トップ2017年・犬ニュース一覧8月の犬ニュース8月28日

犬の悪性黒色腫(メラノーマ)に対する免疫療法が実用化に向けて一歩前進

 犬の悪性黒色腫(メラノーマ)に対して免疫チェックポイント阻害薬による治療を行ったところ、腫瘍が最大で80%近く退縮する可能性が示されました(2017.8.28/日本)。

詳細

 犬の悪性腫瘍に対する治療法はこれまで、患部を切り取る外科療法、薬剤によって細胞の増殖を抑えこむ化学療法、そして放射線によって患部を退縮させる放射線療法が三本柱でした。しかしこれらの治療法は、物理的にアプローチできない部分があるとか副作用が強いといった負の側面を有していることから、全身的に効果があり、なおかつ患犬に負担をかけない治療法の開発が強く望まれていました。そうした中で最も期待されている治療法の1つが、人医学の分野で急速に進歩しつつある「免疫チェックポイント阻害療法」です。
免疫チェックポイント阻害療法
 免疫細胞の上で受容体として発現する「PD-1」と、腫瘍細胞上で発現する「PD-L」の結合を阻害することで、患者の免疫力を最大限に高める治療法。結合を阻害するエージェントは「免疫チェックポイント阻害薬」と呼ばれ、人医学の分野では悪性黒色腫、非小細胞肺癌、腎細胞癌に対する「nivolumab」(Opdivo®)が有名。
 2016年、北海道大学・病院感染制御部を中心とした調査チームが行った予備調査では、口腔悪性黒色腫(90%)、乳腺腫(80%)、骨肉腫(70%)、血管肉種(60%)、肥満細胞腫(60%)、前立腺種(60%)といった悪性腫瘍において高い確率で「PD-L1」が発現することが確認されており、抗PD-1抗体(免疫チェックポイント阻害薬)による治療によく反応するのではないかと予測されていました。調査に関する詳しい経緯は以下の記事をご参照ください。 犬本来の免疫力でガンに対抗する「免疫チェックポイント阻害療法」
 今回の調査を行ったのは北海道大学、東北大学、扶桑薬品工業株式会社から成る共同研究グループ。マウス由来の抗PD-L1モノクローナル抗体を元に、犬に投与しても拒絶反応を示さない「イヌキメラ抗PD-L1抗体」を作り、悪性黒色腫を発症した7頭、および未分化肉腫を発症した2頭を対象とした臨床試験を行いました。その結果、どちらの腫瘍でも患部の退縮が認められ、また悪性黒色腫では肺に転移した後の生存率が伸びる可能性も示唆されました。治療によって腫瘍が縮小または消滅した患者の割合を示した「奏功率」に関しては、悪性黒色腫が14.3%(1/7頭)、未分化肉腫が50.0%(1/2頭)で、人に対して用いられる抗PD-L1抗体薬と遜色ない成績だったと言います。 マウス由来のイヌキメラ抗PD-L1抗体  こうした結果から調査チームは、「イヌキメラ抗PD-L1抗体」(免疫チェックポイント阻害薬)が悪性黒色腫や未分化肉腫の治療法として大きな可能性を秘めているとの結論に至りました。今調査では2種類の腫瘍だけが対象となりましたが、理論上は「PD-L1」を発現するあらゆる腫瘍に対して効果があると推測されています。また犬と人間とでは腫瘍発生メカニズムが似通っていることから、人医学と獣医学における知見を共有してお互いの発展につなげる「ワンヘルス」(One Health)にも寄与すると期待されています。
A canine chimeric monoclonal antibody targeting PD-L1 and its clinical efficacy in canine oral malignant melanoma or undifferentiated sarcoma
Naoya Maekawa, Satoru Konnai, et al., Scientific Reports 7, Article number: 8951 (2017) doi:10.1038/s41598-017-09444-2
イヌのがん治療に有効な免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-L1抗体)の開発にはじめて成功

解説

 今回の調査では悪性黒色腫を発症した7頭のうち薬に反応した犬が1頭(14.3%)しかいませんでした。しかし人間の悪性黒色腫患者に対する阻害薬治療では奏効率が17.3%(9/52)と報告されていますので、そもそも万能薬を期待するほうが高望みなのでしょう。ちなみに治療に反応した1頭では、2週間に1度の割合で44週に渡って阻害薬を静注したところ、最大で81%もの腫瘍退縮が観察されたと言います。 犬の悪性黒色腫(メラノーマ)は免疫チェックポイント阻害薬で最大で80%近く退縮  投薬治療を行った犬のうち、ガン細胞が肺に転移した悪性黒色腫第4ステージの患犬と、2013年~2016年の期間、大学で診察を行った同一の疾患を抱えた犬15頭の生存日数中央値を比較したところ、治療群が93.5日だったのに対し対照群が54日だったと言います。サンプル数が少なすぎて統計的に有意とまでは言えませんでしたが、1~2ヶ月ほど生存日数を伸ばせる可能性が示されました。「World Health Organization」のデータによると悪性黒色腫第3ステージの生存期間がおよそ3ヶ月とされていますので、30~60%延長されるというのはかなり優秀な部類に入るのかもしれません。
 薬剤の投与を受けた犬のうち重大な副作用を示したものはいませんでした。しかし遺伝子操作によって「PD-1」を発現できなくしたマウスでは自己免疫性疾患の発症が報告されていたり、人間の治験では肺炎による死亡例が報告されていますので、現段階で安全性を確証するのは早計だと考えられます。 犬の口腔ガン 犬本来の免疫力でガンに対抗する「免疫チェックポイント阻害療法」