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小型犬より大型犬の便が緩みやすいのはなぜ?

 同じ食事内容なのに、小型犬よりも大型犬の方が便が緩くなるという現象について、そのメカニズムの一端が明らかになりました(2016.8.23/フランス)。

詳細

 古くから、25kg以上の大型犬と15kg未満の小型犬に全く同じ組成の食事を与えると、なぜか大型犬の便の方が柔らかく、水分を多く含むという現象が報告されてきました。フランスにあるロイヤルカナン・リサーチセンターを中心とした調査チームは、1998年から2013年の期間、この現象に関する生理学的な観察を行った研究報告を再考し、そのメカニズムの一端と犬に給餌する時の注意点を明らかにしました。以下はその概要です。
体の大きさと便のクオリティ
  • 大型犬の便を緩めているのは腸管透過性の亢進
  • 大型犬の便を緩めているのは大腸内における食物通過時間の延長
  • タンパク質が多すぎると未消化部が増えて便が緩くなる
  • 小腸における消化がよいタンパク質は、大腸に入ってくる未消化タンパク質の量を減らす
  • 消化性が良いのは鶏肉よりも小麦グルテン
  • 大型犬に小麦由来のデンプンは不向き
  • 小型犬は精製デンプンで便秘気味になる
  • 発酵性食物繊維で大型犬の便がゆるくなる
  • 非発酵性食物繊維は小型犬の便秘の原因になる
 以下は、上記した項目に関する仮説と検証の過程です。頻繁に登場する「浸透圧」(しんとうあつ)とは、濃度が異なる2つの水溶液を、水だけを通す半透膜を通じて混ぜた際、濃度の薄い方から濃い方へと水分が移動して均衡化しようとする現象のことを指します。例えば、腸管内の濃度が高いと水分が流入して便が緩くなり(下痢)、逆に低いと水分が流出して便が硬くなる(便秘)などです。

消化能力の違い

【仮説】  体重に対する消化管の相対重量は、小型犬が7%であるのに対して大型犬は2.8%とかなり小さい。その結果、大型犬の消化効率が悪くなって未消化の成分が大腸内に流入し、浸透圧の影響で腸管内に入ってくる水分量が増加して便がゆるくなってしまうのではないか?

【検証】  実際に試験してみると、大型犬の方が消化能力が高いという仮説とは真逆の結果になった。また10犬種49頭の犬を対象として行われた別の調査でも、小型犬と大型犬との間に消化能力の大きな違いは見出されなかった。

【結論】 大型犬で見られた便の緩さは、消化能力の低さに起因している訳では無いようだ。

腸管透過性の違い

【仮説】 小腸と大腸における透過性が上昇すると、イオン吸収能力が低下して腸管内に居残るようになり、浸透圧の影響で便中の水分量が多くなるのではないか?(※腸管透過性=ナトリウムポンプといった生物化学的な移動システムを仲介しないで上皮粘膜を通じてある分子が自動的に吸収される能力のこと)

【検証】  バリウムとエックス線撮影を用いて行われた調査では、大型犬と小型犬とでは結腸直腸の長さや大きさ、表面積、体積に違いがあることが示されている。また小腸と大腸における透過性に関し、大型犬の方が顕著に高いことが確認されている。恐らく、腸管の表面積、細孔の大きさ、密着結合の密度や性質、管腔内の内容物がもつ腸陰窩に対する可触性などが影響しているのだろう。
 体の大きさによってイオンの吸収能力が変化するかどうかを確認するため、大型犬と小型犬を対象としてナトリウムとカリウムの吸収率が調査された。その結果、大型犬はナトリウムとカリウムの正味の消化率が低く、同時に糞便内の濃度が高いことが確認された。これらの事実は、大型犬のミネラルの吸収効率が悪いことを意味している。

【結論】 大型犬で見られる便の緩さには、腸管透過性の違いが関与しているものと推測される。

腸管通過時間の短縮

【仮説】  摂取した栄養成分が腸管内を通過する時間が短いと、吸収が十分に行われず水分や栄養分子が腸管内に停滞し、緩い便になるのではないか?

【検証】  大型犬と小型犬における腸管内のトータルの通過時間を比較したところ、体の大きさとの間に正の相関関係が見られた。しかし胃内容排出時間および口-盲腸通過時間に関しては、大型犬と小型犬の間に違いは見られなかった。消去法で考え、大型犬と小型犬において決定的に違うのは大腸における通過時間であると推測される。大腸内での通過時間が短いと水分の吸収が十分に行われず、水っぽい糞便になってしまうのではないかという仮説を検証するため、実際に調べてみた。すると、大型犬の大腸通過時間は腸管総通過時間の70%、小型犬のそれが39%という具合に、仮説とは真逆の結果だった。

【結論】 大腸内における食物通過時間の短縮は、大型犬の緩い便とは無関係だと考えられる。

腸管通過時間の延長

【仮説】  大腸における通過時間が延長すると、腸内細菌叢による発酵作用が増加し、代謝物が浸透圧を変化させて腸管内へ水を呼び込んでしまうのではないか?

