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犬はモノマネが得意?

 犬の都市伝説の一つである「犬はモノマネが得意」について真偽を解説します。果たして本当なのでしょうか?それとも嘘なのでしょうか?

伝説の出どころ

 「犬はモノマネが得意」という都市伝説の出どころは、犬の飼い主たちが報告する散発的なエピソードの数々だと考えられます。例えば「教えた訳でもないのに、犬がドアを開けられるようになった」といった話は誰もが一度は耳にしたことがあるでしょう。その他にも、以下で紹介するようなさまざまなバリエーションがあります。
遠吠えを真似する
 以下でご紹介するのは、生後3週例の子犬が飼い主の少年が出す声に合わせて遠吠えを発する瞬間の動画です。 元動画は⇒こちら
言葉を真似する
 以下でご紹介するのは、犬が飼い主の言葉にあおられて「ママ」という言葉を真似する瞬間の動画です。 元動画は⇒こちら
あくびを真似する
 以下でご紹介するのは、犬が飼い主のあくびに合わせてあくびで応える瞬間の動画です。あくびの伝染という現象は人間同士の間のみならず、犬、狼、チンパンジー、ゲラダヒヒ、セキセイインコなどでも確認されています。 元動画は⇒こちら
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伝説の検証

 ある動物が他の動物を観察した後で、その行動を真似することを「社会的学習」と言います。言葉にすると単純ですが、内容を詳しく見ていくと言葉の響きほど単純ではないようです。

社会的学習の種類

 動物同士の間である特定の行動が伝播する「社会的学習」には様々な種類があり、研究者ごとに異なる分類をしていることも少なくありません。例えば、以下のような例が挙げられます。なお「実演者」とは行動を見せる側の動物のことを、「観察者」とは行動を観察する側の動物のことを意味します。
社会的学習いろいろ
社会的学習の一般的な分類一覧表
  • 伝染 実演者が見せた行動を観察者が再現するものの、行動の目的までは理解していない。例えばあくびの伝染など。
  • 社会的促進 実演者の存在が観察者の動機レベルを増加させること。例えば、1頭の犬が餌を食べ始めると、他の犬も釣られて食べ始めるなど。
  • 観察条件付け 実演者が行動の結果として何らかの報酬を得ている場面を観察することで、観察者がその行動を学習すること。行動は既にマスターしたもののほか、今まで1度も行ったことがないまったく新しいものも含む。例えば、お手をして餌をもらっている犬を観察した他の犬が、自発的に人間に対して前足を出すなど。
  • 反応促進 観察者がすでに体得しているある1つの行動パターンが、別の文脈において発現すること。
  • 局地的増進 実演者の行動の痕跡が残された特定の場所や特定の対象物に、観察者が惹きつけられること。例えば、他の犬のおしっこの匂いを嗅ぎ付けたオス犬が、その上に自分のおしっこをかけるなど。
  • 刺激的増進 実演者によって操作を加えられた対象物と同じ特質を持った対象物全てに、観察者が惹きつけられること。例えば、ボールを使って遊んでいる犬の姿を見た他の犬が、球形のものを使って遊びたがるなど。
  • 見習い 実演者の行動から解決すべき問題を学習すること。実演者は生物でも非生物でもよい。また問題を解決する方法は実演者と必ずしも一致しなくても良い。例えば、冷蔵庫の下に転がったドックフードを鼻先を使って取ろうとする犬を見た他の犬が、前足を使って取ろうとするなど。
  • 模倣 研究者によって定義が異なり、「他のあらゆる代替メカニズムの可能性が否定された後に残る社会的学習の一形態」といった漠然とした表現をされることもある。一般的には「その場限りでなく長期的に行動の反復が見られる」、「単なる行動のコピーではなく目的まで理解している」、「自発的にはまず現れないような行動をとりうる」といった条件を含む。The Social Dog(Chapter9)

犬が見せるモノマネ行動

 数ある社会的学習の中で、最も高度なのは「模倣」であるとされています。この行動には「目的に対する理解」が含まれるため、それだけたくさん脳を使うというわけです。現在、犬に模倣が可能かどうかという問題に関し、一致した見解はありません。理由は、犬に目的意識があるかどうかを実験的に検証することが極めて難しいからです。以下では、社会的学習の分類はさておき、犬で観察されている「モノマネ」の具体例をいくつかご紹介します。

