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犬のエナメル質形成不全~症状・原因から治療・予防法まで

 犬のエナメル質形成不全について病態、症状、原因、治療法別に解説します。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い犬の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

犬のエナメル質形成不全の病態と症状

 犬のエナメル質形成不全とは、歯の表面にあるエナメル質という層の発達が不十分な状態を言います。
 犬の歯は外側からエナメル質→ゾウゲ質という順番で構成されています。エナメル質は96%の無機質と4%の水+有機質でできており、哺乳動物の体内では最も硬い組織です。 犬の歯の断面構造~ゾウゲ質とエナメル質  エナメル質形成不全とは、歯の最外層に当たるエナメル質が、何らかの理由で形成されず、始めから欠けている状態のことです。似た症状を示すものとしては、「着色」(ステイン)と「虫歯」(齲蝕)がありますが、これらは全てエナメル質に起こる変化であり、エナメル質の形成自体に問題はありません。
 犬のエナメル質形成不全の主な症状は以下です。軽症の場合は、歯の表面にぽつんと小さなしみができる程度ですが、重症の場合は下にあるゾウゲ質が完全に露出し、歯の表面が明るい茶色になります。歯周病を併発しやすいのは、歯の表面がボコボコになって歯垢や歯石がたまりやすいためです。
犬のエナメル質形成不全の主症状
エナメル質形成不全の外観
  • 部分的~全体的な歯の変色
  • 歯が折れる
  • 知覚過敏
  • 虫歯の併発
  • 歯周病の併発

犬のエナメル質形成不全の原因

 犬のエナメル質形成不全の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。歯のエナメル質が形成される時期に、何らかの要因が加わって発生すると考えられています。
犬のエナメル質形成不全の主な原因
  • 感染症 エナメル質が形成される時期に、ジステンパーパルボウイルス感染症を始めとする何らかの感染症にかかると、その影響としてエナメル質が欠損してしまうことがあります。長期に渡る高熱を引き起こす全てのものが危険因子です。
  • ストレス 乳歯を抜く際、過度に強い力を掛けてしまうと、そのときのストレスでエナメル質の形成が阻害されてしまうことがあります。抜歯のほかにも、「何かに歯を強く打ち付けた」といった状況が考えられます。
  • 栄養不良 永久歯が生える時期に極端に栄養状態が悪いと、正常な石灰化が行われず、エナメル質の形成不全につながることがあります。
 ちなみに、エナメル質形成不全以外にも、歯の表面に変色を引き起こす要因はたくさんあります。以下はその一例です。知っていれば、見分けるときに多少役に立つでしょう。 様々な要因によって変色した歯の一覧模式図
  • 黒~灰色アマルガム / 鉄やヨードの摂取 / ゾウゲ質形成不全 / 虫歯
  • 黄~褐色歯石の沈着 / 色素を産生する細菌 / 歯垢(細菌の作り出した硫化鉄と唾液中の鉄分が反応) / テトラサイクリン系抗生物質(カルシウムと結合して形成されたリン酸カルシウムがエナメル質中のコラーゲンに沈着)
  • 緑~深緑クロロフィルの大量摂取 / 歯肉出血(ヘモグロビンの崩壊に伴うビリベルジンの発生) / 高ビリルビン血症 / 銅やニッケルの摂取

犬のエナメル質形成不全の治療

 犬のエナメル質形成不全の治療法としては、主に以下のようなものがあります。
犬のエナメル質形成不全の主な治療法
  • 補填剤による補強  エナメル質が薄かったり欠損している部分に、外側から補填剤をかぶせ、知覚過敏を軽減します。長期的な効果を期待する場合は、金属による歯冠修復が行われることもあります。
  • 固いものをかませない  歯の保護層であるエナメル質がないため、歯が折れやすい状態になっています。これは補填剤で補強しても変わりませんので、過度に固い物を与えないよう注意します。また、ストレスの多い飼育方法だと、欲求不満解消として檻などをかじる「ケージバイター」になりかねません。歯の損傷が促進されますので、ストレス管理も重要です。犬の幸せとストレス
  • 歯磨き習慣 歯の表面が欠損してボコボコしているため、どうしても歯垢や歯石がたまりやすくなります。この状態は虫歯歯周病の原因になりますので、飼い主が日常的に歯磨きをしてあげることが重要となります。犬の歯のケア