【検証】  糞便中の発酵副産物を比較したところ、乳酸や短鎖脂肪酸濃度は大型犬で顕著に高かった。この事実は大腸内における発酵作用の高さを意味している。また食物繊維の見かけの消化率を比較したところ、大型犬の方が高かった。腸内細菌叢によって生成された有機酸のトータル量は犬の大腸粘膜の吸収能力を超えており、管腔内部に蓄積した有機酸が浸透圧を高め、水分の流入を招いて糞便を柔らかくしてしまうものと推測される。

【結論】 大腸内における食物通過時間の延長は、大型犬の緩い便の原因だと推測される。

タンパク質の質と量

【仮説】  タンパク質が未消化のまま大腸内に入ってくると、腐敗、悪玉菌の増殖、発酵副産物(アンモニア・分岐鎖脂肪酸・インドール・フェノール)の増加を招き、浸透圧の影響で便の水分量が増えるのではないか?

【検証1】  タンパク質の原料が消化性に及ぼす影響を調べるため、小麦グルテンベースのタンパク食と、鶏肉ベースのタンパク食とを給餌した。その結果、小麦グルテンベースのタンパク食は犬の体の大きさにかかわらず糞便の水分量を減らし、均一性を上昇させた。また鶏肉ベースの食事に比較し、発酵副産物や短鎖脂肪酸が少なかった。

【結論】 小腸における消化がよい小麦グルテンといったタンパク質は、大腸に入ってくる未消化タンパク質の量を減らし、結果として糞便クオリティを高めるものと推測される。
【検証2】  タンパク質の量が消化性に及ぼす影響を調べるため、鶏肉ベースの高タンパク食と低タンパク食を給餌した。その結果、高タンパク食は犬の体の大きさにかかわらず、糞便中の水分含量を最大にすることが明らかになった。その一方、低タンパク食は体の大きさにかかわらず、アンモニアや分岐鎖脂肪酸といった揮発性有機物質の濃度を減らすことが分かった。

【結論】 大腸における発酵作用を減らし、糞便のクオリティを高めたいならば、摂取するタンパク質の量を調整しなければならないだろう。

炭水化物(デンプン)

【仮説】  エクストルード(押出成形)で作られたドッグフードの中には、20~50%のデンプンが含まれている。しかし、製品によっては含まれるデンプンのクオリティーに格差が見られ、消化に影響を及ぼすものと推測される。

【検証1】  デンプンの原料が消化性に及ぼす影響を検証するため、とうもろこし、米、小麦由来のデンプンを給餌した。その結果、小型犬ではデンプンの原料によって影響を受けなかったが、大型犬では小麦デンプンの時にだけ糞便が緩くなった。小型犬で糞便クオリティーの低下が見られなかったのは、小麦由来のデンプンに対して許容度が高かったためと考えられる。

【結論】 大型犬や食事による影響を受けやすい軟便の犬では、小麦由来のデンプンはあまり大量に過剰に用いないことが推奨される
【検証2】  デンプンの製法が消化性に及ぼす影響を検証するため、粒子の細かい精製デンプンと粒子が粗い小麦デンプンを給餌した。その結果、大型犬では糞便のクオリティーが理想に近づいたのに対し、小型犬では糞便が乾燥して硬くなった。精製されたデンプンは通常のグラインド製法に比べて粒子が細かく、小腸における消化性が良くて大腸内に入ってくる未消化成分が減り、結果として腸内細菌叢による発酵作用が減ったものと推測される。

【結論】 精製デンプンは大型犬に有効と考えられるが、小型犬では糞便が乾燥して硬くなる傾向があるので配慮が必要である。

食物繊維

【仮説】  食物繊維には発酵性食物繊維と非発酵性食物繊維とがあり、前者は胃や小腸における消化をすり抜け、大腸において腸内細菌叢による発酵作用を受ける。

【検証1】  発酵性食物繊維が消化性に及ぼす影響を検証するため、極めて発酵性が高い(90~100%)とされるフルクトオリゴ糖や中等度の発酵性(19~25%)をもつビートパルプを給餌した。その結果、大型犬ではフルクトオリゴ糖1.5%およびビートパルプ7.5%で20%の犬の糞便が緩くなった。一方、小型犬はビートパルプ7.5%でも98%の糞便で理想的と評価された、またフルクトオリゴ糖1.5%でも糞便クオリティーの低下は観察されなかった。

【結論】 大型犬と小型犬とでは大腸内における発酵性食物繊維の作用に違いがあるようだ。発酵性食物繊維を与えるときは、小型犬で増やし大型犬で減らさなければならない。
【検証2】  非発酵性食物繊維が消化性に及ぼす影響を検証するため、セルロースを給餌した。その結果、セルロースの含有量が0%から4.5%に増加すると、ジャーマンシェパードの理想的な糞便の割合が40%から70%に増加し、また緩い便の割合は9%から1%に減少した。小型犬で同じ給餌試験を行ったところ、セルロース4.5%で40%以上の糞便が乾燥して硬すぎると評価された。またセルロース1.5%の時点ですでに便秘の兆候が観察された。

【結論】 非発酵性食物繊維は小型犬の便秘の原因になる可能性があるため、給餌に際しては注意が必要である。
Digestive sensitivity varies according to size of dogs: a review.
Weber, M. P., Biourge, V. C. and Nguyen, et al 2016