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飼い主の帰宅を予知する犬~なぜ帰ってくるのがわかった?!

 ペットと人間とのテレパシー体験にはさまざまなものがありますが、非常に事例が多いものとして「飼い主の帰宅をペットが予知する」というものがあります。以下では、飼い主の帰宅予知に対する科学的な仮説や帰宅予知の事例集を紹介し、この現象が科学なのか疑似科学なのか、それとも本当にテレパシーなのかを考えていきたいと思います。

帰宅予知を説明する仮説

 犬や猫が本当に飼い主の帰宅を予知できるのだとすると、いったいどのようなメカニズムが関係しているのでしょうか?犬の帰宅予知能力を科学的に理路整然(りろせいぜん)と説明しようとする試みはいくつもなされてきましたが、全ての事例をスッキリと明快に解説してくれるものがないというのが現状です。以下は代表的な帰宅予知仮説の数々です。 ルパート・シェルドレイク著「あなたの帰りがわかる犬」(工作舎)・ 第2章「イヌ」(P46-)

習慣記憶説

 習慣記憶説とは、犬がただ単に飼い主の行動パターンを記憶しており、自身の体内時計(動物の体の中に生まれながらにしてある時間感覚)から主人の帰宅時間を予想しているという説です。しかし帰宅時間がまちまちであるにもかかわらず、家人の帰りを予測している事例があり、習慣だけでは全ての事例を説明できません。
反証事例  アメリカ・ヴァージニア州に住むテレサ・プレストンさんの飼い犬・ジャクソンは、帰宅時間がまちまちな主人(沿岸警備隊)の帰りを正確に予知し、玄関まで行って車が来るのを待つのが常だった。

同居人の感情読み取り説

 同居人の感情読み取り説とは、帰宅者の家族が家人の帰宅時間を知っている場合、何らかの形で行動や感情に変化(食事の用意をしたりうきうきしたそぶりをみせるなど)が見られる可能性があり、犬がこうした微妙な変化をとらえて帰宅を予知しているという説です。しかし、家族にも帰宅時間を知らせずに突然帰宅した場合においても、犬が予知していたと思われるケースがあり、感情の読み取りだけでは全ての事例を説明できません。
反証事例  イギリス・ランカシャー州に住むグロリア・バタビアルさんはフレックスタイムで病院に勤務しており、帰宅時間もまちまちだったが、家族に連絡したわけでもないのに、なぜか飼い犬が出窓に座り、彼女の帰りを待っていた。

嗅覚説

 嗅覚説とは、帰宅者の発する何らかのにおいを家にいる犬が嗅ぎ取って帰宅を予知しているという説です。イギリス内務省の依頼を受け、犬の中で最高の嗅覚を持つといわれているブラッドハウンドを用いた実験を行ったところ、犬が風下にいた場合、およそ800メートル先のにおいを嗅ぎ分けることができるという結果が出ています。しかし実際の事例として報告されているものの中には、主人が帰宅する10分以上前に行動の変化を見せる犬がおり、これを距離に換算するとゆうに10キロ以上になります。風が都合よく家に向かって吹いているわけではないし、人間の体からそれほど強烈なにおいが発散されているわけでもない、また仮に自動車を始めとする何らかの乗り物を使用したのだとしても、締め切った室内において排ガスなどの微妙なにおいを嗅ぎ取っているとは考えられない、などの理由から、嗅覚説も完全とはいえません。
反証事例  アメリカ・ジョージア州に住むルイーズ・ガビットさんの帰宅方法は定まっておらず、あるときはマイカー、あるときはワゴン、あるときは知人の車だったが、どんな乗り物で帰宅しても、飼い犬のBJはルイーズさんが乗り物に向かって歩き始めるタイミングで、自宅の玄関に向かい、主人を待ち始めることが家族の観察でわかった。

聴覚説

 聴覚説とは、犬が飼い主の出す何らかの音を聞き取って帰宅を予知しているという説です。犬は一般的に人間の4倍の聴力があるといわれていることから逆算すると、犬が開放された室内にいること、飼い主が普段どおりの帰宅方法であること、他に騒音がないこと、風が家に向かって吹いていることなど、全てが音の聞き取りに有利な条件をそろえたとして、せいぜい1キロが限界だと考えられます。しかし犬の聴力は可聴域の広さを除けば、実は人間と大差ないという報告(イギリスの獣医学者シーリア・フォックス氏やサウサンプトン大学の聴覚平衡感覚センターケビン・ムンロ氏)もあり、また明らかに1キロ以上先にいる飼い主の帰りを予期しているという事例も散見されるため、聴覚説も論拠としては薄弱です。
反証事例  イギリス・ケント州に住むキャロル・バーレットさんは観劇したり友人宅を訪問した帰りに、チャリングクロス発の電車に乗って30分ほどかけて帰宅するのが常だった。帰宅時間はそのつどまちまちだったが、飼い犬のサムは主人が帰宅する30分前、すなわちバーレットさんが電車に乗ったと思われるそのタイミングで玄関先に移動し、彼女の帰りを待つのだった。
 上記仮説が全て不完全なものだとすると、消去法でテレパシー説といういささか胡散臭い仮説が浮上してきます。テレパシーとは遠く離れたところにいる人や動物の意識を感じ取ることですが、ランダムな帰宅時間でいつもとは違う乗り物に乗り、家族にも帰宅時間を教えていないにもかかわらず、主人が帰宅する10分も前からそわそわして玄関で何かを待つという事例を説明するには、視覚、聴覚、嗅覚といった五感説では不十分で、確かにこうした超科学的な説明に頼ろうとするのも無理はありません。

