頭くらいの割合で見られても不思議はない」ということ、そして「この行動を犬に不快感を与える嫌悪刺激によって修正することはかなり難しい」ということです。こうした事実から見えてくる最善の対処法は、犬がウンチをしたら光の速さですかさず片づけるというものです。行動のきっかけになるものが目の前になければ、当然行動もなくなります。飼い主が目を離しているときにウンチをする習慣がある犬の場合は、1日のうちでウンチタイムを決めておき、なるべくこの時間帯に排泄をするよう促してみます。
 当調査では、38.4%が「明白な口臭の変化」によって犬の食糞を知ったと回答しています。食糞後に飼い主の手や顔を舐めることは、時として飼育放棄の原因にもなる結構深刻な問題です。犬の行動がそもそも出なくなるよう環境を操作してあげることで予防してあげましょう。 犬の食糞のしつけ