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飼い主の束縛は脅威を感じた時の犬の攻撃性を高める

 飼い主と犬が日頃どのように交流しているかによって、脅威を感じた時の犬の反応に違いが生じることが明らかになりました(2017.5.15/オーストリアなど)。

詳細

 人間を対象とした調査では、親と子供の交流の仕方が子供の反応パターンに影響を及ぼすことが確認されています。例えば「庇護的で温かい親に育てられた子供は安定的な愛着を形成する」、「温かい親に育てられた子供は親と同等の人間とポジティブに交流できる」、「権威的で厳しい親に育てられた子供は攻撃的になりやすい」などです。ハンガリーとオーストリアの共同調査チームは、上記したような人間の親子の間で見られた関連性が、飼い主と犬との間でも見られるに違いないという仮説を立て、大規模な検証実験を行いました。
 調査対象となったのはオーストリア国内に暮らすボーダーコリーとその飼い主のペア合計220組。飼い主の平均年齢は38.64歳で女性が187人、犬の平均年齢は48.07ヶ月齢でメスが125頭です。2010年9月から2013年11月の期間、「NEO-FFIパーソナリティ調査票」というアンケートを通じて飼い主のパーソナリティ(人間性)を分析すると同時に、事前に決められた8つのシチュエーションにおける犬との交流の仕方を録画観察しました。そして最後に「見知らぬ人間が腰をかがめて犬の目をじっと見つめながらゆっくりと近づく」という社会的脅威テストを行い、ストレスを感じたときに犬がどのように反応するかを観察しました。
 得られたデータを基に、飼い主の交流パターンと社会的脅威に接した時の犬の反応パターンを調べた所、以下のような傾向が浮かび上がってきたといいます。
飼い主の交流パターン・定義
  • ぬくもりストレスのないポジティブな状況において飼い主が犬に見せる熱狂的な行動全般。遊んでいる最中しきりに声をかけるなど。
  • 社会的庇護ストレスがかかるネガティブな状況において犬を元気づけるような行動全般。DNAサンプルを頬粘膜から採取している最中、声をかけてなだめてあげるなど。
  • 束縛遊びや指示を出す状況において犬をコントロールするような行動全般。取ってこいで遊んでいる最中、何度も「行け!行け!」と命令するなど。
社会的脅威に対する犬の反応
  • 接近者に近づいた犬は「ぬくもり」が低スコア
  • 受動的もしくは飼い主の後ろに隠れた犬は「ぬくもり」が高スコア
  • 接近者に攻撃性を示した犬は未手術で「束縛」が高スコア
  • 接近者に宥和的に近づいた犬は「ぬくもり」が低スコア
  • 接近者に友好的に近づいた犬は年齢が若い
  • 犬の年齢が高いと接近者への反応が薄くなる
  • 飼い主の後ろ隠れた犬は「ぬくもり」が高スコア
 権威的で厳しい親に育てられた子供が攻撃的になるのと同様、束縛の強い飼い主に飼われている犬では、社会的な脅威を感じた時に攻撃的になりやすい傾向が確認されました。犬が起こす咬傷事故は、人間に対する脅威になると同時に、犬の飼育放棄理由にもなるため、今回の調査で得られたデータをヒントにして、犬がなるべく攻撃的にならないような交流の仕方を日頃から行っておくことが重要であるとしています。
Dog Owners' Interaction Styles: Their Components and Associations with Reactions of Pet Dogs to a Social Threat
Cimarelli G, Turcsan B, Banlaki Z, Range F, Viranyi Z. Frontiers in Psychology. 2016;7:1979. doi:10.3389/fpsyg.2016.01979.

解説

 今回の調査において飼い主の「束縛」の度合いは、ボールを用いた取って来い遊びやロープを用いた綱引き遊びの最中、どの程度コマンドを出すかという観点、および実験室内にいる犬に対して「お座り」、「伏せ」、「待て」を指示する時、どの程度コマンドを出すかという観点で評価されました。「束縛」の度合いが強い、すなわち何度も指示を出さなければ犬が従ってくれないということは、犬が言葉の意味をしっかりと把握していないことを意味しています。そして、犬が言葉の意味を理解していない理由は、おそらく飼い主が日頃からコマンドと行動に対してご褒美を用いた強化を行ってないからだと推測されます。
 「束縛」が高スコアな犬は見知らぬ接近者に対して攻撃的に接する傾向がありました。一方、「ぬくもり」が高スコアな犬では、飼い主を安全地帯とみなして後ろに隠れる傾向が見られました。これらの事実から考えると、「束縛」が高スコアな犬の中にはそもそも、「飼い主に頼ればなんとかしてくれる」という信頼感がないのかもしれません。
 犬による咬傷事故は、飼い主が日ごろから犬に対する「束縛」を緩め、「ぬくもり」が高くなるような交流の仕方をすることによって予防できる可能性が見えてきました。ここで言う「束縛を緩める」とは、オペラント条件付けの基本を理解して適切な指示と強化を行い、犬に「この人は頼りになる!」と信頼してもらうことです。また「ぬくもりを高める」とは、遊びやしつけの最中、適切なタイミングで犬を褒めてあげることです。 犬のしつけの基本 犬の咬傷事故予防のポイントは、飼い主による束縛の緩和とぬくもりのある交流  環境省が2016年に発表した日本国内における咬傷事故統計によると、およそ9割の事故が「飼い主・家族以外」に対して起こっていることが分かっています。上記したような交流(緩い束縛とぬくもりのある交流)を行っていれば、勝手に犬の頭を撫でようとするマナーの悪い人がいても、噛み付く前に飼い主の後ろの隠れることで事故が未然に防がれるかもしれません。 犬による咬傷事故統計