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犬はごほうびの量よりも質による誘惑に弱い

 「イマイチのご褒美を我慢したらとっておきのご褒美をもらえる」という状況における犬の反応を観察したところ、犬たちは量よりも質にこだわることが判明しました(2017.3.20/オーストリア)。

詳細

 調査を行ったのはオーストリア・ウィーン大学が中心となったチーム。何かをしたいとか何かが欲しいという衝動を自発的に抑え込む「抑制性コントロール」が、一体何によって影響を受けるのかを明らかにするため、犬を対象とした検証実験を行いました。調査対象となったのはオーストリア国内に暮らす16頭の犬たち(平均年齢6.01歳)。事前のトレーニングによって「今すぐゲットできる下等な報酬を我慢できたら上等な報酬が得られる」という法則性を覚えさせた上で、以下に述べるようなテスト状況における反応を観察しました。
犬の抑制性コントロール
  • 質に対する抑制性コントロール今すぐゲットできる低質なおやつを我慢できたら上質のおやつをゲットできる。我慢する時間は2~1,840秒(30分強)までの間で17段階に設定。
  • 量に対する抑制性コントロール今すぐゲットできる1つのおやつを我慢できたら5つのおやつをゲットできる。我慢する時間は2~1,840秒(30分強)までの間で17段階に設定。「低質1つ×低質5つ」、「上質1つ×上質5つ」の2バージョンあり。
 観察の結果、年齢、性別、テスト順序、DIASスコア(犬の衝動性)といった因子は、犬が我慢できる限界時間(最大遅延時間)とは関係していなかったといいます。一方、遅延時間に影響を及ぼしている因子としては以下のような項目が浮かび上がってきました。
質テスト(10頭)
  • 平均遅延時間35.6秒
  • 最大遅延時間140秒
  • 遅延時間が長ければ長いほど成功率は低下
  • 遅延中に報酬から目線をそらす犬は成功率が高い
  • 報酬から距離を取る犬は遅延時間が長い
  • 伏せの姿勢をとる犬は遅延時間が長い
  • 1日のテスト回数は成績と無関係
  • 10頭中7頭は訓練時よりも遅延時間が短い
量テスト(7頭)
  • 平均遅延時間82.9秒
  • 最大遅延時間920秒
  • 遅延時間が50秒未満の場合、目線をそらす犬ほど成功率が低い
  • 遅延時間が50秒超の場合、目線をそらす犬ほど成功率が高い
  • 報酬との距離は成功率と無関係
  • 遅延時の姿勢は成功率と無関係
  • 1日のテスト回数は成功率と無関係
  • 低質な報酬の方が遅延時間が長い
  • 7頭中6頭は訓練時よりも遅延時間が短い
Reward type and behavioural patterns predict dogs’ success in a delay of gratification paradigm
Brucks, D. et al. Sci. Rep. 7, 42459; doi: 10.1038/srep42459 (2017).

解説

 自己抑制力が高く、人間の言うことをよく聞く犬を繁殖してきたとする家畜化仮説が正しいとすると、犬は他の動物種に比べて高い抑制コントロール能力を示すはずです。しかし2つの実験を通して実際に調査してみたところ、そのような証拠は見つかりませんでした。具体的には、質テストの場合、犬の半数における最大遅延時間が約10秒、量テストの場合はわずか2秒だったと言います。
 一見すると犬には堪(こら)え性がないという印象を受けてしまいますが、この結果は犬の抑制性コントロールの弱さを示しているのではなく、ただ単に学習の結果を反映しているのかもしれません。過去にオマキザル、マカクザル、チンパンジー、カラスを対象として行われた調査では、上等なご褒美をゲットする前に我慢しなければならないことを予測できるようになったといいます。犬でも同じ学習が起こったのだとすると、「我慢の時間が10秒だろうと3分だろうと、待たないといけないのだったら今目の前にあるおやつを食べてしまおう」という計算が働いた可能性があります。その結果、諦めるポイントがランダムに散らばるのではなく、テストの開始直後に集中してしまったのかもしれません。人間で言うと、ラーメン屋の前に行列ができているのを見た時点で諦め、カップラーメンでとっとと空腹を紛らわせるといったところでしょうか。
 質テストにおける平均遅延時間が35.6秒だったのに対し、量テストにおける平均時間は82.9秒でした。また量テストにおいて「低質1つ×低質5つ」および「上質1つ×上質5つ」というバリエーションを設けたところ、低質パターンの方が長い時間我慢できたと言います。こうした事実から見えてくるのは「犬は量よりも質による誘惑に弱い」という傾向です。たくさん食べられるのなら何でもいいという食いしん坊のイメージを持たれがちですが、犬は意外と繊細な舌(鼻?)を持っているのかもしれません。ちなみに同様の傾向はコカトゥー、カラス、オマキザルでも確認されているそうです。
 質テストにおいて遅延時間を延ばす要因は、気を紛らわせるような行動だったと言います。具体的には「おやつから目をそらす」、「おやつから距離を取る」、「伏せの姿勢をとる」などです。衝動性を抑えるための行動は「対処方略」(coping strategies)と呼ばれており、人間の子供では「腕に顔をうずめる | 目を覆う」、チンパンジーでは「おもちゃで遊ぶ」、ヨウムでは「羽繕いをする | 目線をそらす | 目を閉じる」といった行動として確認されています。こうした事例と同様、犬で観察された行動も彼らにとっての「対処方略」なのではないかと考えられています。 犬は狼よりもリスクを恐れる「事なかれ主義」