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【最新】犬のワクチン接種・完全ガイド~種類、費用から頻度、副作用まで

 犬の感染症を予防してくれるというワクチン接種はそもそも必要なのでしょうか?必要だとしたらいつどのようなタイミングで打てばよいのでしょうか?種類・費用から頻度・副作用までワクチンに関する基本情報を検証しながら考えていきましょう。
 なおフィラリア予防薬やその他寄生虫の虫下し薬、およびノミダニ予防薬に関しては、厳密な意味で「接種」ではありませんので、当ページでは割愛してあります。各薬剤の情報については各リンクページをご参照ください(🔄最終更新日:2023年7月)

ワクチン接種の必要性

 ワクチン接種の目的は、 毒性を無くしたか、あるいは毒性を弱めた病原体を、ヒトを始めとする動物の体内にあらかじめ注入することで体内に抗体(病原体を攻撃する防御システム)を作っておき、感染症にかかったときの症状を軽くすることです。
 犬に関しては、以下の感染症に対するワクチンが開発されています。
犬用ワクチン
 上記ワクチンには、化学処理などによって殺したウイルスや細菌を使用した「不活化ワクチン」と、毒性を弱めた微生物やウイルスを使用した「生ワクチン」とがあります。両者の特性を一覧化すると、以下のようになります。 2011 AAHA Canine Vaccination Guidelines
種類と特性不活化ワクチン生ワクチン
特徴化学処理などにより死んだウイルス、細菌、リケッチアなどを使用したワクチン。副反応が出にくい反面、免疫力の持続期間が短い。毒性を弱めた微生物やウイルスを使用したワクチン。獲得免疫力が強い反面、副反応の可能性が高い。
接種の目安2~6週空けて2回 →2回目接種後7~10日で免疫獲得2~4週空けて2回 →1回目接種後1~7日で免疫獲得
接種方法皮下注射・筋肉内注射皮下注射・筋肉内注射
有毒化なし極めてまれ
増殖なしありうる
 不活化ワクチンの効果が約1年で薄れるのに対し、生ワクチンの効果は3年~一生とかなり長期間続きます。しかしこの期間は犬の健康状態、使用したワクチンの種類、生活環境など非常に多くの要因によって左右されるものですので、一概には言えません。

狂犬病ワクチン

 狂犬病予防法により、犬の飼い主には毎年1回の狂犬病予防注射接種が義務付けられています。
 狂犬病とは、狂犬病ウイルスに感染することで発症する病気です。人獣共通感染症(じんじゅうきょうつうかんせんしょう)であり、ヒトを含めたすべての哺乳類が感染します。世界中におけるこの病気の感染者数は約5万人に及び、そのほとんどが死亡するという極めて恐ろしい病気です。
 致死率がほぼ100%であるこの狂犬病を撲滅させるため、我が国では狂犬病予防法を制定し、飼い犬の登録と年1回の予防接種、放し飼いの禁止、野犬の捕獲、輸出入動物の検疫と国をあげての防疫体制をとっており、1957年以降狂犬病の発生はありません。以下は2007年時点における狂犬病の発症報告がない「清浄国」を緑色で図示したものです。より詳しい内容は、厚生労働省が公開している狂犬病の発生状況(PDF)という資料からも確認できます。 狂犬病清浄国一覧地図(2007)  予防注射接種(ワクチン接種)の時期に関しては、毎年4~6月頃になると飼い犬登録済みの飼い主の元に、葉書などで集団接種の通知が来ます。まだ飼い犬登録をしていない人は市区町村にお問い合わせ下さい。集団接種の機会を逃しても動物病院などで予防注射はできますが、その場合接種済み証明書を保健所などに提出する必要があります。
飼い犬登録とは?
 「飼い犬登録」とは、生後91日以上の犬の飼い主全てに義務付けられている手続きのことです。犬が生後91日を過ぎたら動物病院で狂犬病予防注射を受け、「注射済み証明書」をもって30日以内に役所か保健所に行きます。そこで費用を払って飼い犬登録をすると、証明として犬の首輪につける「鑑札」(かんさつ)と「注射済み票」、および玄関に貼る「標識」(ひょうしき)が渡されます。 犬の鑑札、注射済票について(厚生労働省)
 なお、日本国内で狂犬病ワクチンを製造しているのは以下の4社です。どの業者も、動物に対してほとんど病原性を示さない、弱毒化された特殊なウイルス株(狂犬病培養細胞純化ウイルスRC・HL株)を用いて製造しています。リスト内の冒頭が製品名、カッコ内が製造販売業者です。「公式」リンクを開くと業者による公式スペックが、そして「詳細」リンクをクリックすると、農林水産省・動物医薬品研究所が公開しているワクチンの詳細情報が別ウィンドウで表示されます。なお化血研は2015年12月、他の血液製剤や一部の動物用ワクチンに関して悪質な隠ぺい工作をしていたことが発覚し、製造から撤退しています。また日生研は2016年4月、売買資格のない業者に動物用ワクチンを長年に渡って販売していたとして東京都から行政指導を受けています。
日本における狂犬病ワクチン
  • 狂犬病ワクチン-TC(微生物化学研究所) / 公式 / 詳細
  • 松研狂犬病TCワクチン(松研薬品工業) / 公式 / 詳細
  • 日生研狂犬病TCワクチン(日生研) / 公式 / 詳細
  • 狂犬病TCワクチン「KMB」(KMバイオロジクス) / 公式 / 詳細
 麻布大学を中心としたチームは2004年4月から2019年3月までの15年間、死亡を含む重度のアレルギー反応として農林水産省に寄せられた狂犬病予防注射に関連した有害反応の報告数をカウントしました。その結果317件が該当し、15年間で接種されたワクチンの総数72,573,199本を分母としたときの割合が4.4/100万だったそうです。 日本国内における狂犬病予防注射に関連した有害反応(2004~2019)  詳しい報告は以下のページで解説してあります。 狂犬病予防注射を打った犬における有害反応の割合は?