筒を傾ける

 2012年、ハンガリーのPongraczらは、水平状態に保たれた筒の中にボールを入れ、取り付けられたロープを下に引っ張るか、筒を下に押し下げるかしたら中に入っているボールを取り出すことができるという特殊な装置を作って犬の社会的学習能力を検証しました(→出典)。 筒の端に取り付けられたロープを引っ張ったり、筒を押し下げたりすることでボールを取り出せる装置が作られた  実験ではまず、実演者の犬に「ロープを下に引っ張る」か「筒を下に押し下げる」がどちらか一方の行動をとらせ、その様子を観察者の犬に見学させました。その後、観察者の犬に実験装置を使わせ、行動の再現率を検証したところ、実演者がいない状況での選択確率よりも高い確率で、実演者が見せた行動を選択したと言います。ただし実演者が選択したサイド(右か左か)までは再現しなかったとも。
 こうした事実から研究チームは、この行動は「模倣」に近いのではないかとの結論に至りました。「社会的促進」ならサイドまで真似されるはずで、「見習い」なら行動がどちらか一方に偏る事は無いと考えたためです。

レバーを下げる

 2007年、オーストリアのRangeらは、「口にボールをくわえる」と「口にボールをくわえない」という2つの状況下で、実演者の犬に前足でレバーを下げておやつを取り出すという行動をしてもらいました(→出典)。 ボールをくわえた状態で前足を使うのが合理的な方法、口に何もくわえていないのに前足を使うのが非合理的方法  この様子を観察者の犬に見学させた後、実際に実験装置を使わせてみたところ、実演者がボールをくわえていない状況を観察した犬では前足を頻繁に使うという傾向が確認された一方、実演者がボールをくわえている状況では、犬にとって使いやすい口の方が優先的に用いられたといいます。こうした事実から研究チームは、犬には人間の乳幼児で見られるような「合理的な模倣」ができるのではないかという結論に至りました。「合理的な模倣」とは、行動の目的だけを真似して、その目的に到達するための手段は臨機応変に変更するという能力のことです。例えばこの実験を例にとると「ボールをくわえた状態で前足を使う」という行動を見た観察者が、「もしボールをくわえていなければ使いやすい口の方を使うはずだ」と考え、「前足を使う」という行動を放棄し「口を使う」という合理的な行動を選択するなどです。
 しかしその後、この実験に関しては反証が提示されました。2011年、ドイツのカミンスキらは上記実験に「レバーに何も取り付けられていない」と「レバーにボールが取り付けられている」という新たな状況を設け、再び犬の行動を観察してみました(→出典)。その結果、観察者の犬が口を使う頻度が高くなったのは、「実演者がボールをくわえている状態」と「レバーにボールが取り付けられた状態」だったといいます。こうした結果から研究チームは、観察者が口を使うのは、ただ単にボールを見たことによって意識が口に向いただけに過ぎず、人間の乳幼児で見られる「合理的な模倣」とは別物であると結論づけました。

