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犬のジアルジア症~症状・原因から治療・予防法まで

 犬のジアルジア症について病態、症状、原因、治療法別に解説します。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い犬の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

犬のジアルジア症の病態と症状

ジアルジア症を引き起こす原虫「ランブル鞭毛虫」  ジアルジア症は、原虫の一種であるランブル鞭毛虫 (giardia lamblia) が感染することで発症する寄生虫症です。原虫(げんちゅう)とは、他の動物に寄生する性質を持ち、さらに病原性を有している単細胞生物のことを指します。ちなみに名前は似ていますが「鞭虫」といった場合は全くの別物で、こちらは肉眼で確認できるほど大きな線虫の一種です。ランブル鞭毛虫は非常にありふれた原虫で、熱帯・亜熱帯地域における人の感染率は20%を超えることもあります。日本においては、終戦直後の感染率が3~6%程度、現代では0.5%未満と推定されています。また2010年、カナダのカルガリーで行われた調査では、ノーリードで遊べる公園に行く頻度が高ければ高いほど、ランブル鞭毛虫に感染する確率が高まるという結果が出ていますので、ドッグランによく行く飼い主としては予備知識が必要となってくるでしょう。
 犬においては免疫力が弱い子犬や、糞便による汚染が起こりやすい多頭飼育環境で多く発症し、7日~10日の潜伏期間を経て、以下のような症状を示します。
ジアルジア症の症状
  • 下痢(水~泥様)
  • 腹痛
  • 吐き気
  • 食欲不振
  • 脱水症状

犬のジアルジア症の原因

 犬のジアルジア症の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
ジアルジア症の原因
  • 経口感染ランブル鞭毛虫のシスト(cyst) 原虫の未成熟な状態である「シスト」(cyst)に汚染された食物を口にすることにより感染します。シストとは、厚い膜を被って休眠に入った状態のことです。このシストは体内に入った後、胃を素通りして十二指腸から小腸上部にたどりつき、そこで被膜を脱ぎ捨てて「栄養型虫体」(トロフォゾイト)という形になります。この虫体は腹部の吸盤で腸管に付着し、そこで栄養をもらいながら成長と増殖を繰り返します。栄養をもらって新たに形成されたシストは糞に乗って体外に排出され、再び新たな宿主が現れるまで環境中でじっと待機します。
 日本においては、ペットショップやブリーダー経由の6ヶ月齢未満の子犬におけるジアルジア感染率が、時として30%を超えるという事実が判明しています。この高い感染率の背景にあるのは、繁殖施設やペットショップにおける「密飼い」です。感染犬と非感染犬がごたまぜになり、シストを含んだ糞便が処理されないまま床に放置され、子犬がそれを食べてしまうという状況があると、それだけ感染率も高まってしまいます。以下の棒グラフは、一般家庭の子犬とペットショップやブリーダー由来の子犬におけるジアルジア抗原陽性率を比較したものです。どちらにおいても「ペットショップ・ブリーダー」が圧倒的に高い値を誇っていることがお分かりいただけるでしょう。 一般家庭の子犬とペットショップやブリーダー由来の子犬におけるジアルジア抗原陽性率
  • 資料1 2004年、「日獣会誌57」(P579~582)で報告された「子犬におけるELISAによるジアルジア抗原の検出状況」からのデータ(→出典)。一般家庭由来の子犬におけるジアルジア抗原陽性率が「3.2%」(3/93)だったのに対し、ペットショップやブリーダー由来のそれは「29.8%」(79/265)だった。
  • 資料2 2010年、「動物臨床医学19」(P41~49)で報告された「日本全国の一般家庭で飼育されている犬および猫における消化管内寄生虫の調査」からのデータ(→出典)。一般個人経由のジアルジア検出率が「3.2%」(1/31)だったのに対し、ペットショップ・繁殖施設経由のそれは「43.4%」(49/113)だった。

犬のジアルジア症の治療

 犬のジアルジア症の治療法としては、主に以下のようなものがあります。
ジアルジア症の治療と予防
  • 対症療法 脱水症状がみられる場合は輸液などが行われます。
  • 投薬治療 重症化した場合はフェンベンダゾール、メトロニダゾールが投与されることもあります。
  • 衛生管理 母犬の糞便を子犬が口にしてしまうという状況をなくすため、母犬の糞便を素早く片付ける、子犬が糞便に近づけないよう監視する、などの配慮が必要となります。また飼い主自身が、体内に鞭毛虫を保有していても症状を示さない「キャリア」である可能性もあるため、排便後の手洗いが重要です。通常の浄水処理で完全に除去することは困難なため、水道水を与える場合は事前に十分煮沸するようにします。
 北里大学獣医学部小動物内科学研究室の調査チームは、東北地方にある4ヶ所のペットショップで2008年と2013年におけるジアルジアの感染率を比較し、2015年の「動物臨床医学24」(P32~34)内でその結果を報告しました(→詳細)。チームがペットショップで飼育されている3ヶ月齢以下の子犬から無作為で糞便を採取して感染率をデータ化したところ、2008年が24.8%(162/654)、2013年が29.5%(177/600)となり、5年間でほぼ変わっていないという事実が明らかになったといいます。この事実はつまり、ペットショップは感染を防ぐための努力を怠っているということを意味しています。東北地方のペットショップにおける2008年と2013年のジアルジアの感染率比較グラフ  ペットショップやブリーダー管理者は本来、繁殖用の成犬と生まれてきた子犬の糞便を定期的に検査してジアルジア感染の早期発見に努め、シストを排除するため飼育ケージや運動場を定期的に熱湯消毒しなければなりません。こうした施設を訪れた際は「寄生虫予防のため何をしていますか?」と聞いてみると、その店やブリーダーのクオリティが見えてくるのではないでしょうか。