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犬の性格によって痛みに対するリアクションは変わるかもしれない

 犬が感じている痛みを行動から推測するときは「性格」という側面を加味しないと不正確になる可能性が示されました(2018.2.22/イギリス)。

詳細

 調査を行ったのはイギリスにある「University Centre Hartpury」のチーム。20頭の犬を対象とし、手順を統一化した不妊手術を行った後で痛みに関連した指標がどのように変化するかをモニタリングしました。具体的な観察対象となった項目は以下です。
観察項目
  • 体温赤外線サーモグラフィを用いて来院時、麻酔チューブを外した15分後、以降30分ごとに飼い主に引き取られるまでの体温を計測
  • ペインスコア「Short Form Glasgow Composite Measure Pain Scale」(CMPS-SF)と呼ばれるプロトコルに則って行動を観察し、来院時、麻酔チューブを外した15分後、以降30分ごとに飼い主に引き取られるまでのペインスコア(痛みの度合い)を計測
  • 犬の性格評価「Monash Canine Personality Questionnaire-Revised」と呼ばれるプロトコルに則って犬の性格を評価し、過去に馬を対象として行われた調査で痛みの表出と関係が確認されている「外向的」と「神経質」の結果だけを分析に回す
  • 飼い主の認識飼い主に対する聞き取りを行い「犬がどの程度我慢強いか?」という項目に関して1~5までの5段階で評価
 犬に手術を施し上記した観察項目をチェックしたところ、以下のような関係性が見えてきたと言います。
犬の性格と痛み
  • ペインスコアは眼球温度や深部体温とは関係していない
  • 外向的な犬ほどペインスコアが高くなる
  • 外向的な犬ほど右目の温度だけが高くなる
  • 「神経質」は生理学的および行動的な反応とは無関係
  • 犬が痛みに対して見せる生理学的および行動的な反応を飼い主が予見することはできない
 体に対する侵襲の度合いが統一化されていたにもかかわらず、生理学的な指標や行動的な指標には大きな個体差が見られました。中でも「性格」という側面が大きな影響を及ぼしているのではないかと推測されています。
 こうした結果から調査チームは、予備的な調査ではあるものの、犬が感じている痛みの度合いを人間が外から推測するときは、「性格」(特に外向性と神経質)という側面を加味してあげないと不正確になるかもしれないと忠告しています。
A preliminary investigation into personality and pain in dogs
James Lush, Carrie Ijichi, Journal of Veterinary Behavior(2018), doi: 10.1016/j.jveb.2018.01.005.

解説

 犬の痛みをしっかりと把握してあげる事はペインマネジメントの観点から非常に重要です。痛みを過大評価すると鎮痛剤を過剰に投与してしまい、思わぬ副作用や最悪のケースでは安楽死を招きかねません。逆に痛みを過小評価してしまうと鎮痛剤の投与が少なくなり、犬に不必要な痛みを味わわせてしまいます。
 臨床の現場におけるゴールドスタンダードは、犬の行動から痛みを推測するというものです。しかし今回の調査では「性格」という意外な側面が行動の表出に影響を及ぼし、観察結果をゆがめてしまう可能性が示されました。犬が感じている痛みの度合いが全く同じだったとしても、外向的な犬でははっきりと行動に現れるのに対し、神経質な犬では痛みを抱えたまま引きこもってしまうなどです。結果として、前者では痛みの過大評価、後者では痛みの過小評価につながってしまうでしょう。 犬が見せる痛みのサインは性格によって表出の度合いが左右されるかもしれない  犬はそもそも病気や障害を抱えていてもその兆候を表には出さない動物です。また過去の調査(Brown et al., 2013)でも今回の調査でも、犬の痛みを認識する飼い主の能力はかなり当てにならないことが明らかになっています。まとめると、犬の行動の変化をよくよく観察していないと痛みの兆候を見逃してしまうということになります。
 痛みは時として疼痛誘発性攻撃行動につながりますので、日常的に犬と接している飼い主が責任を持って微妙な変化を観察しておく必要があるでしょう。「急に噛みつくようになった」という背景には、ひょっとすると体の不調があるかもしれません。そんな犬に対して体罰を用いたしつけ行ったところで百害あって一理なしです。 犬の痛みを見つける方法