トップ犬の健康と病気犬の感覚器の病気犬の皮膚の病気天疱瘡

犬の天疱瘡~症状・原因から治療・予防法まで

 犬の天疱瘡(てんぽうそう)について病態、症状、原因、治療法別に解説します。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い犬の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

犬の天疱瘡の病態と症状

 犬の天疱瘡とは、本来であれば守るはずの生体を、免疫系統がなぜか異物とみなし、内部から破壊することで発症する皮膚病のことです。
 攻撃対象となるのは、細胞と細胞を結び付けている「デスモソーム」(接着斑)と呼ばれる部位です。結果として細胞間の接着が弱くなり、細胞同士の分離、水疱や膿疱の形成、潰瘍と痂疲(かさぶた)といった様々な皮膚症状を引き起こします。 細胞と細胞を結び付ける「デスモソーム」(接着斑)  犬の天疱瘡の主な症状は以下です。デスモソームのどこを攻撃するかによって、「落葉性」、「紅斑性」、「尋常性」、「増殖性」に分類されます。
天疱瘡の種類と症状
  • 落葉性天疱瘡 「落葉性」(らくようせい)の攻撃対象は、表皮の角質化細胞に限局して存在している、デスモソーム中の「デスモグレイン1-Aデスモソームトランスメンブレン分子」です。好発年齢は4~5歳で、秋田犬チャウチャウダックスフントビアデッドコリーニューファンドランドドーベルマンスキッパーキに多いとされます。薬物や慢性疾患が原因となるものもありますが、その多くは原因不明(特発性)です。症状は鼻、目の周囲、唇、耳に多く現れ、紅斑から膿疱を形成し、破裂すると黄色~褐色のかさぶた(痂疲)に置き換わります。放置された場合、60%の確率で、半年以内に皮膚全体に拡大すると言われています。
  • 紅斑性天疱瘡 「紅斑性」(こうはんせい)は、落葉性が頭部~顔面に現れたときの亜種です。コリージャーマンシェパードシェットランドシープドッグに多いとされます。症状は顔や耳の後半に現れ、形成された膿疱が破れて痂疲、鱗屑、脱毛、びらんを生じ、鼻では色素脱失が起こります。まれに肉球や生殖器にも発症します。
  • 尋常性天疱瘡 「尋常性」(じんじょうせい)の攻撃対象となるのは、粘膜や皮膚上層の扁平上皮に存在している、デスモソームの「デスモグレイン3-A」という部位です。口内粘膜、食道、肛門、腋の下、鼠径部(太ももの付け根)、爪などに発症し、皮膚のやや深いところにびらんと潰瘍を形成します。
  • 増殖性天疱瘡犬の落葉性天疱瘡~鼻筋から額にかけてかさぶたが形成されている。 「増殖性」(ぞうしょくせい)の攻撃対象となるのは、デスモソーム中の「デスモグレイン1」という部位です。水疱や膿疱がいぼ状の腫瘤に変化するという特徴を持っています。好発部位は顔で、口の中や体幹に病変は現れません。

犬の天疱瘡の原因

 犬の天疱瘡の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
天疱瘡の主な原因
  • 遺伝 好発品種が存在していることから、何らかの形で遺伝が関わっていることは間違いないようです。デスモソーム中の「デスモグレイン」と呼ばれるタンパク質の一種を、免疫系が異物とみなすことまでは判明しましたが、詳細なメカニズムに関してはよくわかっていません。
  • 薬物(?) 落葉性天疱瘡の一部は、薬物の摂取によって引き起こされることがあります。

犬の天疱瘡の治療

 犬の天疱瘡の治療法としては、主に以下のようなものがあります。
天疱瘡の主な治療法
  • 紫外線を避ける  明確な理由はわからないものの、紫外線が発症の一因として考えられるため、極力太陽光を避けるような生活に切り替えます。
  • 薬物療法  通常はグルココルチコイド、漢方薬、ビタミン、免疫抑制剤などのうちから数種類を合わせて投与されます。生涯に渡る投薬が必要となるケースも少なくありません。