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犬のてんかん重積と群発発作の危険因子

 24時間以内に2回以上のてんかん発作を起こす「群発発作」に関し、何が危険因子になっているのかを明らかにするための調査が行われました(2016.2.26/イギリス)。

詳細

 調査を行ったのは、イギリス王立獣医大学を中心とした共同研究チーム。24時間以内に2回以上のてんかん発作を起こす「群発発作」のリスクファクターとしては、過去に「犬種」、「性別」、「不妊手術の有無」などが挙げられてきました。今回研究チームは、上記項目がイギリス国内でも通用するのかどうかを確認するため、てんかん専門病院を訪れた384頭の犬を対象とした統計調査を行いました。その結果、てんかんと診断された犬のうち49.1%で群発発作の発症歴があったと言います。また群発発作の危険因子としては「てんかん重積(※)の発症歴」、「初めて発作を起こしたときの年齢が若い」、「ジャーマンシェパード(71%)」の3項目だけが残り、過去の調査で報告された「性別」、「不妊手術の有無」、「体の大きさ」と発作との間に関係性は見出されなかったとも。
 群発発作は発作フリーの実現が難しいこと、寿命が短いこと、安楽死の対象となりやすいことなど、動物の福祉を著しく低下させる要因であるため、リスクファクターの解明は今後も続けられていく予定です。
てんかん重積
 一回のてんかん発作が30分以上継続する状態、あるいは一回の発作が完全に終息する前に次の発作が連続して始まる状態。
犬のてんかん Risk factors for cluster seizures in canine idiopathic epilepsy

解説

 決定版では無いものの、過去に行われた調査ではてんかん重積や群発発作に関する幾つかのリスクファクターが示されています。
重積と群発の危険因子
  • 体の大きさ? 32頭の特発性てんかんを抱えた犬を追跡調査したところ、19頭(59%)では1回以上のてんかん重積を経験していた。19頭のうち6頭(32%)がてんかんが原因で死に至った。てんかん重積を発症しなかった犬の寿命が11.3歳だったのに対し、発症した犬の平均寿命は8.3歳だった。てんかん重積の予見因子は体重だけだった(→出典)。
  • 性別? 1993年から1996年の間てんかんと診断された63頭の犬を対象とし、死亡や安楽死が確認されるまでの間、最長12年間の追跡調査を行った。生存平均値は2.3年、死亡年齢の中央値7.0歳で、てんかんが原因で安楽死させられた犬の寿命は、それ以外の理由で安楽死させられた犬よりも顕著に短かった。全般発作と焦点発作の違いは寿命に影響を及ぼさなかったが、オス犬よりもメス犬の方が長生きする傾向があった(→出典)。
  • 犬種や不妊手術の有無? 特発性てんかんを抱えた犬407頭のうち群発発作の既往歴がある犬を追跡調査した。群発発作は169頭(41%)で認められ、てんかんと診断された時の平均年齢は4歳だった。ジャーマンシェパードとボクサーはラブラドールレトリバーよりも群発発作にかかりやすかった。またオス犬もメス犬も不妊手術を受けていないときに発症しやすかった。群発発作を発症した犬の生存年数中央値は95ヶ月で、群発発作を示した犬は示さなかった犬よりも安楽死させられる確率が高かった(→出典)。
 上記したように「体の大きさ」、「性別」、「犬種」、「不妊手術の有無」などがリスクファクター候補として考えられているようです。最初に挙げた3つは先天的なものなので変える事はできませんが、最後の「不妊手術の有無」だけは後天的に変えることが可能です。てんかん持ちの家庭では選択肢として覚えておいて損はないでしょう。
 てんかん重積や群発発作は、発作性の脳損傷や脳浮腫を加速度的に進行させ、最悪の場合は脳浮腫による脳ヘルニアが原因で死に至ることもあるため、適切な抑制治療が必要となるやっかいな病態です。また過去に行われた調査により、安楽死の対象となりやすいことも示されています。犬の死期を決定している要素には、担当獣医師の経験や採用した治療方法のほか、「飼い主の側のモチベーション」も含まれますので、可能な限りリスクファクターを排除し、人間と犬の双方が肉体的・ 精神的につぶれない範囲内で支え合うことが望まれます。
重積・群発と犬の予後
  • Batemanらの調査(1999年) 重積発作か群発発作の既往歴がある156頭の犬を追跡調査したところ、194の発作症例が認められた。群発発作(全般性+焦点性)は全体の67%、重積発作は17.5%を占めていた。194症例のうち74.7%(145頭)は退院帰宅したが、2.1%(4頭)は 死亡、23.2%(45頭)は安楽死という最期になった。死亡や安楽死の原因は、肉芽腫性髄膜脳炎、入院後6時間制御不能、部分的な重積発作だった(→出典)。
  • Plattらの調査(2006年) 重積発作を起こした50頭の犬と、通常の発作を起こした犬50頭を比較した。重積発作は、発作の原因が「一次的」や「特発性」よりも「二次的」や「反応性」だったときの方が1.57倍発症しやすかった(→出典)。
  • Zimmermannらの調査(2009年) 2002年1月から2008年3月の期間中、てんかん発作を示した394頭を調査したところ、症候性てんかんを抱えている犬のうち、重積発作を発症した犬の寿命が短くなることがわかった。また毒物が原因で重積発作を起こした犬よりも、症候性てんかんに起因する重積発作を起こした犬の方が予後が悪い(→出典)。