犬が腹を見せる状況
犬がおなかを見せて仰向けに寝転がっています。さて、この時の犬の気持ちは?
腹を見せるときの気持ち解説
骨格で覆われていない腹部やのどは動物にとっての弱点です。その弱点を見せるということは相手に対して全幅(ぜんぷく)の信頼を置いて安心しきっていることを意味します。ですから正解は、リラックスしている気分を表す「ああ安心だなぁ」とか「幸せだなぁ」くらいが妥当でしょう。
なお「腹見せ」という行動は日常生活の中で非常によく見かけますが、実は状況に応じて様々な意味に変化します。以下に示すのは、犬が見せるこの行動を大まかに分類した時の一覧図です。「社会的」とは他の犬や人に対して何らかのメッセージを含んでいることを意味し、「非社会的」とは何のメッセージも含んでいないことを意味しています。
最も解りやすいのは「非社会的な腹見せ」です。具体的には「背中がかゆい」、「暑い! 」、「リラックスしている」、「眠い」などが含まれます。すべてに共通しているのは、他の犬や人間に対して何かメッセージを伝えようとしているわけではないと言う点です。上の写真の犬も、何かを飼い主に伝えようとしているというよりは、リラックスした結果として自然と仰向けになっているように見えますので、分類上はこの「非社会的な腹見せ」に近いと言えるでしょう。
一方、「社会的な腹見せ」は見分けるのに多少の予備知識を必要とします。具体的には以下のような種類を知っていれば十分でしょう。
犬の「社会的な腹見せ」
- 服従 「服従の腹見せ」とは、劣位にある犬が優位にある犬に対して「降参です!」という意思を伝え、怒りの矛先を納めてもらうときに見せる行動です。儀礼的な行動が発達しているオオカミにおいて特に顕著で、典型的な体勢は仰向けに横たわり、耳を平らにし、背中を丸め、尻尾を後ろ足の間に巻き込み、動きを止め、視線を避けるというものです。「アピーズメント」(appeasement, 宥和行動)と呼ぶ人もいます(Packard, 2003)。
- 遊び 「遊びの腹見せ」とは、遊びに興じている犬たちの間で観察される行動のことです。2015年1月、カナダ・ドライブ大学の研究チームは、実観察とYouTube上の動画観察を組み合わせ、犬同士の間で見られた合計248回の腹見せ行動を分類し、以下のような結果を導き出しました。青が実観察で緑が動画観察です。 グラフが示す通り、犬においては圧倒的に「防御的腹見せ」が多いという結果になりました。「防御的腹見せ」とは相手の攻撃をかわすために取る防御姿勢のことで、「攻撃的腹見せ」とは噛み付く直前に取る攻撃態勢のことです。また「誘発的腹見せ」とは「もっと遊ぼうよ!」と相手を誘うときに見せる行動のことで、自発的に自分を不利な体勢に置くことから「セルフハンディキャッピング」(self handicapping)とも呼ばれます。すべての腹見せに共通しているのは、「遊びの一部である」という点です。Supine postures as facilitators of play in domestic dogs
- おねだり 「おねだりの腹見せ」とは人間との共同生活の中で学習した結果としての行動です。例えば、仰向けで眠っている時に飼い主がやってきておなかをなでてくれたとします。そのときの気持ち良い感覚と「腹見せ」という行動を結びつけて覚えた犬は、なでて欲しくなった時、自発的にお腹を見せるようになります。このように、「腹見せ」と何らかの報酬が結びつき、人間に対して何か要求がある時のみ見せるようになるのが「おねだりの腹見せ」です。怒られそうになると急にひっくり返る犬は、そうすることで飼い主さんが笑って許してくれるという場面を、過去に経験したことがあるのかもしれません。この場合、「服従の腹見せ」と見分けることはなかなか難しいでしょう。
犬が腹を見せる動画
犬がおなかを見せてごろーんと寝転がっています。おへそを天井に向けることから「ヘソ天」などとも言われていますね。甘えん坊の犬などは、仰向けになって腹部を見せるのみならず、その体勢でおしっこを出しちゃったりします。この行動は、生後間もない子犬が母犬に見せる行動ですので、そんなときは飼い主のことを「お母さん」と思っているのかもしれません。
ヘソ天をする犬たち
犬が腹を見せる写真
人間も同じですが、犬の腹部は骨格(肋骨)に覆われていないので、外からの圧力や衝撃には弱い場所です。その弱点をさらすということは、相手に対して相当信頼感を抱いているということを意味します。人懐こい犬を撫でていると、すぐにひっくり返っておなかを見せますが、警戒心の強い犬はなかなかこのポーズをとってくれませんよね。