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犬の出産

 交配日から数えて42日以降の妊娠後期になると、いよいよ出産間近です。犬の出産準備から産後の母体ケアまでを解説します。
注意とお願い  ここでは犬の繁殖に関する客観的な事実を述べていますが、興味本位や暇つぶしでの繁殖は推奨しておりません。漠然と「子犬がほしいなぁ~」と考えている方は、犬や猫の殺処分について犬や子犬の里親募集も、あわせてご一読ください。

産箱の用意をする

 妊娠後期(交配日から数えて42日以降)に入り、床を引っかくような営巣行動(えいそうこうどう)や落ち着きなくうろうろするなどの行動が見られたら、いよいよ出産が近いというサインです。飼い主は母犬が安心して出産ができるよう、産箱(さんばこ)の準備をします。
 犬の祖先であるオオカミが出産するときは、外敵から見つからない場所に穴を掘り、その中で出産しますが、犬も同様に外敵から見つかりにくい遮蔽された空間を本能的に求めるようになります。穴を掘る行動に相当するのが前述した「営巣行動」であり、外敵から身を隠す穴に相当するのが「産箱」という訳です。産箱は市販されているものもありますが、ダンボールで作っても構いません。以下は産箱を設置する際の注意点です。
産箱のセッティング
母犬が安心して出産できる空間が産箱です。セッティング方法は解説とともにご確認ください。
  • 囲い  写真の1で示されたのは、出産場所を外界から遮蔽(しゃへい)する板です。母犬が安心するようになるべく外から見えないように囲います。素材は板、ダンボールなどで構いません。
  • 出入り口  写真の2で示されたのは、母犬用の出入り口です。床に近い部分には生まれた子犬が飛び出さないように仕切りをつけておくと良いでしょう。
  • サークル  写真の3で示されたのは、母犬が普段生活しているサークルです。産箱は特殊な場所ではなく、自分の匂いがついた場所の近くの方が、母犬も安心できます。
  • 産箱の中 子犬が凍えないようにペットヒーターがあったほうが無難  写真の4で示されたのは、産箱の内部です。産箱の中はタオルケットや短冊(たんざく)状に切った新聞紙(わらの代わりとして)、もしくは丸めた新聞紙を敷き詰めます。新聞紙なら汚れても幾らでも交換できますので便利です。また寒い季節や気温の低い日のためにタオルケットや新聞紙の下にペットヒーターを入れておきましょう。生まれたての子犬は体温調整ができず、生後30日頃になってようやく36℃になる程度です。子犬が凍えないようにペットヒーターがあったほうが無難でしょう。
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メス犬の出産兆候を読み取る

 産箱の用意もできて後は出産を待つばかりです。交配日から数えて60日頃になり、実際の分娩が近づくと母犬は以下のようなサインを見せます。
母犬の出産サイン
  • 営巣行動がより頻繁になる
  • 落ち着きがなく常にうろうろする
  • 呼吸がいつもより荒く激しくなる
  • 体温が低下する(37.5℃)
  • 食べ物を受け付けなくなる
  • 排尿・排便が多くなる
 以上のような兆候が見られたら分娩が近い証拠ですので、飼い主は交配から60日頃には特に注意して母犬を観察していなければなりません。
 妊娠56日頃に分娩してしまうことを早産(そうざん)といい、分娩後の新生子管理が適正であれば、そのまま育つことも可能です。逆に65日になっても分娩に入らない場合は遅産(ちざん)といい、子犬の数が少なく母犬のおなかの中で大きくなりすぎて難産になる危険性がありますので、かかりつけの獣医師にご相談下さい。
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メス犬の出産に立ち会う

