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犬の回虫症~症状・原因から治療・予防法まで

 犬の回虫症(かいちゅうしょう)について病態、症状、原因、治療法別に解説します。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い犬の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

犬の回虫症の病態と症状

 犬の回虫症とは、線虫(せんちゅう)に属する寄生虫の一種である回虫によって引き起こされる病気です。 イヌ回虫の虫卵と成虫  回虫はヒトやイヌ、ネコなど多くの哺乳類(ほにゅうるい)の小腸に寄生する動物です。犬に感染するものとしては「イヌ回虫」と「イヌ小回虫」が有名ですが、臨床上問題となるのは、ほとんどが病原性の強い「イヌ回虫」(Toxocara canis)の方です。
 犬の体内に侵入したイヌ回虫の卵は、小腸内で孵化して壁を突き破り、血管内を移動しながら肺に到達します。そこで幼虫の第三形態まで成長すると、気管支や食道に移動し、宿主に飲み込まれることで再び腸管内に舞い戻ってきます。腸管内でようやく成虫となったイヌ回虫は、オスで全長10cm、メスで18cmくらいまで成長し、1日10万個近い卵を産むようになります。これらの卵は犬の排泄物の中に紛れ込んで外界に飛び出し、再び他の宿主に取り込まれるのを待ちます。これが大まかなイヌ回虫のライフサイクルです。
イヌ回虫症は、免疫力が弱い6ヶ月齢未満の子犬において頻発する  イヌ回虫の大きな特徴の一つは、幼虫から成虫への成長が、主として生後6ヶ月齢未満の子犬においてしか起こらないという点でしょう。免疫力が確立した6ヶ月齢以上の犬の体内では、マクロファージを始めとした異物除去部隊が活発に動いているため、幼虫は「シスト」と呼ばれる殻に閉じこもり、見つからないようじっと引きこもり状態になります。このシストが再び目覚めるのは、宿主の免疫力が低下したときや、メス犬が妊娠したときです。
 免疫力が弱い子犬や免疫力が低下した成犬の体内で、イヌ回虫の幼虫が成虫にまで成長してしまった場合、以下のような症状を示すようになります。
犬の回虫症の主症状
  • 食欲不振
  • 下痢(ひものような回虫を含むこともある)
  • 嘔吐(ひものような回虫を吐き出すこともある)
  • 腹痛
  • 腹部のふくらみ(太鼓腹に近い)
  • 子犬の発育不良
  • 体重減少
  • 貧血
  • 毛づやの悪化
  • 肺炎(48~72時間で高率に死亡)
トキソカラ症
 イヌ回虫またはネコ回虫の幼虫が人間に感染して引き起こす病気が「トキソカラ症」です。主症状は発熱、咳、喘鳴(ぜーぜー)、肝臓の腫れなどで、視覚障害を引き起こすこともあります(眼幼虫移行症)。多くの場合、卵が混入した動物の糞便を子供が誤って口に入れることで発症します。一般的に自然治癒しますが、治療する場合は抗寄生虫薬やステロイド薬が使用されます。

犬の回虫症の原因

 犬の回虫症の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
犬の回虫症の主な原因
  • 経口感染  虫卵に汚染された糞便を食べてしまうという感染ルートです。排泄物に紛れて外界に出た卵は、2~4週間かけて感染可能な状態となり、他の宿主に取り込まれるのを待ちます。もし宿主が現れない場合は、そのまま数年間待機することも可能です。
     2016年にオランダで行われた調査(→詳細)では、初感染の危険因子として「食糞」、「土食」、「全体の80%以上の時間をリードなしでの散歩」などが挙げられています。その他、排泄物を食べた他の小動物(ウサギやネズミ)を摂食することで、間接的に卵を取り込んでしまうというルートも考えられます。人間の場合は、公園で遊んでいた子供が、誤って犬の排泄物を触ってしまい、そのまま手洗いをしなかった、などの状況が考えられます。犬は糞便や土塊を食べることによって回虫に初感染してしまうケースが多い
  • 垂直感染  イヌ回虫の場合、感染した母犬から、胎盤を経由して子犬に回虫が移ってしまうことがあります。こうした感染の仕方を垂直感染(もしくは経胎盤感染)といい、腸管内にとどまるイヌ小回虫では起こりません。
     妊娠したメス犬の体内では、妊娠45日目くらいから、組織内で「シスト」という殻をかぶって隠れていた幼虫が目を覚まし、腸管、胎盤、乳腺といった様々な組織内に移行するようになります。結果として、生まれてくる子犬は三重の危険にさらされることとなります。まず第一は、胎盤経由で幼虫が体内に侵入する危険、第二は、生まれてすぐに飲んだ母乳経由で幼虫が体内に侵入する危険、そして第三は、母犬の糞便を誤って口に入れることで幼虫が体内に侵入する危険です。
  • 免疫力の低下 2016年にオランダで行われた調査(→詳細)では、一度完治したはずの回虫症に再び感染してしまう際の危険因子として「糖質コルチコイドの投与」、「犬の使役目的の変更」などが挙げられています。前者は免疫抑制効果によって犬の免疫力を低下させ、後者は「猟犬としてデビューさせる」といったライフスタイルの変化によって犬にストレスをかけ、結果として免疫力を低下させてしまいます。いずれにしても、通常であれば抑制できるはずの回虫症に再感染してしまう際の引き金は、宿主である犬の免疫力低下にあるようです。

犬の回虫症の治療

 犬の回虫症の治療法としては、主に以下のようなものがあります。
犬の回虫症の主な治療法
  • 駆虫薬  駆虫薬を投与して寄生虫を除去します。最初の治療で駆除しきれなかった虫卵や幼虫の可能性を考慮し、薬を投与してから2週間くらいしてもう一度検査を行い、必要に応じて再度投薬します。
  • 肺炎治療 寄生虫が肺炎を誘発した場合(寄生虫性肺炎)は、炎症を抑えるような治療が施されます。
  • ストレス管理 一度感染した回虫症がぶり返してしまう大きな要因は「免疫力の低下」です。糖質コルチコイドなど免疫抑制作用を持った薬による治療を行っている場合は、持病との兼ね合いから投薬を中止することは難しいかもしれません。しかし、日常のストレスに起因する免疫力の低下なら十分にコントロールが可能です。犬のライフスタイルを見直し、どこかにストレスの引き金がないか今一度チェックしてみましょう。犬のストレスチェック
駆虫薬の効果、安全性、副作用に関しては「犬の寄生虫対策・完全ガイド」にまとめてあります。