トップ2017年・犬ニュース一覧5月の犬ニュース5月22日

犬のうなり声を聞いただけで人はその背景を直感的に理解できる

 大抵の人は犬のうなり声を聞いただけで、その声がどのような状況において発せられたものなのかを直感的に理解できるという可能性が示されました(2017.5.22/ハンガリー)。

詳細

 調査を行ったのは、ハンガリー・エトヴェシュ・ロラーンド大学のチーム。調査目的を知らされていない成人40人(男性14人 | 平均26.1歳)を対象とし、犬のうなり声を聞いたとき、その声が発せられた状況を正しく推測できるかどうかを検証しました。犬のうなり声のバリエーションは以下です。
犬のうなり声と文脈
  • 食料の確保他の犬からエサやおやつを守っている状況におけるうなり声犬のうなり声~食料を確保する時
  • 脅威との接触見知らぬ人間がじっと見つめて近づいてくる状況におけるうなり声犬のうなり声~社会的脅威と接した時
  • 遊びの最中飼い主との綱引き遊びをしている状況におけるうなり声犬のうなり声~遊んでいる最中
 18頭の犬(オス犬8頭)からとった生声サンプル20種のうち6種を被験者に聞いてもらい、「攻撃性」、「恐れ」、「絶望」、「喜び」、「戯れ」という5種類の感情価を評価すると同時に、その声が「食料の確保」、「脅威との接触」、「遊びの最中」という3つの文脈のどれに当てはまるかを推測してもらいました。その結果、以下のような傾向が見えてきたと言います。
犬のうなり声と文脈の推測
  • うなり声を聞いただけで背後にある文脈を偶然以上の確率で正解できる
  • 「食料の確保」と「遊びの最中」は高い確率で区別できる
  • 「食料の確保」と「脅威との接触」は混同されることが多い
  • 男性より女性の正答率が高い
  • 犬の飼育歴がある人の正答率が高い
 以下は、各状況下で発せられたうなり声に対する正答率です。偶然正解する確率は三分の一(33%)ですが、どの状況においても偶然を超えるレベルの回答率が確認されました。特に「遊びの最中」に発せられるうなり声はほとんどの人(83%)が直感的に理解できるようです。
「食料の確保」への回答
「食料の確保」という状況における犬のうなり声は57.0%の確率で言い当てられる
  • (正)食料の確保=57.0%
  • (誤)脅威との接触=30.1%
  • (誤)遊びの最中=12.9%
「脅威との接触」への回答
「脅威との接触」という状況における犬のうなり声は50.0%の確率で言い当てられる
  • (誤)食料の確保=38.0%
  • (正)脅威との接触=50.0%
  • (誤)遊びの最中=12.0%
「遊びの最中」への回答
「遊びの最中」という状況における犬のうなり声は83.2%の確率で言い当てられる
  • (誤)食料の確保=9.5%
  • (誤)脅威との接触=7.3%
  • (正)遊びの最中=83.2%
Dog growls express various contextual and affective content for human listeners
Farago, N. Takacs, A. Miklosi, P. Pongracz, R. Soc. open sci. 2017, 4 170134; DOI: 10.1098/rsos.170134. Published 17 May 2017

解説

 犬のうなり声を音声学的に解析したところ、構成成分と評価との間に、以下のような傾向が見られたと言います。
うなり声の音声学的解析
  • 基本周波数基本周波数とは、いくつかの振動数からなる複数の音のうちもっとも低い周波数のこと。基本周波数が高い場合、恐怖心が強いと評価された。
  • 声のピッチピッチとは声を構成している周波数の頂点から頂点までの距離のこと(ピッチが高い=声が高い)。高いピッチはネガティブ(恐怖・攻撃・絶望)に評価される傾向があった。
  • 声の長さ声が長く続くとネガティブ(恐怖・攻撃・絶望)に評価される傾向があった。
  • 声のインターバル声と声の間のインターバルが長いと攻撃性が低く評価され、短いと攻撃性が高く評価される傾向があった。
 「脅威との接触」(50%)よりも「食料の確保」(57%)という状況において若干正答率が高まりました。後者の状況にある犬は「近づくんじゃない!」という意思を明白に伝えるため、音声学的な構成要素を微妙に変化させているのではないかと推測されます。今回の調査では、上記2つの状況における違いは「フォルマント分散」(formant dispersion)という要素でした。
フォルマント分散
 フォルマントとは発声に関わる解剖学的な構造物によって作り出される、その動物に特徴的な周波数のこと。フォルマント分散とは、連続するフォルマント周期間に見られる差異の平均のことで、この値が低いと体が大きいことを意味し、高いと体が小さいことを意味する。
 当調査においては、「脅威との接触」でフォルマント分散が低く、「食料の確保」ではフォルマント分散が高かった。
 男性よりも女性の方が高い正答率を示しました。過去に行われた別の調査では、男性よりも女性の方が人間同士の感情の機微に敏感であるという可能性が示唆されています(→出典1出典2出典3)。人間同士のみならず、人間と犬という異種動物間においても、同じことが言えるのかもしれません。
 犬の飼育歴が長い人の方が高い正答率を示しました。「吠え声」は犬を飼っていなくても比較的頻繁に耳にすることがありますが、「うなり声」は実際に生活を共にしていないとなかなか聞く機会がありません。犬と共同生活していると必然的にいろいろな声を聞く機会が多くなりますので、これが経験値アップにつながったのではないかと考えられています。 犬の声から心を読む訓練