トップ2016年・犬ニュース一覧6月の犬ニュース6月7日

犬のアトピーに対する舌下免疫療法の効果

 アトピー性皮膚炎を抱えた犬に対し、人間に行われる「舌下免疫療法」を試したところ、著明な効果があったという症例が報告されました(2016.6.7/アメリカ)。

詳細

 報告を行ったのはアメリカ・ウィスコンシン大学の獣医学チーム。チリダニにアレルギーを持ち、アトピー性皮膚炎を発症した犬10頭に対し、低濃度のアレルゲンを経口的に投与する「舌下免疫療法」(Sublingual immunotherapy, SLIT)を行い、6ヶ月の経過観察を行いました。主な結果は以下です。
犬の舌下免疫療法
  • 投薬量 アトピー性皮膚炎の治療薬である「メチルプレドニゾロン」に関し、最初の2ヶ月間と最後の2ヶ月間における使用量を比較したところ、10.2→4.3 mg/kgに激減した。また4頭では薬の投与自体が不要となった。
  • CADESI アトピー性皮膚炎の重症度を客観的に評価する「CADESI」の中央値は76.5→59に減少した。またかゆみのスコアも65→37に減少した。
  • 皮内テスト ダニアレルゲンに対する皮内テストを治療の前後で比較したが、著明な変化はなかった
  • 抗体値 コナヒョウヒダニ特異的なIgE抗体の中央値は、150.2×103→3.6×103AU/mLに減少した。またIgG抗体の中央値は18.5×106→3923.4×106AU/mLに増加した。
アレルギー持ちの犬に対して行われる「舌下免疫療法」(Sublingual immunotherapy, SLIT)  こうしたデータから研究チームは、犬に対する舌下免疫療法は有効であり、アトピー症状の軽減につながる可能性があるとの結論に至りました。今後は、より多くの患犬を用いた臨床試験が行われていく予定です。 犬のアトピー性皮膚炎 Clinical and immunological responses of dust mite sensitive, atopic dogs to treatment with sublingual immunotherapy (SLIT)

解説

 舌下免疫療法(SLIT)とは、アレルギー症状を引き起こす「アレルゲン」を意図的に体内に入れ、少ない量から徐々に増やしていくことで体を慣らしていく治療法のことです。日本国内では人医療分野において、2014年からスギ花粉症に対する免疫療法が、そして2015年からはダニのアレルギー性鼻炎に対する免疫療法が保険適用となっています。
 舌下免疫療法の具体的な方法は非常に簡単で、治療薬の錠剤を舌の裏に置き、数分間待って自然に溶けるのを待つだけです。基本的に1日1回行います。治療法自体は簡便なものの、治療効果が現れるまでには時間がかかることもあり、時として4~5年を要することもあります。主な副作用は口内の炎症といった軽度のものですが、体質によってはアナフィラキシーショックのような重篤な症状が起きてしまう可能性も否定できません。
 現在、人医学の領域でも舌下免疫薬を処方できるのは特別な講習を受けた医師だけです。ですから獣医学の領域にこの治療法が入ってくるのは、もう少し先と考えたほうが現実的でしょう。 ダニの舌下免疫療法とは? 人医療の分野では舌下免疫療法(SLIT)の一部が保険適用となっている