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犬のハエウジ症~症状・原因から治療・予防法まで

 犬のハエウジ症について病態、症状、原因、治療法別に解説します。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い犬の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

犬のハエウジ症の病態と症状

 犬のハエウジ症とは、傷口にハエの幼虫である「ウジ」がわき、皮膚を食い破って皮下に侵入した状態を言います。
 ハエには非常にたくさんの種類がいますが、ハエウジ症を引き起こすのは主として「ヒツジバエ科」に属する種です。具体的には「ヒトヒフバエ」、「ウサギヒフバエ」、「ウシバエ」、「ウマバエ」、「イエバエ」、「ニクバエ」などが含まれます。こうした種の中には、植物や腐敗物を好むものがいる一方、哺乳動物の皮膚に穴を掘って寄生し、そこで栄養分をかすめ取りながら生きるものもいます。このときに発生するのが「ハエウジ症」です。以下は、日本国内における動物寄生性を持ったハエの代表格です。
日本における寄生性のハエ
日本国内においてハエウジ症をおこしうるハエの種類一覧
  • ウシバエ ウシバエやキスジウシバエが主にウシに寄生し、「ウシバエ幼虫症」を引き起こします。症状は皮膚の疼痛、脊髄への侵入、体内で死んだ幼虫に対するアレルギー反応などです。家畜伝染病予防法において届出伝染病に指定されています。
  • イエバエ クロイエバエなどはウシやウマといった大型草食動物の体表に取りつき、傷口を見つけてそこから滲出体液を摂取します。
  • ニクバエ センチニクバエ(クロニクバエ・ナミニクバエなど)は、動物の死体や傷口に卵を産み付け、そこで孵化した幼虫は皮膚の中にもぐりこみ、栄養をかすめ取りながら5~10日間成長を続けます。
 幼虫の寄生タイプには、傷口表面にわく「創傷型」、傷口から体内に潜り込んでじっと身を潜める「せつ型」、体内にもぐりこんだ後、皮膚の下を移動する「移行型」などがあります。どのタイプにしても、以下に示すような症状を見せるようになります。
ハエウジ症の主症状
ハエウジ症3タイプ~創傷型・せつ型・移行型
  • 体表の病変(腫瘍・潰瘍・化膿など)
  • 不眠
  • 夜半になっても鳴き続ける
  • 体臭の悪化
ヒトヒフバエ
人の皮膚内に潜伏したせつ型ヒトヒフバエの幼虫 ヒツジバエ科に属する亜種「ヒトヒフバエ」は、名前が示す通り人にも寄生します。生息しているのはメキシコからアルゼンチンあたりの熱帯地域です。成虫はまず、別のハエや蚊などを捕まえてそのおなかに卵を産み付けます。卵を持たされた虫は、ウシ、ウマ、そして人間といった哺乳動物に取りついて吸血する際、おなかに抱えた卵を皮膚の上に残します。すると卵は体温によって孵化し、1時間程度で皮膚内に侵入して1~3ヶ月というかなり長い期間、そこで過ごします。大きさは1~2cm程度まで成長することがあるため、取り除くには皮膚を強引に押すか、酸欠状態にして傷口から出てくるのを待つか、最悪の場合は局所麻酔して外科的に切開するしかありません。

犬のハエウジ症の原因

 犬のハエウジ症の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
ハエウジ症の主な原因
  • 傷口  皮膚の表面に傷口があるとハエが卵を産み付けたり、幼虫が這い登ってきたりしてハエウジ症を発症します。特に肛門、外陰部といった角質層の薄い部分が要注意です。また老齢で動けなくなった犬は、長時間同じ姿勢で寝たきりになって床ずれを起こしてしまうことがあります。こうした傷口を放置することも発症につながります。
  • 屋外飼育 ハエが活動する暖かい季節に、常時戸外で飼育されているような犬では感染率が高まります。

犬のハエウジ症の治療

 犬のハエウジ症の治療法としては、主に以下のようなものがあります。
ハエウジ症の主な治療法
  • 創傷型の治療 傷口に幼虫がわいているだけの場合は、ピンセットで幼虫を一匹ずつ除去し、傷口をきれいに消毒します。ちなみにウジを意図的に傷口にあてがう「マゴットセラピー」というものがありますが、こちらのウジは医療用に飼育されたものであり、菌を保有しているかもしれない自然界のウジとは別物です。
  • せつ型の治療 幼虫が皮膚を食い破って内部に潜伏しているような場合は、何とかして傷口から頭を出すよう仕向けます。膨らんだ場所を外から押して刺激する方法と、傷口を封鎖して酸欠状態にする方法が主流です。内部で幼虫が死んでしまうと激しい炎症反応を引き起こすことがありますので、どうしても取り出すことができない場合は局所麻酔で患部を切開します。
  • 移行型の治療 幼虫が皮膚の中を移動し、もはやどこにいるのかわからないような場合は、イベルメクチンを含んだ薬剤を投与することで幼虫を殺してしまいます。ただしイベルメクチンに関しては、フィラリアを保有している犬には使えません。またコリーシェットランドシープドッグオールドイングリッシュシープドッグオーストラリアンシェパードといった犬種においては、遺伝的に重い副作用を引き起こすことがありますので慎重に考慮します。