狂犬病以外のワクチン

 狂犬病以外の各種感染症に対するワクチンは任意ですが、万が一病気にかかったときのペットの苦痛を軽減するためには、あらかじめ接種しておいたほうが無難でしょう。ワクチンをいつ、何度、何種類接種するかに関する計画は、一般的にワクチネーションプログラム(ワクチン接種計画)と呼ばれます。犬の生育環境によって個体ごとに変動しますので、かかりつけの獣医さんと相談の上で行います。
 現在、狂犬病以外の感染症に関しては非常に多くのワクチンが開発されており、その組み合わせによっておおよそ1~11種までに分類されます。数ある感染症の中でも、特に犬ジステンパーウイルス(CDV)、犬アデノウイルス(CAV)、犬パルボウイルス(CPV)に対するワクチンは、全ての飼い主に受けておいてほしいコアワクチンに指定されています。なお、2015年に公開された「家庭飼育動物(犬・猫)の診療料金実態調査及び飼育者意識調査」によると5~6種混合ワクチンが5,000~7,500円、8~10種が5,000~10,000円程度となっています出典資料:日本獣医師会, 2015)
 以下は日本の業者が製造している犬用ワクチンの一覧です。商品名の下にある記載項目は、冒頭から「対象病原体 | 製造業者 | 性質(生・不活化) | 詳細」の順になっています。「詳細」リンクをクリックすると、農林水産省・動物医薬品研究所が公開しているワクチンの詳細情報が別ウィンドウで表示されますので副作用等をご自身の目でご確認ください(🔄最終更新日:2023年7月)
犬用ワクチンの種類・目次

1種ワクチン

2種ワクチン

4種ワクチン

  • バンガードL4レプトスピラ(カニコーラ・イクテロヘモラジー・グリッポチフォーサ・ポモナ) | ゾエティス・ジャパン | 不活化 | 詳細

5種ワクチン

 全てに共通している対象病原体は、ジステンパーウイルスアデノウイルス1型アデノウイルス2型パラインフルエンザウイルスパルボウイルスの5つです。
  • ノビバックDHPPi上記5病原体 | MSDアニマルヘルス | 生 | 詳細
  • ユーリカン5上記5病原体 | ベーリンガーインゲルハイムアニマルヘルスジャパン | 生 | 詳細
  • バンガードプラス5上記5病原体 | ゾエティス・ジャパン | 生 | 詳細

6種ワクチン

7種ワクチン

 全てに共通している対象病原体は、 ジステンパーウイルスアデノウイルス1型アデノウイルス2型パラインフルエンザウイルスパルボウイルスレプトスピラ(カニコーラ・イクテロヘモラジー)の7つです。
  • 犬用ビルバゲンDA2PPi/L上記7病原体 | ビルバックジャパン | 混合 | 詳細
  • ノビバックDHPPi+L上記7病原体 | MSDアニマルヘルス | 混合 | 詳細
  • ユーリカン7上記7病原体 | ベーリンガーインゲルハイムアニマルヘルスジャパン | 混合 | 詳細

