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東京都が高齢者によるペット飼育放棄に歯止め

 「高齢」を理由にペットを飼育放棄するケースが増えつつあることから、東京都福祉保健局は高齢者向けの適正飼育ガイドラインを作成・公開しました(2016.3.18/日本)。

詳細

 近年、ペットの飼い主が高齢化したことにより、飼育放棄を余儀なくされるというケースがちらほら聞かれるようになってきました。主なパターンとしては以下のようなものがあります。
高齢化とペットの飼育放棄
  • ペット禁止の施設に移ることになった
  • 飼い主が認知症にかかった
  • 飼い主が病気で入院した
  • 飼い主が死亡した
 飼育が困難になった犬や猫は、時として保健所や動物愛護センターといった行政機関に持ち込まれることがあります。例えば2014年度、東京都が引き取った犬猫199頭の飼育放棄理由うち、「飼い主の病気」が24%、「飼い主の死亡」が18%、「飼い主の高齢化」が25%と、全体の半分以上を占めていたといいます(→出典)。
 2月18日、東京都福祉保健局が公開した「ペットと暮らすシニア世代の方へ」というパンフレットは、上記したような高齢化に伴う様々な問題を事前に食い止めるために作成されたものです。飼い主がある特定の問題に直面したとき、具体的にどのような解決策を取ればよいのかがまとめられています。以下はその一例です。 ペットと暮らすシニア世代の方へ
高齢化に伴う問題と解決策
  • 世話をするのがしんどい 視力や握力が低下してペットの爪切りが難しいとか、足腰が弱ってペットの散歩が大変になってきたという人は、積極的にペットシッターを利用する。
  • ペットが心配で入院できない 自分の検査入院が必要だと医師から言われているがペットがいるから入院できないとか、怪我で自宅療養中、ペットの世話をどうしてよいかわからないという人は、ペットホテルを利用したり友人知人に頼む。
  • ペットの介護が必要になった 歩行困難や認知症など介護が必要となったがどう対応したらよいかわからないとか、ペットの健康に不安があるが動物病院に連れて行く負担を考えると迷ってしまうという人は、動物病院に相談する。介護に関するアドバイスをくれたり、場合によっては往診をしてくれる。
  • 自分の死後が心配 自分が死んだ後、ペットの行く末が心配だという人は、老犬ホームやペット共生型の住居を見つける。こうした施設は仮に飼い主が先に死んだとしても、残されたペットの面倒を見てくれる。またペットのための遺言を残したり、ペット信託を利用して後見人を見つけておく。
  • 飼い続けることができない 肉体的、経済的な理由によりどうしてもペットを飼い続けることができなくなった人は、安易に行政機関に持ち込むのではなく、新しい飼い主を探す努力をしたり、動物愛護ボランティアに相談する。
高齢者とペット

解説

 高齢者におけるペットの入手法には、自分でペットショップに買いに行くというルートほか、家族がプレゼント感覚で買い与えるというルートもあると考えられます。いずれにしてもペットショップには、動物保護団体が設けているような「同居人がいない人には譲渡できません」といった厳格なルールがあるわけでは無いため、後見人がいない独居老人でも簡単にペットを手に入れることができてしまいます。こうした流通形態が高齢者による飼育放棄の一因となっていることは間違いないでしょう。
 さらに、こうした社会問題を深く考察することなく、高齢者に対してペットの飼育をむやみに勧める業界団体の存在も無視できません。例えばペットフード協会の代表者は「日本人の金融資産約1,600兆円のうち約3分の2は高齢者が占めており、高齢者の健康寿命延伸には、ペットとの共生を積極的に推奨したい」とし、高齢者のペット飼育を是としています(獣医畜産日報Vol68, P508)。また同氏は2015年11月15日に東京都で開催されたシンポジウムにおいて「(高齢者の)飼育頭数減少に歯止めをかけないと」といった同様の発言をしています(→出典)。
 どうやら高齢者によるペット飼育放棄の背景には、ペットの飼育頭数を増やして売上げを活性化させたい業界と、そのフォローをさせられている動物保護団体や行政機関という構図があるようです。2014年度、引き取り理由を犬猫別に集計していた全国74自治体のうち、「飼育者が高齢・病気・入院(入所)・死亡」を理由のトップとして挙げていた自治体は、犬で「56/74」(75.6%)、猫で「26/74」(35.1%)に達したといいます(→出典)。「医療費が削減される!」といった物事の良い面ばかりを強調し、上記したような悪い面に関する情報を隠してしまうようなアンフェアなセールストークには、くれぐれもご注意ください。 犬の殺処分について