犬の帰宅予知能力事例集

 テレパシー説に目をつけたシェルドレイク氏が膨大な事例を検証した結果、犬が飼い主の帰宅を予知するのは、飼い主が"家に帰ろう"と意識した瞬間であるという共通項に気づきます。シェルドレイク氏の元に寄せられた数々の帰宅予知事例集の中においては、585件中97件においてこの現象が見られたということで、これは割合で言うと全体の17%に相当します。
 またシェルドレイク氏は、犬の帰宅予知行動は主人が実際に帰宅する数分前~数十分前とばらつきがありますが、このばらつきは主人がいつ帰宅を意識したかというタイミングに依存しているのではないか、とも推論しています。飼い主が「家に帰ろう」と意識する瞬間は、人によってまちまちで、ある人は自分の家が視界に入ってから強く意識するかもしれませんし、ある人は電車を降りて徒歩で家路の最終ルートに入ったときに意識するかもしれません。またある人は、仕事が終わって上着を着た瞬間に意識するかもしれませんし、ある人はタクシーに乗り込むなど、家路に着いた瞬間に意識するかもしれません。こうした個々人の意識の差が、犬の予知行動が現れるタイミングに影響を及ぼしているのだろうという発想です。
 シェルドレイク氏が「飼い主が帰宅を強く意識した瞬間」と「ペットの帰宅予知行動」を関連付けるきっかけとなった事例は多々ありますが、以下でその一部をご紹介します。 ルパート・シェルドレイク著「あなたの帰りがわかる犬」(工作舎)・ 第2章「イヌ」(P58-)
ペットの帰宅予知事例
  • 作家J・アレン・ブーン「生涯の友」中の1エピソード。犬を預かっていた友人の証言によると、アレン氏が20キロ離れた食事処でランチを済ませ、家に戻ろうと決めた瞬間、愛犬のストロングハートがお決まりの待機位置へ移動し、飼い主の帰りを待っていた。
  • モニカ・ソイエルさんドイツ・ミュンヘンに住むモニカさんは旦那さんと協力し、愛犬のプルートがいったいどのタイミングで主人の帰宅を予知するかという実験を行った。モニカさんの行動記録とご主人の証言を照合すると、プルートの予知行動が見られるのは、モニカさんが帰りのタクシーに乗り込んだときではなく、家に帰ろうと決めてタクシーを呼んだ瞬間だった。
  • イギリスのオドリスコル夫妻愛犬は、主人であるジョンが外出先において時計を見て「家に帰りたい」と思った瞬間に反応することが、婦人キャサリンの証言から明らかになった。
  • ソールズベリー公爵夫人ハーフオードシャー州に住む婦人の愛犬ジェシーは、夫人が長期休暇から帰ってくる数時間前から落ち着きがなくなり、玄関や門の辺りに移動して彼女の帰りを待つ。反応するのは、彼女がまだ異国の地におり「家に帰ろう」と決めた瞬間だった。
  • トニー・ハーヴィーさんサフォーク州に住むハーヴィーさんの飼い犬であるバッジャーは午前6時40分にケージから飛び出し、窓辺に座って主人の帰りを待ち始めた。それは飼い主であるトニーさんが、自宅から約400キロ離れたダートムアへ3週間滞在した後、自宅へ帰ろうとトラックを運転し始めたときに一致した。
 自身の仮説を裏付けるため、シェルドレイク氏は北ロンドン、ラムズボトム、サンタクルーズ、ロサンゼルスという地理的にも文化的にも異なる地域を対象に、無作為で抽出した家庭へ電話をかけて「あなたは家族のメンバーが帰宅する前に飼い犬が興奮していると気づいたことがあるか?」というアンケート調査したところ、平均しておよそ51%の犬が飼い主の帰宅前に興奮するそぶりを見せたという結果を得ています。この結果は、ペットが単純に目や耳や鼻といった五感を通したヒントからではなく、それ以外の何らかのメッセージを飼い主から受け取っているというという「テレパシー説」を強く支持するものです。
 また、飼い主の帰宅に先んじて何らかのリアクションを見せるペットがいる一方、まったく反応しないペットもいるわけですが、反応しない理由としてシェルドレイク氏は以下のような可能性を挙げています。
ペットが反応しない理由
  • 一人暮らしの場合は犬の反応を観察する人がいないので、ノーカウントになる
  • 反応することで家族の注目を自分に集めることが目的だった場合、反応に気づかなかったり無視されることで行動の動機を失った
  • 飼い主との絆が深くない。帰宅を予知できるが、飼い主の帰宅に興味がない
  • 犬の感受性が低く、予期能力に劣る
 こうした可能性を考慮に入れると、「反応しないけれど、実は飼い主の帰宅を予知している」という潜在予知群がいるものと考えられるため、上記した「家族の帰宅前に反応する=51%」という数字は、もう少し跳ね上がるだろうと氏は予測しています。

