トップ2017年・犬ニュース一覧5月の犬ニュース5月11日

老化に伴う犬の注意力低下はトレーニングで予防できる

 犬の生涯におけるトレーニング歴が、年齢とともに低下する注意力にどのような影響を及ぼしているかが検証されました(2017.5.11/オーストリア)。

詳細

 調査を行ったのは、オーストリア・ウィーン大学や「Clever Dog Lab」が中心となった共同チーム。ボーダーコリー75頭(過去の調査に参加した59頭+新たにリクルートされた16頭)とボーダーコリー以外の様々な犬種110頭を対象とし、犬がこれまで受けてきたトレーニングの総量と、加齢とともに低下する注意力がどのように関連しているのかを検証しました。
 調査チームは犬たちの年齢層を「成年=6~8歳未満」、「中年=8~10歳未満」、「老齢=10歳以上」と定義し、飼い主へのアンケート調査から犬の生涯トレーニング歴を「0~52」(0=全く受けていない)にスコアリングした上で、犬たちの注意力を推し量るために考案された複数のテストを行いました。テストの具体的な内容および主な結果は以下です。
注意捕捉テスト
  • 内容 ある特定の刺激に注意を向けるまでの待機時間を計測する。
    【非社会的刺激】
    天井からオレンジ色のおもちゃが吊るされている。犬が目線をそらしているタイミングを見計らい、部屋の外からこっそりと釣り糸を操っておもちゃを1分間上下動させる。犬の頭と鼻先がおもちゃに向くまでにどのくらいの時間を要したか? 非社会的刺激(おもちゃ)を用いた犬の注意捕捉テスト 【社会的刺激】
    実験者がドアを開けて室内に入り、犬から3m離れた規定の場所に、犬に背中を向けた状態で立つ。その後壁にペンキを塗る時のように1分間体を上下動させる。犬の頭と鼻先がドアノブに向くまでにどのくらいの時間を要したか? 社会的刺激(人間)を用いた犬の注意捕捉テスト
  • 結果 ✓ドアノブに注意を向けるまでの時間(1.06秒)よりもおもちゃに注意を向けるまでの時間(0.70秒)の方が短かった
    ✓刺激の種類にかかわらず素早さは成年>中年>老齢
    ✓犬種や生涯トレーニングスコアは無関係だった
持続的注視テスト
  • 内容 注意捕捉テストで用いた刺激(上下動するおもちゃ or 上下動する人間の動き)をどの程度見続けていたかを計測する。
  • 結果 ✓非社会的な刺激(おもちゃ/33.72 ± 14.89秒)よりも社会的な刺激(人間=50.58 ± 10.34)の方を長く注視する傾向があった
    ✓刺激の種類にかかわらず注視時間は成年=中年>老齢
    ✓生涯トレーニングスコアが高い犬ほど注視時間が長かった
    ✓ボーダーコリーとその他の犬種では若干違いが見られたものの、統計的に有意とまでは言えなかった
選択的注意力テスト
  • 内容 7.12 m × 6 mの実験室内に実験者が入室し、犬の名前を呼んで床にソーセージを投げる。犬がおやつを食べ終えて自発的に実験者とアイコンタクトを取るまで待つ。アイコンタクトが確立したら再びソーセージを投げる。5分間、上記動作を繰り返す。犬がおやつを口に入れてから実験者とアイコンタクトを取るまでの時間(アイコンタクト時間)、およびおやつが実験者の手を離れてから犬が口に入れるまでの時間(おやつ発見時間)をそれぞれ計測する。選択的注意力テストでは対象刺激と陽動刺激を同居させる
  • 結果 【アイコンタクト時間】
    ✓最初の3回における犬全体の平均は8.37秒
    ✓年齢や犬種による影響はなかった
    ✓生涯トレーニングスコアが高い犬やクリッカーの経験がある犬ほどアイコンタクトを確立するまでの時間が短かった
    ✓ボーダーコリーとその他の犬種で若干違いを見られたものの、統計的にとまでは言えなかった
    【おやつ発見時間】
    ✓最初の3回のテストにおける平均は1.74秒
    ✓ボーダーコリー(1.49秒)の方がその他の犬種(1.92秒)よりも早かった
    ✓老齢の犬ほど長い時間を要し、成年=中年>老齢という順だった
    ✓生涯トレーニングスコアは無関係だったがクリッカーの経験は影響を及ぼしていた
 注意捕捉能力(成年>中年>老齢)に関しても注意持続能力(成年=中年>老齢)に関しても、老齢グループに属する犬たちの方が若いグループよりも成績が落ちることが明らかになりました。それに対し選択的な注意力に関しては、人間で見られるような顕著な能力の低下は見られませんでした。こうした結果から調査チームは、犬の注意力は加齢とともに衰えを見せるものの、生涯トレーニングスコアを高めておけば、ある程度の能力を維持できるとの結論にいたりました。
Aging of Attentiveness in Border Collies and Other Pet Dog Breeds: The Protective Benefits of Lifelong Training.
Chapagain D, Viranyi Z, Wallis LJ, Huber L, Serra J, Range F. Frontiers in Aging Neuroscience. A017;9:100. doi:10.3389/fnagi.2017.00100.

解説

 「注意捕捉能力と注意持続能力が低下する」という事は、ある刺激に意識を集中させるまでに時間がかかり、また意識を集中してもそれほど長続きしないということを意味しています。老犬を飼っている飼い主の目線からすると、「あまり自分の方を向いてくれなくなった」とか「呼びかけへの反応が遅くなった」といった現象として経験されるかもしれません。注意力の低下は人間でも確認されている普遍的な老化現象の一種ですので、ある程度は致し方ないでしょう。 老化が注意力の低下を招くのは人も犬も同じ  希望の糸口は、生涯トレーニングスコアが老化に伴う犬の注意力低下を予防するかもしれないという点です。具体的には、アイコンタクトまでの時間が短くなり、対象を注視する時間が長くなることが期待されます。ただしこうした効果が期待されるのは、犬がご褒美を用いた「正の強化」をベースにトレーニングを受けてきたときだけです。例えば「ジョン!ご飯だよー」と言った後に「ジョン!いけません」と叱ったとします。その結果、犬の頭の中では「ジョン」という音声的なシグナルに快と不快の両方が結びつき、名前を呼ばれたとき、そちらに意識を集中すべきなのか、それともそこから遠ざかるべきなのかがよくわからなくなってしまいます。このような一貫性のないトレーニング法では、何百回反復したとしても思うように注意力は向上してくれないでしょう。ポイントは「一貫した正の強化」です。 犬のしつけの基本
 今回の調査で採用された「生涯トレーニングスコア」には、具体的に以下のようなものが含まれています。
犬の生涯トレーニング
  • パピースクール
  • 服従クラス
  • アジリティ
  • 作業犬トレーニング
  • 番犬トレーニング
  • サービスドッグトレーニング
  • 捜索救助犬トレーニング
  • ダンス・トリックトレーニング
  • 回収トレーニング
  • ハンティング・ノーズワーク
  • 牧羊犬トレーニング
  • セラピードッグトレーニング
 トリックトレーニングくらいなら日常的に家の中でもできますので、犬の退屈予防と注意力低下予防を兼ね、習慣化してみてはいかがでしょうか? 犬の芸・トリック