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犬の食道下部異物に対する胃切開アプローチ法

 食道に引っかかった異物を除去する時、胸ではなくお腹を切り開いてアプローチする方法の安全性が検証されました(2016.7.15/フランス)。

詳細

 犬が異物を誤飲してしまったとき、食道に引っかかったまま動かなくなることがよくあります。通常は内視鏡と医療用のマジックハンドを使って口から取り出したり、逆に胃袋の中に強引に押し込んで糞便として自然排出されるのを待ちます。しかし、引っかかっている異物が極端に大きかったり、切片が鋭利で食道壁を傷つけてしまう危険性が高い時は、外科手術によって取り出さなければなりません。 犬の食道の解剖学的な位置  一般的に行われる方法は、肋骨の隙間にメスを入れて食道を切開するという開胸アプローチ法です。しかしこの方法には「痛みが激しい」、「手術部位の外傷や離開」、「体液の漏出」、「膿胸」、「縦隔炎」、「胸膜炎」といった様々な合併症を伴う危険性があります。そこで近年検証されているのが、胸ではなく腹部を切り開き、食道を切開することなく胃の入口(噴門部)から異物に迫る開腹アプローチ法です。 食道下部の異物に対して対して行われる胃切開術  フランスにあるヴェテリネール・フレジ総合病院の外科医療チームは、2004年から2014年までの間に開腹アプローチ法による異物除去手術を受けた12のケース(うち6ケースは再手術による重複)を調べ、その効果や安全性について検証しました。調査の結果、開腹アプローチ法には「すでに食道内にある傷を広げたり、新たに傷をつけるリスクが少ない」という大きなメリットを有していることが明らかになったといいます。また開胸アプローチ法に比べて術後の痛みが少なく、入院期間も開胸術の平均である5日間よりはるかに短い2.3日間で済んだとのこと。さらに食道切開が必要ないため、術後24時間以内の給餌も可能だったといいます。
 こうした調査結果から医療チームは、食道の下部に異物が止まっている場合、従来の開胸アプローチ法よりも開腹アプローチ法の方が患犬に対する侵襲性が少なく、また予後も良いとの結論に至りました。ただし、エックス線検査や食道鏡検査で複数の浸出や重度の穿孔が見られる場合や、異物の切片が鋭くて取り出す際に傷をつけてしまうような場合は、従来通り食道を切開した方が安全だとしています。 Surgical extraction of canine oesophageal foreign bodies through a gastrotomy approach: 12 cases

解説

 調査に先立って「食道内異物」と診断された全ての犬を調べた所、全部で95ケースが見つかり、異物として最も多かったのは「骨」(63ケース | 66%)だったといいます。また開腹アプローチ法を受けた12ケースに限って見ると、全ケースにおいて「骨」が異物として食道下部に引っかかっていたそうです。恐らく、おやつとして与えられていた動物の骨を犬がガジガジと噛んでるうちに砕けてしまい、それが食道に引っかかったのだと推測されます。砕けた骨の切片は大抵尖っていますので、食道壁に食い込んだまま胃袋に落ちて行こうとしないのでしょう。「アメリカ食品医薬品局」(FDA)が「犬に骨を与えることは望ましくない」というお達しを出したのも頷けます(→詳細)。骨はまた歯の破折の原因になっているという指摘もありますので(→詳細)、飼い主としてはもう少し安全性が高いデンタル用品を与えた方が賢明だと思われます。ポイントは、歯が折れるほど硬くないこと、強く噛んでも砕けないこと、万が一砕けたとしても切片が鋭利にならないことです。 犬は骨が大好きだが、砕けたかけらによる異物誤飲の危険性が高い