 出産兆候が見られたら、いよいよ分娩(ぶんべん)です。母犬は陣痛(じんつう)に耐えながら両足を踏ん張るようにしていきみます。小型犬の場合は横になった状態で2~3匹、中・大型犬の場合は排便するような格好で6~10匹ほど出産するのが一般的です。 犬の出産する様子です。子犬は羊膜に包まれて生まれてきます。通常であれば母犬がその羊膜を破り、へその緒も噛みちぎって上げます。  子犬は羊膜(ようまく)に包まれてテカテカした状態で生まれてきます(写真左端)。通常であれば母犬がこの羊膜を破ってへその緒を噛み切り、子犬の体や鼻先をなめて呼吸を促します(写真中央)。その後、子犬を自分の乳に近づけて授乳する(写真右端)のが正常です。しかし何らかの理由でこうした正常な母犬としての本能的な保育行動を取らない犬もいますので、そのときは飼い主の補助が必要です。
新生子衰弱症候群  生まれたときは正常だと思われた新生子(生後10日くらいまでの子犬)が、生後24時間を経過したくらいから徐々に衰弱する病態を新生子衰弱症候群(しんせいしすいじゃくしょうこうぐん, 衰弱子犬症候群)といいます。吸乳をせず、絶え間なく鳴きながら動き回り、酸欠によるチアノーゼ(皮膚が紫色)、低体温などの症状を示しますが、原因が定かではなく、人間が介入しても、命を救うのは難しいとされます。
母犬が輩出した胎盤は、通常そのまま食べてしまう  正常な場合、胎子が分娩された後しばらくすると、胎盤が娩出されますが、胎子の数に比べて胎盤の数が少ないときもあります。これは胎盤停滞(たいばんていたい)といって母犬の体内に胎盤がとどまっている状態です。分娩後2~3時間して自然娩出することが多いですが、なかなか出てこないときは念のため獣医さんにその旨を報告した方が無難です。なお、娩出した胎盤は通常母犬が食べてしまいますが、これは正常な行動です。
 通常は第一子を産んでからしばらく時間を置いて第二子の陣痛が始まります。この時分娩の邪魔にならないように子犬を取り上げ、ついでに性別や体重を記録しましょう。
犬の出産動画
 以下でご紹介するのは、犬の出産シーンを捉えた動画です。生命誕生の神秘的瞬間ですが、一部の方々にはやや刺激が強く、食欲を減退させる可能性がありますので、お食事中の方はご遠慮下さい。 元動画は⇒こちら
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難産と帝王切開

 難産(なんざん)とは自然分娩が困難な状態を指します。一般的に難産の発生率は5%程度といわれており、人間による補助が無い場合、母犬と胎子の両方の命が危険にさらされてしまいます。獣医による帝王切開が必要になりますので、あらかじめかかりつけの動物病院の連絡先を用意しておくのが理想です。

難産の徴候

 母犬が以下のような徴候を見せた場合は、難産に陥っている可能性があります。事前に控えておいた動物病院に連絡をし、すぐに獣医の診察を受けるようにします。
難産の徴候
  • 陰部からしっぽや片足など胎子の一部が引っかかっている
  • 陰部から羊膜が出ているのに2時間以上分娩しない
  • 陣痛で20~30分苦しがっているのに分娩が起こらない
  • 破水後、2~3時間たっても分娩が起こらない
  • 第一子の出産後、4時間以上たっても第二子を出産しない
  • 分娩前から緑色のおりものが出ている

難産の原因

 難産の原因はいろいろありますが、その70%以上が母犬によるものといわれます。以下は、難産を引き起こす代表的な原因です。
難産の主な原因
  • 子宮無力症  子宮無力症(しきゅうむりょくしょう)とは、分娩時に子宮筋の収縮を促すオキシトシンに体が反応せず、子宮が収縮しない状態で、難産の原因として最も多いものです。子宮無力症の原因としては、胎子が1~2頭と少なく、陣痛を誘発させるだけの刺激が得られない「単体胎子症候群」、肥満などによる子宮筋への脂肪沈着、高齢、遺伝などが挙げられます。
  • 産道の異常  産道の異常では、産道を構成する骨盤、子宮頚部、膣、肛門などの異常が原因で、胎子が産道を通過できなくなります。産道異常の原因としては子宮の破裂、骨盤の発育不全や奇形、鼠蹊ヘルニア、腫瘍などが挙げられます。
  • 過大胎子  過大胎子(かだいたいし)とは、胎子の体重が母体の4~5%を超えている状態を言い、胎子の頭部の方が母犬の骨盤腔より大きいため、産道を通過することができなくなります。過大胎子の原因としては、出産の遅れによる胎子の過剰成長、同腹胎子の成長アンバランスなどが挙げられます。
  • 胎子の失位  胎子の失位(たいしのしつい)とは、頭や後肢以外の部位から産道を通過しようとする際、詰まってしまう状態です。胎子の失位の原因としては、胎膜の破れによる逆毛、胎子の体の異常なよじれ、左右の子宮から同時に出てきた胎子同士の衝突などが挙げられます。
  • 犬種  犬種によっては、解剖学的な特徴により、分娩に困難をきたすことがあります。具体的には、頭が大きくて肩が張っているブルドッグ、母犬の骨盤口が扁平なボストンテリアパグペキニーズなどの短頭種、チワワヨークシャーテリアシーズーなどの超小型犬などです。