ペットがテレパシー反応を見せる相手

 犬が飼い主の帰宅を予知する事例を見てきましたが、このテレパシーとでも呼ぶべき能力は、誰に対しても発揮されるわけではないようです。シェルドレイク氏が帰宅予知事例から統計を取った結果、動物が特定の人物に対してテレパシーを発揮しやすいという傾向を発見します。
動物がテレパシーを見せる対象
  • 1人だけに反応=78%
  • 2人に反応=17%
  • 3人以上に反応=5%
 このようにテレパシーはある限られた少数の特定人物に対して限定的に発揮されることが多く、その特定人物とは自分にエサをくれたり散歩に連れて行ってくれたり、何らかの愛情を持って接してくれる犬と感情的に強いつながりがある人であると指摘しています。

犬の帰宅予知能力実験

 犬の帰宅予知能力を科学的に検証する際の元データとして、シェルドレイク氏は協力者を募り、犬の行動日誌を収集することにしました。行動日誌の内容はおおむね以下です。
犬の行動日誌
  • 動物が予期反応を示したと思われる日付けと時間
  • 帰宅者が家路に着いた時間
  • 帰宅者が出かけた場所と家を空けた時間
  • 帰宅者の帰宅時間と帰宅方法
 このような内容の記録をとってもらいデータを収集したところ、ほとんどのケースで飼い主が帰宅する10分以上前に犬が反応したという傾向が見えてきたといいます。この結果は、犬は五感から帰宅のヒントを得ているのではなく、「飼い主が帰宅を意識した瞬間にテレパシーが伝わる」という仮説を補強するものとも言えます。
 シェルドレイク氏の実験に協力した被験者の中でも、もっとも如実にテレパシー能力を発揮したパメラ・スマートさんと飼い犬ジェイティーの事例は大変興味深いものです。 ルパート・シェルドレイク著「あなたの帰りがわかる犬」(工作舎)・ 第2章「イヌ」(P79-)
ジェイティーの例
  • パメラ・スマートさんと飼い犬ジェイティーの例1994年5月~1995年2月に渡るパメラさんの報告によると、100回中85回という高い割合で、ジェイティーは不規則に帰宅するパメラさんの帰宅時間を、10分以上前に予知した。調べてみると、ジェイティーがいつもパメラさんを待つ定位置であるフランス窓へ移動するのは、彼女が家路についた瞬間と符号する。平均すると彼女が6キロ以上離れており、遠い場合は60キロ離れていたというケースもある。パメラさんの住居は騒音や車の交通量が多いため、音やにおいを手がかりに主人の帰宅を予知していたとは考えにくい。また、パメラさんがいつもとは違う乗り物を使っても正確に彼女の帰宅を予知しており、さらに「彼女の帰宅時間がわかっている家族の感情の変化を読み取った」という可能性を排除するため、無作為に選んだ時間に帰宅するという実験を行ってみたが、それでもやはりジェイティーは飼い主の帰宅を予知することができた。
 1994年11月、シェルドレイク氏はオーストリアのテレビ局から依頼を受け、犬の行動をビデオに録画し、帰宅予知能力の真偽を検討するという企画に参加します。被験者となったのは、上記事例で特筆すべき予知能力を見せたジェイティーとその飼い主のパメラさんです。実験では、無作為に選んだ時間をパメラさんに告げて帰宅してもらうというものでしたが、ランダムに選んだはずのその帰宅時間に、まるでジェイティーが同調するかのように反応する姿が撮影されました。ビデオを検証した結果、ジェイティーが行動を起こすのはパメラさんが帰りの車に乗り込む瞬間ではなく、彼女が「帰ろう」と意識した瞬間に符合することが判明します。
 テレビの企画から1年後の1995年、ニューヨークのライフブリッジ財団から研究助成金を受けたシェルドレイク氏は、同年5月から翌1996年7月にかけ、パメラさんとジェイティーの行動を100本以上のビデオテープに収めました。氏がテープを検証した結果、以下のような結論を得ます。
帰宅予知犬の行動パターン
  • ジェイティーは彼女が戻ろうと意識した瞬間に待ち始める
  • 彼女が家路についている間は、お決まりの場所に座って待つ
  • こうした現象がたまたま起こったのだとすると、その確率は100万分の1であり、統計学的に「偶然」として説明するには無理がある
 さらに疑似科学を糾弾する情報誌「スケプティカル・インクワイア」で編集顧問を務めるリチャード・ワイズマン博士が、自ら先陣を切って同様の実験を行ったところ、やはり同じ結果が出たとのこと。つまりリチャード氏は、犬は、自分と飼い主との空間的な距離にかかわらず、飼い主が”帰ろう”と意識した瞬間を、何らかの形で認識しているということを、期せずして証明しまう結果となったそうです。