8種ワクチン

10種ワクチン

ワクチンの接種頻度

 ワクチンをどのような頻度とタイミングで接種するかに関する計画はワクチネーションプログラムと呼ばれます。

ワクチン接種の時期

 子犬にワクチンを接種する際は、受動免疫が切れたタイミングで行う必要があります。「受動免疫」(じゅどうめんえき, 移行抗体)とは、異物を排除する抗体を母犬から初乳経由で受け取ることで、生まれてから8~12週間だけ機能する期間限定の免疫力のことです。この受動免疫が機能している間は、たとえワクチンを接種したとしても、血液中に残っている母犬の抗体が直ちに排除してしまうため、十分な免疫力が形成されません。ですから、子犬の体内に自家製の「能動免疫」(のうどうめんえき)を付けさせるには、母親から受け取ったおすそ分けの「受動免疫」が切れた16週齢以降を目安としてワクチンを接種する必要があるというわけです。 母犬からの受動免疫(移行抗体)の消失とワクチンの接種時期

ワクチン接種計画

 以下は、AAHA(全米動物病院協会)、およびWSAVA(世界小動物獣医協会)のガイドラインにおいて共通して推奨されているコアワクチンの接種プログラムです。子犬が母犬の初乳を飲んでる場合は、6~8週齢頃に初回のワクチンを接種することを勧めています。また初年度の最終接種は、母犬からの移行抗体が十分薄くなった16週以降に来るよう調整します。一方、母犬の初乳を飲んでいない子犬に関しては、8週齢までの免疫力が非常に弱い状態にあります。IgG抗体を生成できるようになるのは4週齢頃からですが、副作用や個体差を考慮し、6週齢頃からスタートするのが一般的です。 2017 AAHA Canine Vaccination Guidelines / WSAVA Guidelines 2015
コアワクチンの接種プログラム
  • 生後6~8週に1回目接種
  • その後2~4週間隔で接種
  • 生後16週以降で最終接種
  • 最終接種から6ヶ月後に免疫強化用接種(ブースター)
  • その後は最低3年の間隔を空けて再接種
 2015年に更新された「WSAVAワクチン接種ガイドライン」により、幾つかの変更点が加えられました。具体的には「ワクチン初回接種8~9週齢→6~8週齢」、「2回目以降の接種間隔3~4週→2~4週」、「ブースター接種は12ヶ月後→6ヶ月後」などです。またコアワクチン用の抗体テストキットが実用化されたことから、場合によっては利用するよう推奨しています。詳しくは以下の記事をご参照ください。 犬用ワクチチェック®(VacciCheck)  日本においては慣習的に、ブースター以後の再接種を1年に1回というペースで行うことが多いようです。しかし近年、特にアメリカにおいては「コアワクチンは免疫の持続期間が十分長いため、3年に1回程度の接種で良い」という考え方が主流になりつつあります。また日本国内で行われた調査では、コアワクチン接種後12~23ヶ月経過した時点で、主要な4つの疾患に対する免疫力が保たれていた犬の割合は75.5%だったと報告されています。 犬にコアワクチンを打った後の抗体価の推移  いずれにしても重要なのは、ワクチンによる副作用の危険性が、感染症にかかる危険性よりも十分に低いかどうかという観点です。適切な接種間隔は、飼い主が自身のペットの生活環境をよく勘案した上で決める必要があるでしょう。ちなみにイタリアにあるミラノ大学のチームが2014年1月から2023年1月までの9年間、老犬におけるコアワクチンの接種間隔と抗体価との関係を調べた結果、時間経過とともに抗体価が減少していくことが確認されています。以下は直近のワクチン接種時期とPAT(防御抗体価)値の関係表です。CPVはパルボウイルス、CDVはジステンパー、CAdVはアデノウイルス1型のことで、より詳しい報告は以下のページでも解説してあります。 老犬へのコアワクチン接種は3年に1度が適正なのか? 直近のワクチン接種時期とPAT(防御抗体価)値の関係表  なお、狂犬病ワクチンとコアワクチン以外の「ノンコアワクチン」に関しては、いまだに年一回が主流です。
ワクチンの予想免疫持続期間
  • ジステンパーウイルス(コア) → 生で7年以上
  • パルボウイルス(コア) → 生で7年以上
  • アデノウイルス2型(コア) → 生で7年以上
  • 狂犬病ウイルス(コア) → 不活化で3年以上
  • コロナウイルス(ノンコア) → 生・不活化で1年以内
  • パラインフルエンザ(ノンコア) → 生で1年以内
  • レプトスピラ各種(ノンコア) → 不活化で1年以内
イラストで見る獣医免疫学(インターズー, P250) WSAVA Guidelines(ファクトシートの項)

ワクチンの副作用・注意点

 いくら無害化しているとはいえ、ワクチンは生体にとって異物であることに違いはありません。ですから接種後に「副作用・副反応」という形で思わぬ体調不良に陥る可能性は常にあると言えます。