帝王切開

 帝王切開(ていおうせっかい)とは、人為的に子宮を切開し、成熟した胎子を取り出す手術のことです。自然分娩が困難なとき、子宮内の胎子が全て死亡しているとき、死亡胎子の一部が子宮内に取り残されて分娩されないときなどに適用されます。
犬の帝王切開の切開部  術前には母犬の血液検査、レントゲン検査、エコー検査などを行い、健康状態を把握します。その後麻酔をかけますが、母犬には十分な麻酔効果を発揮し、胎子には必要最小限の影響だけを及ぼす絶妙な吸入量が必要です。
 母犬に麻酔がかかったらおなかの正中線を切り、一端子宮を取り出してから切開します。子宮から全ての胎子を取り出したら、切開した部分を縫合し、腹部を縫い合わせます。
 帝王切開のメリットは、母犬と胎子両方の命を救うことができるという点です。デメリットは母体に負担がかかること、緊急の場合は夜間病院を探す必要があること、母犬の母性が目覚めるまでに時間がかかることなどです。
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母犬が子犬の世話をしないときの補助

 子犬を出産した母犬が、何らかの理由で正常な保育行動を取らない場合、および帝王切開によって胎子を取り出した場合は、飼い主による補助が必要となります。主な補助項目は以下です。
飼い主による保育補助
  • 羊膜を破ってへその緒を噛み切る 母犬が子犬のへその緒を噛み千切ろうとしない場合、飼い主が補助してカットしましょう。  本来母犬が噛み破るべき羊膜(ようまく)を、飼い主が手で破り、へその緒をハサミで切ってあげます。へその緒は根元から2cmほどの部分を糸で結わえ、 そこからやや離れた部分を切り取ります(ちょうどソーセージのような感じ)。
  • 全身をなめて呼吸を促す 母犬が子犬をなめようとしない場合は、飼い主がタオルで全身をやさしく拭いてあげましょう。  柔らかい乾いたタオルで全身を優しく拭いてきれいにします。また鼻や口にたまっている羊水(ようすい)を口で吸い出すか、頭を下にして軽く振り、遠心力によって排水します。 子犬が「キーキー」と高い声で鳴き出したら呼吸が始まった証拠です。この段階で母犬の乳に近づけてみましょう。母犬が授乳を拒否するようであれば授乳も飼い主の側で行います。
  • 授乳する 母犬が子犬に授乳しようとしない場合は、哺乳瓶やスポイトを用いて飼い主が代わりにミルクを与えます。  市販されている子犬用のミルクを与えます。普通の牛乳や人間の赤ちゃん用粉ミルクでは子犬に必要な栄養素が足りませんので必ず犬用粉ミルクを使用します(下記成分表参照)。子犬用の哺乳瓶(ほにゅうびん)と、万が一子犬が哺乳瓶での授乳を受け付けないときのために授乳専用スポイトを用意しておきましょう。また飼い主による人工授乳は、母犬の母乳の出が悪くなった場合も行いますので必修です。
各種ミルクの成分表(水分5%の時の比較)
成分(%)犬用粉ミルク犬の母乳人の母乳人用粉ミルク
炭水化物16.516.957.258.0
タンパク質34.033.811.312.6
脂質39.038.825.822.3
犬の日齢とミルクの標準給与量・分割回数
犬の体型生後1日~生後6日~生後11日~生後16~20日
超小型犬5g10g12.5g15g
小型犬12.5g15g17.5g17.5g
中型犬17.5g25g32.5g42.5g
大型犬20g35g50g65g
超大型犬25g47.5g60g77.5g
分割回数8回6回4回4回
犬の体型分類
上記した犬の体型は以下で示す成犬時の体重で分類します。
  • 超小型犬= 1.0~4.5kg
  • 小型犬=4.5~13.5kg
  • 中型犬=13.5~27.0kg
  • 大型犬=27.0~46.0kg
  • 超大型犬=46.0~90.0kg
子犬の鼻の先には、母犬の体や乳房を探知する赤外線センサーが備わっている  ちなみに、スウェーデン研究協議会のイングフ・ゾッターマン氏は、子犬の鼻にだけ存在している熱センサーを発見しました。温かいものから発せられる赤外線エネルギーを感知することができるこのセンサーは、母犬から引き離された子犬がクーンと哀れっぽい声を出しながら、張り子のように首を左右に振って乳首を探し当てる「ルーティング反射」をするときに役立つのでしょう。
 また、子犬がなかなか母犬の乳首からお乳を吸わないときは、羊水と母犬の唾液を新生子の鼻先にこすりつけて匂いを記憶させ、同じにおいを母犬の乳首にこすりつけると、授乳が促されることがあります。これは、母犬の唾液と羊水の両方に、吸乳を促す化学的な手がかりが含まれているからだと考えられています(TeicherやBlassの研究より)。
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産後の母犬のケア

