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子供の咬傷事故を減らすためには親の監督が重要

 6歳以下の子供と犬が同居している家庭へのアンケート調査から、よくある思い込みと効果的な咬傷事故予防法が明らかになりました(2016.8.16/オーストリア)。

詳細

 調査を行ったのは、オーストリア・ウィーン大学の獣医学チーム。2014年の7月から11月にかけ、Facebookや犬の雑誌を通してドイツやオーストリアから402名の回答者を募集し、160項目からなるアンケート調査にオンラインで記入してもらいました。
 回答者(保護者)に対し、子供と飼っている犬とが交流している状況においてどのような監督を行っているかに関する質問をしたところ、以下のような傾向が見えてきたと言います。評価は「まったく同意しない=1」~「強く同意する=6」までの6段階評価で、数字が大きいほど同意の度合いが強いことを意味しています。
同意度が低かったトップ3
  • パソコンやテレビに夢中になっている時、犬と子供を空間的に引き離す(2.20)
  • 庭にいる犬と子供から目を離す(2.36)
  • 犬がうなったり歯を鳴らしたりした時だけ子供と犬の交流を止める(2.47)
同意度が高かったトップ3
  • 骨を持っている犬に子供が近づこうとしたら止める(4.93)
  • ちょっとの間なら犬と子供から目を離す(4.69)
  • 犬と子供に背中を向ける(4.50)
 「骨を持っている犬に子供が近づこうとしたら止める」といった基本的な危機意識は見られるものの、「庭にいる犬と子供から目を離す」、「ちょっとの間なら犬と子供から目を離す」、「犬と子供に背中を向ける」など、子供と犬の様子を常に監視しているわけではないという現実が浮き彫りになりました。 保護者は犬と子供を常に監視しているわけではない  また犬の咬傷事故に関する9つの問題を出したところ、以下のような成績になったと言います。「○×」は問題文の正解、そして割合は正答率を示しています。
犬の咬傷事故に関する問題
  • 子犬はほとんど咬傷事故を起こすことがない(×)=76.7%
  • 子供のほとんどの咬傷事故は親しい犬によって起こされる(○)=80.7%
  • ダックスフントのような小さな犬でも赤ん坊を殺すことができる(○)=89.0%
  • 小さい子供の咬傷事故が発生したとき、両親はだいたいそばにいない(×)=76.5%
  • 子供の咬傷事故では顔、頭、首をよく噛まれる(○)=94.8%
  • 子供の咬傷事故は撫でるとか抱きしめるといった友好的な交流でも発生する(○)=65.6%
  • 子供の咬傷事故は家ではなく、ほとんど公共の場で発生する(×)=84.9%
  • 5歳未満の子供は小型犬に噛まれることが多い(○)=37.0%
  • 寝ている赤ん坊の側に犬を放置しておいても問題ない(×)=96.3%
 平均正答率は7問(77.7%)というまずまずの結果になりました。しかし「友好的な交流中でも咬傷事故は発生する」(正答率65.6%)、「保護者がそばにいても咬傷事故は起こる」(正答率76.5%)、「小型犬でも咬傷事故は起こる」(正答率37.0%)の3問は平均を下回り、「保護者が近くにいて子供が優しく振る舞っていれば、小型犬が子供に噛み付く事は無い」と思い込んでいる人が比較的多いことが明らかとなりました。 保護者が犬の近くにいるだけでは、咬傷事故の予防につながらない  こうした結果を踏まえて調査チームは、保護者の存在自体に咬傷事故の予防効果はなく、あくまでも何らかの監督的な介入をしなければ意味がないとし、具体的に以下のような事故予防策を提唱しています。
効果的な咬傷事故予防法
  • 保護者としての自覚を持つ 7歳未満の子供の咬傷事故において、84%のケースで親が近くにいたというデータがある。保護者が子供と犬の交流の仕方に対しあまり危機感を抱いていないと推測されるため、まずは「ただ見ているだけではいけない」という自覚を持つことが重要。
  • 犬を過信しない 15歳未満の子供の2.2%が咬傷事故の被害にあっており、年齢が若ければ若いほど頭や首をかまれる機会が多いというデータがある。また咬傷事故を起こすのは馴れているはずのペット犬であることも多く、撫でる、抱っこする、キスをするといった友好的な交流の中で発生することもしばしば。「ペット犬だから同居人を噛むことはない」という盲信は捨てる。
  • 犬を罰しない 親が犬を叱ったり叩いたりしていると、子供も同じ行動をとってしまう危険性がある。懲罰的なしつけ方は犬の不安や攻撃行動を増加させることが多くの研究で確認されているため、子供が真似して咬傷事故のリスクを高めないよう、罰するタイプの接し方は厳しく制限すべき。
  • 犬の健康管理を行う 子供を噛んだ犬のうち、50%は何らかの医療的な問題を抱え、77%は不安に関連した行動を見せていたというデータがある。身体的な痛みは犬の防御本能を高めて攻撃行動への閾値を低下させるため、日常的に犬の健康管理を行って不要な痛みから解放してあげることは必須。
  • 環境コントロールを行う 子供が犬の邪魔をしないよう、犬専用の休憩スペースや食事スペースを設けてあげることは有効。特に、保護者が十分に監督できないときなどは、赤ちゃん用のゲートといったアイテム用いて犬と子供の接触を制限する。
  • 犬を挑発しない 他の犬との社会的な競争は、犬の攻撃性を増加させ、通常であれば許容される行動に対しても過剰に反応する危険性がある。また、見知らぬ犬と子供が交流する場面において「わんちゃんだよ、なでてごらん」など親が率先して危険な行動を促すことがある。犬と犬、あるいは犬と子供を安易に近づけ、パーソナルスペースを侵害するような行動は厳に慎むべき。
Attitudes of caregivers to supervision of child?family dog interactions in children up to 6 years-An exploratory study

解説

 今回の調査では、ある特定の写真を見せ、保護者が介入する必要があるかどうかを判断してもらうというユニークな調査も併せて行われました。咬傷事故予防のエキスパートが「介入の必要あり」と判断した写真に対し、回答者が「必要なし」と回答した人(1~3の評価を下した人)の割合と、「必要あり」と回答した人(4~6の評価を下した人)の割合の内訳は以下です(※写真は似たものに差し替えてあります)。 子供が犬の寝床に入って添い寝する状況は危険 子供が休憩中の犬にハイハイしながら近づく状況は危険 子供が犬の上から手をかざして餌を与える状況は危険  数字を見ると、多くの保護者が「まあ介入するまでもないだろう」と楽天的に評価していることが伺えます。しかしどの状況も、潜在的には咬傷事故の危険性をはらんでいるようです。犬は多くの場合、実際の攻撃行動に入る前に何らかの警告サインを出していますので、犬と子供が同居している家庭においては、犬のボディランゲージを読み取る方法や、犬のカーミングシグナルに関する知識を子供に教えておいた方が無難だと思われます。 犬のカーミングシグナル 犬の心を読む訓練