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おしっこをするときに後ろ足を上げやすい犬の特徴は?

 犬がおしっこをするときに上げる後ろ足には「利き足」というものがあるのでしょうか?観察調査が行われました(2017.9.11/アメリカ)。

詳細

 調査を行ったのは、ニューヨーク・コーネル大学のチーム。アメリカ国内の2ヶ所にある動物保護施設に収容された犬たちを対象とし、排尿行動の際に見られる足上げ行動を促す要因は何なのか、および挙上される足に側性(右が優勢か左が優勢か)というものがあるのかどうかが検証されました。 犬がおしっこをするときに上げる足に側性(利き足)はない  調査対象となったのは、ニューヨーク州トンプキンス郡のシェルターに収容された412頭とコートランド郡に収容された247頭からなる合計659頭の犬たち。年齢、性別、不妊手術の有無、体の大きさ、収容期間はバラバラです。2013年2月から2016年12月の期間、犬たちを散歩に連れ出して自発的な排尿行動を観察したところ、足上げ行動に関して以下のような傾向が見られたと言います
犬の足上げ排尿(RLU)の特徴
  • 足上げ頻度(オスメス共通):小型犬>中型犬=大型犬
  • 足上げ頻度(オスのみ):未去勢>去勢済み
  • 収容期間が1日増すごとに出現頻度が2%増加(オスのみ)
 次に調査チームは46頭の成犬(体が成熟してから8歳まで)と老犬(8歳以上)を選抜し、1頭につき排尿行動を数十回観察してどちらの後ろ足が優先的に上げられるかをカウントしていきました。その結果、「右優先=19.6%」、「左優先=30.4%」、「優先なし=50.0%」となり、統計的には「利き足というものは存在しない」という結論に至りました。
 足上げ行動の頻度が「体の大きさ」という要因によって影響を受けていたことから、この行動は大型犬と小型犬の間で見られる普遍的な行動差異の1つではないかと推測されています。
Body size influences urinary posture but not hindlimb laterality in shelter dogs
McGuire B., Gough W.,Journal of Veterinary Behavior (2017), doi: 10.1016/j.jveb.2017.08.001.

解説

 過去に行われた犬の利き足に関する調査では、「右足が優位だった」(Berg, 1944)というものや「利き足は確認されなかった」(Branson, 2006)といったものがあり、統一された見解はいまだ示されていません。今調査では利き足が確認されず2006年の調査結果を追認する形になりましたので、「犬の足は両利き説」が一歩リードと言ったところです。ただし「おしっこをするときに上げる足に関しては」という但し書きが付きます。
 オス犬でもメス犬でも「小型犬」という要素が、そしてオス犬では「未去勢」という要素が排尿中の足上げ行動を増加させていました。まとめると「未去勢の小型犬は足上げ排尿をしやすい」ということになります。過去に行われた調査では、「大型犬よりも小型犬の方が室内においてマーキングをする傾向が強い」(McGreevy et al., 2013)とか「大型犬よりもを小型犬の方が足を上げる傾向が強く、特に匂いを嗅いだ場所におしっこをかける習性がある」(McGuire and Bemis,2017)といった特性が報告されています。今調査と併せて考えると、家の中におけるマーキング行動に関しては小型犬のリスクが高いと考えたほうが無難でしょう。
 小型犬において足上げ排尿が多く出現する理由としては、自分に危険を及ぼすような相手と直接的にかかわり合う場を避けるといったものが想定されています。この仮説を補強する例としては、小型犬はラブラドールレトリバーの等身大モデルにあまり近寄ろうとしなかった(Leaver and Reimchen,2008)とか、コンピューターで合成された犬の唸り声を発するスピーカーにあまり近寄ろうとしなかった(Taylor et al., 2010)といったものがあります。もし小型犬が相手と対峙する直接的な接触よりも、おしっこの匂いによる間接的な接触を優先する傾向が強いのだとすると、足上げ行動が多かった理由も、家の中におけるマーキング行動が多かった理由も説明がつきます。
 小型犬の体のサイズを変えることはできませんが、足上げの出現率は去勢手術によってわずかに下がるようですので、室内でのマーキングにお困りの方は一度考えてみてはいかがでしょうか。 オス犬の去勢手術 犬が足を上げておしっこをする