トップ2017年・犬ニュース一覧9月の犬ニュース9月4日

犬の腸内細菌叢は加齢とともに変化する

 異なる年齢層に属する犬を対象とした調査により、腸内細菌叢の構成が加齢とともに変化することが明らかになりました(2017.9.4/日本)。

詳細

 調査を行ったのは東京大学を中心としたチーム。「離乳食前=11~15日齢」、「離乳直後=6~7週齢」、「若齢=2歳」、「高齢=10~13歳」、「老齢=16~17歳」という5つの年齢層に属する犬たちを10頭ずつ集めて糞便サンプルを採取し、中に含まれる腸内細菌叢を遺伝子レベルで解析しました。その結果、細菌の構成は決して一様ではなく、加齢に伴って変化することが明らかになったと言います。具体的に確認された変化は以下です
加齢と腸内細菌の変化
  • 乳酸菌量離乳前>高齢 | 老齢が最少
  • ビフィズス菌離乳前で50% | 離乳直後で60% | その他のグループでは検出されず
  • クロストリジウム離乳直後以外のグループでのみ検出された
  • 腸内細菌科若齢や高齢<離乳前 | 老齢>高齢
  • バクテロイデス科離乳前や離乳直後>若齢
  • 真正細菌離乳直後が最多
 加齢とともに減少傾向を見せた乳酸菌を更に細かく調べていった所、離乳前の犬からは「L. animalis」と「L. johnsonii」が検出され、特に離乳前のグループでは「L. johnsonii」が多く検出されたとも。
 こうした事実から調査チームは、人間における善玉菌の代表格は「ビフィズス菌」である一方、犬におけるそれは「乳酸菌」なのではないかと推測しています。また特に、幼い犬に特有の「L. johnsonii」がプロバイオティクスとしての可能性を最も強く秘めているのではないかとも。
Transition of the intestinal microbiota of dogs with age. Bioscience of Microbiota
MASUOKA H, SHIMADA K, KIYOSUE-YASUDA T, et al., Food and Health. 2017;36(1):27-31. doi:10.12938/bmfh.BMFH-2016-021

解説

 今回の調査で分かった事は、犬の腸内細菌叢が加齢に伴って変化するという事実です。逆にはっきりわかっていない事は、腸内細菌叢の変化が犬の健康増進に寄与しているかどうかという点です。過去に行われた調査では、臨床上健康な6頭の犬を対象として腸内細菌叢の分析が行われ、以下のような構成比が報告されています。
健康な犬の腸内細菌叢
  • バクテロイデス門=35%
  • フィルミクテス門=35%
  • プロテオバクテリア門=13~15%
  • フソバクテリウム門=7~8%
 今回の調査でも同様の細菌叢が検出されましたが、「門」(phyla)という大分類(門>綱>目>科>属>種)で見た場合、大なり小なり重なる部分が出てくるのは当然といえば当然でしょう。 腸内細菌には善玉菌と悪玉菌がある  当調査で東京大学と共同チームを組んだ日清ペットフードは2017年9月1日、「腸内フローラを整え健康を維持し免疫力を保つ」という宣伝文句で、有胞子性乳酸菌を含んだ総合栄養食を発売しました(→出典)。メーカーが乳酸菌を「善玉菌」と呼ぶ理論的根拠としては、上記した調査結果があるようです。しかし前述したように、当調査でわかったのは「細菌叢が経年変化する」ということであり、「特定細菌叢が病気を予防して健康を保つ」という因果関係ではありません。細菌と健康との関係性を証明するためには、まず「健康」という漠然とした言葉の定義づけをはっきりさせ、なおかつ生活環境や食事内容を統一した上で「プロバイオティクス摂取群」と「非摂取群」の比較調査を長期的に行わなければなりません。こうした調査結果がないのに健康効果を控えめながらもラベリングできるのは、ペットフードが医薬品ではなく、科学的な証明を必要としない「健康食品」という扱いだからでしょう。 犬の歯に良いフードとは?