出産後の母犬は、過保護にせずある程度運動したほうが早く回復します。  出産の終わった母犬は子犬たちをなめながら授乳しますので、しばらくは子犬たちのそばを離れたがらないのが普通です。しかし子犬たちがおなか一杯になり、ある程度落ち着いてきたら排泄(はいせつ)をさせて 軽い散歩に連れ出してやりましょう。この散歩は5~10分ぐらいで構いません。母犬をリラックスさせると同時に、歩くことで全身の血行を促し、母乳の出をよくする効果もあります。
 出産から10日くらいまでは10分程度の軽い散歩で結構です。適度な運動は産後の子宮(しきゅう)を収縮させる上で重要ですので欠かさないようにしましょう。 犬の散歩について
犬のカニバリズム  ごくまれに、母犬が生後2~3日の子犬を食べてしまうというショッキングな行動を見せることがあり、これはカニバリズム(共食い)と呼ばれます。
 カニバリズムの原因としては、病気の仔を殺すことによって他の仔への感染症を防ぐこと、母親自身の栄養不足を補うこと、栄養不足の環境下における口減らしなどが考えられます。
 また、ホルモンの一種プロゲステロンには生理的な鎮静効果があるので、胎盤を体外に娩出して母犬の血中のプロゲステロン濃度が低下すると、反比例的に募ったイライラが子供に向けられて生じるという説もあります(B.Hart)。
 なお、出産後の母犬に多く発症する病気は以下です。飼い主はおりもの、食欲、挙動などを注意深く観察し、異常の徴候が診られた場合は早急にかかりつけの獣医さんに診てもらいます。
出産後に多い母犬の病気
  • 停留胎子 停留胎子(ていりゅうたいし)とは、胎子が子宮内に残ったまま陣痛が終了してしまった状態のことを言います。奇形や過大胎子が子宮内で死亡し、感染症を引き起こした場合は早急に獣医さんに診てもらいます。
  • 急性子宮炎 急性子宮炎(きゅうせいしきゅうえん)とは、分娩直後に膣から進入した細菌が子宮に到達することで発症する炎症です。陰部からどろっとしたおりものが出たり、発熱、食欲不振などの症状を見せたら、獣医さんに診てもらいます。
  • 子宮修復不全 通常、分娩後12週以内に子宮の修復は終了しますが、分娩後6週を過ぎても依然として膣から血液状のおりものがある場合は、子宮修復不全を疑います。高齢犬に多く、たいていは自然治癒します。
  • 胎盤付着部の退縮不全 子宮内の胎盤付着部が順調に収縮していない場合、分娩後6週以降も膣から血液状のおりものが見られます。この場合母犬が貧血を起こす危険があるため、動物病院で子宮摘出などの処置を施します。
  • 子宮破裂 子宮破裂(しきゅうはれつ)とは子宮に裂け目ができてしまう病態で、子宮蓄膿症、過剰な外圧、子宮の奇形、強すぎる陣痛などが原因となります。緊急疾患なため、早急な外科的手術が必要です。
  • 子宮脱 子宮脱(しきゅうだつ)とは子宮が外陰部から外に飛び出した状態で、多くは最後の分娩から数時間以内に発症します。片方の子宮角が突出するものと両方の子宮角が突出するものがありますが、いずれにしても開腹手術による整復が必要です。
  • 無乳症 無乳症(むにゅうしょう)とは母犬が乳汁を分泌しないことで、早すぎる出産、帝王切開によるストレス、精神的なショック、低栄養などが原因です。
  • うつ乳症 うつ乳症とは、乳房が硬くなり、熱と痛みを伴うことで乳汁分泌が停止した状態のことです。乳汁分泌の多い乳房に発症することが多く、子犬の数が少ない、死産、乳頭奇形などが原因となります。乳房をやさしくマッサージすると泌乳が回復することがありますが、放置すると乳腺炎を発症することがあります。
  • 乳腺炎 乳腺炎(にゅうせんえん)は乳頭から進入した細菌によって発生する炎症のことです。乳腺は腫れ上がって熱を持ち、痛みを伴います。乳汁は血液と膿が混じり黄色~茶色に変色するため、獣医の診察を受けた上で、人工哺乳に切り替えることが必要です。
  • 子癇 子癇(しかん)とは産褥性テタニー(さんじょくせいてたにー)とも呼ばれ、血液中のカルシウム濃度が急激に低下することによって発症する病態です。母犬の体内にあるカルシウムが乳汁に使われるために起こります。症状はあえぎ呼吸、挙動不審、歩行困難、けいれん、てんかん様発作などです。緊急疾患なため、早急に動物病院へ連れて行きます。
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