フェンスを迂回する

 2003年、ハンガリーのPongraczらはV字型のフェンスを作って裏側に餌を設置し、スタート地点から犬に迂回させるという実験を行いました。最初のテストは実演者なし、その後の2回は実演者ありという設定です(→出典)。 実演者がいない場合、犬はフェンスを迂回して目的に到達するという単純な行動が殆どできない  実験の結果、最初のテストとそれ以降のテストの間では、迂回が完了するまでにかかる時間が大幅に短縮したといいます。実演者は人間でも犬でも変わらず、また飼い主でも見知らぬ人間でも成績に違いが生じなかったとも。ただし実演者が用いた迂回の方向まで真似することはなく、最初のテストで自分が選んだ方向を踏襲する傾向が見られたそうです。こうした結果から研究チームは、観察者の犬は「回り込む」という行動に関しては実演者から学習するものの、「どちらの側を使うか」という件に関しては、観察者自らの経験を下地にしているという奇妙な現象を発見しました。
 翌2004年、上記実験をさらに発展させたバージョンが考案されました(→出典)。この実験では、観察者に行動を見せる代わりに匂いの痕跡を残す「匂いだけグループ」、実演者の人間がフェンスを迂回して見せるが犬に対して明示的な合図を送らない「歩行だけグループ」、実演者と犬が共にフェンスを迂回するが話しかけない「実演者と歩行グループ」、実演者は犬とともにフェンスを迂回している間、さまざまな明示的な合図を送る「歩行と話しかけグループ」という4つのグループを作り、社会的学習にどのような違いが生ずるかが検証されました。その結果、実演者が人間の場合に限り「明示的な合図」がなければ社会的学習が起こらないことが判明したといいます。「明示的な合図」とは、名前を呼んで注意を引く、アイコンタクトを取る、ターゲットを指差すといった一連の行動のことです。さらに、遠くで見ている犬に対して実演者が注意を自分に向け、模範演技をしてみせると、一緒に連れ立って歩いた時と同じ成績を示したといいます。こうした結果から研究チームは、犬と人間の間の社会的学習を促進しているのは「行動を共にする」ことではなく、むしろ「明示的な合図」の方であるという可能性を突き止めました。 犬と人間との間の社会的学習促進しているのは、犬の注目を人間に引きつける明示的な合図である

ライバルトレーニング

 「ライバルトレーニング」とは、1人の実演者に対して複数の観察者が存在しており、観察者の内の1人にトレーニングを施している間、他の観察者はその光景を眺めるだけという状況のことです。オウムに対して用いた所、観察者のオウムは、ただ単にトレーニング風景を眺めていただけで、新たな行動を覚えることができたと言います。  オウムは他の個体が報酬を受け取っている場面を観察するだけで新たな行動を覚える  2009年、ドイツのTennieらは、上記「ライバルトレーニング」の手法を180頭の犬に対して用いてみました(→出典)。内容は、実演者となる犬に対象物を必要としない「自動詞的な運動」(後ろ足で立ってスピンするなど)を模範演技してもらい、観察者の犬に社会的学習が起こるかどうかを検証するというものです。その結果、事前にその運動をマスターしていた犬以外では、ただ単に観察しただけで新しい行動をマスターすることはできなかったと言います。こうした結果から研究チームは、犬に「文脈的な模倣」ができるという証拠を見つけることができなかったと結論づけました。ここで言う「文脈的な模倣」とは、他者が何らかの報酬を得ている姿を見て同じ行動を取ろうとする「観察条件付け」に近い概念です。
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伝説の結論

 現在、各種の実験で確認されている犬の社会的学習能力から考察する限り、犬が他の犬や人間の行動を見て自分の行動に反映させるという現象は、確かに存在しているようです。しかし、行動の目的までしっかりと把握した「見習い」や「模倣」といった高度なモノマネまでできるかどうかは微妙です。例えば餌を持って立っている飼い主のところにたどり着くため、フェンスを迂回させるという実験が行われたことがあります。最初に行われた4回のトライアルで、犬たちはフェンスに1ヶ所だけある開口部を通って飼い主にたどり着くことができました。ところが開口部を反対側の端に移動したとたん、新しい開口部を見えているし、以前開口部だった場所がフェンスになっているのが見えているにもかかわらず、この簡単な問題を一発で解ける犬はいなかったと言います。こうしたことからも、行動の中から目的だけを抽出し、目的に到達するための手段は適宜変更するという合理的な思考が、犬にできるかどうかという点に関しては疑問が残ります。ですから「犬はモノマネが得意」という都市伝説は条件付きで本当といった感じになるでしょう。 犬は急激な状況の変化に対し、臨機応変に対応することができない  犬に高度な社会的学習ができるかどうかははっきりわかっていませんが、「社会的促進」や「局所的増進」、「刺激的増進」といった単純な学習ならできるという点に関しては大方の研究者の間で意見が一致しています。こうした学習の中には、日常生活に応用できると思われるものもいくつか含まれています。

