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犬の慢性腎不全~症状・原因から予防・治療法まで

 犬の慢性腎不全(まんせいじんふぜん)について病態、症状、原因、治療法別に解説します。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い犬の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

犬の慢性腎不全の病態と症状

 犬の慢性腎不全とは、尿のろ過を行っているネフロンが緩やかに壊れていき、腎臓が慢性的に機能不全に陥った状態のことです。急性腎不全ではたった1日で腎臓の機能が破壊されますが、慢性腎不全では数ヶ月~数年かけて徐々に破壊されていきます。
 ネフロンとは、腎臓の基本的な機能単位であり、腎小体(じんしょうたい)とそれに続く1本の尿細管(にょうさいかん)から構成されています。何らかの理由によりこのネフロンが徐々に破壊されていき、数ヶ月~数年かけて徐々に症状の悪化を見るのが慢性腎不全です。 腎臓とネフロンの腎小体・尿細管の模式図  犬の慢性腎不全の症状としては以下のようなものが挙げられます。腎臓が75%以上破壊されてようやく症状が現れることもしばしばです。好発年齢は7歳頃で、年齢の上昇と共に発症率も高まります。
犬の慢性腎不全の主症状
 腎臓では「エリスロポエチン」や「カルシトリオール」と呼ばれるホルモンを産生しているため、腎臓の細胞数が目減りするとこうしたホルモンの産生量も減ってしまいます。「エリスロポエチン」は赤血球の産生を促進する働きを担っており、減少すると貧血を招きます。また「カルシトリオール」は、血液中のカルシウム濃度を高める働きを担っており、減少すると副甲状腺機能亢進症を招きます。これは足りない分のカルシトリオールを、副甲状腺から分泌されるパラトルモンと呼ばれるホルモンが補おうとするために生じる現象です。

犬の慢性腎不全の原因

 犬の慢性腎不全の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。ほとんどの症例においては明確な原因がわからず、「特発性腎不全」とか「慢性広汎性腎不全」という言葉が当てられます。これは「よくわからない」という意味です。
犬の慢性腎不全の主な原因
 2015年より、犬や猫などの外注検査を受け持つ「アイデックス」(Idexx)が「SDMA™」と呼ばれる新しいバイオマーカーの検査を開始しています。「SDMA™」(対称性ジメチルアルギニン)とは、タンパク質の異化作用と共に血液中に放出され、ほぼ腎臓でのみ排出される物質のことで、従来の「血中クレアチニン濃度」よりも忠実に腎機能低下を反映するとされています。クレアチニンは腎機能が75%まで低下してようやく血中に出現するものでしたが、SDMA™はわずか25~40%低下しただけで検査値に現れるとのこと。これを時間に換算すると、従来よりおよそ17ヶ月も早く検知できる可能性があるといいます。血液検査のオプションに関しては、通っている病院に一度お問い合わせください。

犬の慢性腎不全の治療

 犬の慢性腎不全の治療法としては、主に以下のようなものがあります。
犬の慢性腎不全の主な治療法
  • 対症療法  まずは症状の軽減を目的とした治療が施されます。たとえば高窒素血症の改善を目的に、輸液、ホルモン剤投与、腹膜灌流(ふくまくかんりゅう=腹の中に灌流液を入れて1時間位してから回収する)、血液透析(腎臓を模した機械に血液を流す)、窒素化合物を吸着させる薬剤の投与などの治療が施されます。
  • 心臓への投薬  腎臓機能の悪化によって高血圧が発生している場合は、血圧を安定させる薬剤が投与されることがあります。
  • ホルモン薬の投与 腎臓における産生量が低下したエリスロポエチンやカルシトリオールを人工的に投与します。
  • 食事療法  タンパク質と塩分量をコントロールした食事療法が施されます。脱水を予防するため、新鮮な水がいつでも飲めるようにしておくことが重要です。