ワクチン接種による副反応

 以下はアメリカのAAHA(全米動物病院協会)が公開しているワクチン接種に伴う副反応のリストです。明確な割合は明記されていないものの、全て「ありうる」ものと考えてよいでしょう。 2011 AAHA Canine Vaccination Guidelines
ワクチンの副反応
  • 注射した箇所の副反応ワクチン注射をした箇所の腫れ、肉芽腫、痛み、脱毛、虚血性病変
  • 全般的な副反応食欲不振、微熱、リンパ節の腫れ、脳炎、多発神経炎、関節炎、発作、異常行動、脱毛、呼吸の変化
  • アレルギー反応血小板減少、貧血、皮膚虚血性脈管障害、アナフィラキシーショック
  • 腫瘍化注射した部位の腫れがワクチン関連性肉腫(悪性腫瘍)に発展する
  • 医原性の副反応接種量の間違い、接種方法の間違い、まれにワクチンの有毒化
 上記したような副反応は、特に「小型犬が一度に複数のワクチンを打った時、3日以内に発症することが多い」とされています。また妊娠中のメス犬やガンの治療などで化学療法を受けている犬に関しては、過剰な副反応を予防するため、よほど必要性がない限り行わないのが通例です。注射した部位に肉芽種や肉腫ができるのを防ぐため、前回接種した場所を記録しておき、次回行うときは違う部位にしてもらった方がよいでしょう。
 国産ワクチンの副作用に関しては、狂犬病予防注射における重度有害反応の発症率が4.4/100万、狂犬病以外の予防注射におけるそれが720/100万程度と推計されています。個別のケースについては農林水産省が公開している副作用情報データベースというページで検索することも可能です。 狂犬病予防注射を打った犬における有害反応の割合は?  また以下では、1995年から99年にかけ、英国副作用事例監視機構が行ったワクチンの副作用に関する統計調査の結果を示します。データがやや古く、また場所がイギリスということもあり、そっくりそのまま日本に当てはめることはできないものの、副作用の可能性がゼロではないことを確認するために重要な資料と言えるでしょう。数値はすべて、ワクチン接種10万件中における発生件数を示しています。 英国副作用事例監視機構によるワクチンの副作用調査(1995~99)  上記資料はイギリスで行われたものですが、アメリカ国内で行われた大規模調査もあります。こちらの調査では2016年1月から2020年12月までの5年間、特定ワクチン6種(ボルデテラ | イヌインフルエンザ | コアワクチン | レプトスピラ | ライム病 | 狂犬病)を1度でも接種した犬4,654,187頭を対象とし、接種から3日以内に発症する急性副反応の割合が精査されました。その結果、全部で31,197件見つかり、割合にすると0.194%(19.4件/万)だったといいます。さらに危険因子を解析した所、「体重が軽い(15kg以下)」「年齢が若い(2ヶ月齢~1.5歳)」「特定犬種(フレンチブルドッグ | ダックスフント | パグ | チワワ etc)」「1度に接種する種類が多い」などが残りました。詳しい報告は以下のページで解説してあります。 犬におけるワクチン急性副反応の危険因子

飼い主の注意点

 ワクチン接種の副作用で一番恐ろしいのは、「アナフィラキシー・ショック」と呼ばれる過激なアレルギー反応です。これは体内に入ってきた異物に対し、免疫機構が過剰に反応してしまい、逆に生命に危険を及ぼしてしまう現象です。早ければ接種後10~15分くらいで呼吸困難、嘔吐、けいれん、血圧低下などの症状がみられますので、できれば接種後30分程度は病院内や病院の近くに待機しておいたほうが無難でしょう。なお、一度でもアナフィラキシーを起こした犬は、次から同じメーカーのワクチン接種はできませんので、飼い主がワクチン名を覚えておいて下さい。
犬のワクチン接種後、24時間程度は安静を心がける  犬がワクチンを接種してから、元気がなくなったり、食欲がなくなることがあります。体を触ると痛がることもありますので、シャンプーや過激な運動をさせるのは、24時間様子を見てからにしましょう。もし24時間を経過しても体調不良が続いていたり、注射した箇所から出血している場合は、念のため獣医さんに相談します。
2021年に行われた最新の調査により、牛乳や牛肉にアレルギーを抱えた犬は、ワクチンに含まれる反芻動物由来物質(カゼインやアルブミン)でアナフィラキシーを発症する危険性が示されています。愛犬が該当する方はご注意ください。 牛乳や牛肉にアレルギーを抱えた犬はワクチンの副反応に注意