遊びを促進する

 モノマネ行動には、犬と犬との間、および犬と人間との間における遊び行動を促進する可能性があります。
 イタリア・ピサ大学の研究チームは2012年8月、イタリア・シシリア島にあるドックパークにおいて、49頭(メス26頭+オス23頭/平均17ヶ月齢 )の犬を対象とした録画観察を行いました(→出典)。合計50時間に及ぶ犬同士のプレイセッション(遊び交流)を解析したところ、以下のような事実が判明したといいます。なお「PBOW」とは、犬が相手を遊びに誘うときに見せる特徴的なおじぎ姿勢のことで、「ROM」とはリラックスした感じで口角を引いた表情のことです。
遊び中の返答行動
  • PBOWやROMを受け取った犬では、77%の割合でその行動に対する返答が見られた
  • 返答行動が見られたペアにおいては遊び行動が長く継続した
  • 犬同士の関係が近ければ近いほど、返答行動の頻度が高まった
 こうした事実から研究チームは、「人間や霊長類で確認されているのと同じように、犬にもある程度共感能力があり、それは相手の仕草や表情を真似する返答行動によって促進されている」、そして「返答行動は相手との結びつきの強さと比例関係にある」との結論に至りました。 人間のプレイバウによって犬との遊びが促進される  2001年にイギリス・サウサンプトン大学が行った調査によると、人間が犬の真似をしてプレイバウを見せると、犬もそれに呼応して遊びに展開するという現象が確認されています(→出典)。ペットとの絆を深めるため、飼い主が犬になりきってお辞儀をしてみるのも一興かもしれません。 犬がお辞儀をする

行動を真似させる

 人間の行動を模倣させることで犬にある一定の行動教え込ませる「真似してごらんメソッド」は、しつける内容によってはクリッカートレーニングよりも有効かもしれません。
 ハンガリー・エトヴェシュロラーンド大学のチームは、ある特定の行動を犬に教え込ませる際、人間の猿真似をさせる「真似してごらんメソッド」(Do As I Do method/DAID)が、一体どの程度の有効性を持っているかを確認するため、ドッグトレーニングの分野で広く用いられているオペラント条件付けを利用した「クリッカートレーニング」(Shaping)との比較を行いました(→出典)。「DAID」と「Shaping」に習熟したトレーナーが、それぞれの方法を用いて犬に規定の行動を覚え込ませ、任意の指示語で再現できる状態にした後、指示語を受けた犬が5回連続で覚えた行動を再現できるまでの時間を計測しました。その結果、「DAID」の方が従来の「Shaping」よりも、短い時間で行動の一貫性を確立できたと言います。また実験で用いた指示語を、実験環境とは全く違った状況で犬に与えたとき、行動を再現できる割合は「DAID」の方が高かったとも。
 こうした結果から実験者たちは、「特に対象物に働きかけるような行動を犬に覚え込ませる際は、人間の猿真似をさせる”真似してごらんメソッド”の方が、クリッカートレーニングよりも有効である」という可能性を示しました。
真似してごらんメソッド
 以下でご紹介するのは、「真似してごらんメソッド」(Do As I Do method)のトレーニング風景です。最初はなるべく単純な行動から始め、徐々に複雑な行動へと移行していきます。 元動画は⇒こちら
 上記「真似してごらんメソッド」は、対象物に働きかける「おもちゃを既定の場所に片付ける」といった行動を新たに覚えこませる際に威力を発揮してくれるようです。このメソッドを実生活の中で応用する際は、事前に「人間と同じ行動したらご褒美がもらえる」という因果関係を十分に教え込ませておく必要があります。例えば犬と向かい合って「右を向く」という行動を見せ、犬が同じ方向を向いたらご褒美を与えて強化します。次に「左を向く」という行動を見せ、犬が同じ方向を向いたらご褒美を与えて強化します。同様に「床に置いたカップを動かす」、「床に立てた本を倒す」、「床に落ちたボールを拾う」といった単純な行動を見せ、犬が同じ行動をとったらその都度ご褒美を与えます。犬が「同じ動きをしたらご褒美がもらえる!」と理解したタイミングで、「マネシテ!」など任意の指示語と結び付けます。このプロセスを根気よく続けていくと、犬は「マネシテ!」の合図によって、人間が直前にしていた行動を真似することができるようになります。この指示語を覚えているだけで、犬の行動パターンは随分と広がってくれることでしょう。 犬のしつけの基本理論
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