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無麻酔デンタルケアによる死亡事故が発生

 無麻酔デンタルケア処置後のケガが原因で安楽死を余儀なくされたペットの報道を受け、こうした手技の是非を問う議論が再燃しています(2016.1.8/アメリカ)。

詳細

 議論の発端となったのは、2015年11月に南カリフォルニアのローカルニュースで報道された「モンキーフェイス」と言う名の猫の死亡事故です。飼い主の話によると、モンキーフェイスは「無麻酔」を表看板に掲げる安価なデンタルケア施設「Smile Specialist」でデンタルクリーニングを受けた後、一切食事を受け付けなくなったと言います。いぶかしく思った飼い主が動物病院へ連れて行ったところ、猫の舌が切れ、ほとんど取れかけていたそうです。結局、 モンキーフェイスは安楽死を余儀なくされてしまいました。
 カリフォルニア州では、およそ25年前から無麻酔の是非を問う議論が繰り広げられていますが、いまだに賛否両論が存在しているのが現状です。賛成派は「安いからメンテナンス感覚でとっつきやすい」とか「麻酔による事故の心配がない」と言う一方、反対派は「たびたび動く動物の口内をしっかりケアすることは不可能で無意味」と主張しています。法律的には「獣医師監督の下で行うこと」と規定されているものの、獣医師の資格を持っていないペットサロン、ペットホテル、ペットストアのスタッフが、獣医師の監督もないまま行うことがままあるということです。 NBC Southern California 無麻酔デンタルクリーニングを受ける犬

解説

 上記したのとまったく同じ構造が日本にもあるようです。「日本小動物歯科研究会」では、ペット動物のデンタルケアを「全身麻酔下でトレーニングを受けた獣医師がすべき処置である」と位置付けていますが、一部の獣医師やトリマー、動物看護士、歯科衛生士などが、「無麻酔」を売りにして安価なサービスを提供しているといいます。
 デンタルケアの目的は歯周病を予防してペットが将来的に味わう苦痛をあらかじめ防ぐことです。この目的を十分に達するために「全身麻酔下」と「無麻酔」のどちらが適切かは、施術者の宣伝文句に惑わされるのではなく、飼い主一人一人がメリットとデメリットを十分に検討して決めていく必要があるでしょう。以下では双方の良い面と悪い面を列挙します。
無麻酔デンタルケア
  • メリット麻酔による事故や副作用の心配がない | 目に見える部分くらいはきれいにできる | 料金が安い
  • デメリット動物に拘束ストレスがかかる(特に猫) | 歯周ポケットのケアは不完全になりやすい | 歯の裏面のケアはできない | 下顎の歯のケアは困難 | 抜歯は不可 | 動物が動いて口腔内を傷つけてしまうことがある
全身麻酔デンタルケア
  • メリット拘束ストレスがかからない | 歯周ポケットまでケアできる | 歯の裏側までケアできる | 下顎の歯までケアできる | 抜歯できる | 歯の表面をつるつるにするポリッシングまでできる
  • デメリット麻酔による事故や副作用の危険性がある(特に短頭種や高齢) | 料金が高い
 歯周病を予防するためには、数年に1回行うデンタルケア同様、飼い主による日々のブラッシングが極めて重要だとされています(→12月11日の記事)。無麻酔で犬や猫の体を強引に押さえつけて口をいじると、それ以降、口へのタッチを異常に嫌がるようになる可能性を否定できません。つまりデンタルケアをしたがために、歯磨きを日常的に行うことが困難になり、逆に歯周病にかかりやすくなってしまうという本末転倒が起こりうるということです。
 飼い主はこうした情報を踏まえた上で、ペットのためには何が最善かを検討すれば、時間とお金を幾らか節約できるものと思われます。 犬の歯のケア 犬の歯周病 日本小動物歯科研究会