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犬の膀胱結石~症状・原因から予防・治療法まで

 犬の膀胱結石(ぼうこうけっせき)について病態、症状、原因、治療法別に解説します。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い犬の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

犬の膀胱結石の病態と症状

 犬の膀胱結石とは、尿をためる袋とも言うべき膀胱に結石を生じた状態を言います。膀胱(ぼうこう)とは腎臓から送られてくる尿を一時的に溜める袋状の器官であり、左右の腎臓から尿管を通して尿を受け取り、尿道を通して体外に排出します。 犬の泌尿器解剖模式図~上部尿路(腎臓+尿管)と下部尿路(膀胱+尿道)  膀胱結石は尿路結石の中で最も発症頻度が高いとされています。やや古いデータになりますが、西ドイツ国内にある400以上の動物病院から4年にわたって集めた1,731の尿石サンプルを調べたところ、全体の98.7%までもが下部尿路から採取されたものでした。具体的な内訳は膀胱だけからの採取が65.3%、尿道だけからの採取が15.4%、そして膀胱と尿道両方からの採取が18%で、膀胱から採取されるケースが全体の8割を超えていました出典資料:A. Hesse, 1990)。膀胱は内容量が大きいため、長い間放置すると信じられないくらい大きく成長してしまうこともしばしばです。 犬の膀胱から採取された巨大な楕円結石  膀胱結石の成分としてはシュウ酸カルシウムとストルバイトが大部分を占めています。例えばメキシコシティに暮らす犬の下部尿路(膀胱+尿道)から採取された105の尿石サンプルを対象とした調査では、ストルバイトが38.1%、シュウ酸カルシウムが26.7%と両者だけで過半数を占めていました。その他、シリカが13.3%、尿酸が7.6%、シスチンが1%で混合が11.4%だったとも出典資料:J.D.Angel-Caraza, 2010)。また米国で行われた最近の調査では、シュウ酸カルシウムを主成分として含む尿石のうち97.8%(5,909/6,041)が、そしてストルバイトを主成分として含む尿石のうち96.9%(4,843/4,996)までもが膀胱から採取されたと報告されています出典資料:L.Kopecny, 2021)
 犬の膀胱結石の主な症状は以下です。メスの場合尿道が短いため、小さいものなら尿と一緒に自然排出されることもあります。
犬の膀胱結石の主症状
  • ぐったりして元気がない
  • 食欲不振
  • 発熱
  • 水をたくさん飲む
  • おしっこの回数が増える
  • 尿の色が濃い
  • 尿がにごっている
  • 血尿(紅茶~コーヒー色)
  • 尿のにおいが強い

犬の膀胱結石の原因

 犬の膀胱結石の原因としては、主に以下のようなものが考えられますが、結石ができる正確なメカニズムはいまだ解明されていません。
犬の膀胱結石の主な原因
  • 膀胱炎細菌感染による膀胱炎が原因の一つとして考えられます。膀胱内の炎症によって剥がれ落ちた上皮細胞などが核となり、まるで真珠が大きくなるように結石が成長するものと考えられます。特にストルバイトに関しては、ウレアーゼを産生するバクテリア(ブドウ球菌など)が形成に関わっている可能性が示されています。
  • 尿の酸塩基平衡食事の偏りにより、尿がアルカリ性や酸性になると結石を生じやすくなります。アルカリ尿ではストルバイト、リン酸カルシウム結石、酸性尿ではシュウ酸カルシウム、尿酸塩、シスチン、キサンチン結石のリスクが高まります。

犬の膀胱結石の治療

 2016年、ACVIM(米国獣医内科学会)が最新の医学的エビデンスに基づき、犬の尿路結石症治療に関するガイドラインを公開しました。以下はこのガイドラインに記されている膀胱結石に関連した部分の抜粋です。なお膀胱結石の検査法に関しては「尿石の検査・診断」にまとめてあります。 ACVIMガイドライン(英語) ACVIMガイドライン(日本語)

症状がある場合

 膀胱結石がすでに何らかの症状を引き起こしている場合は、体に対する負担が最小限で済む方法で除去します。
 膀胱切開には麻酔のリスクや入院期間の延長が伴い、また膀胱に対する切開と縫合自体が結石が再発する原因の9.4%に上るとの報告もあるため、まずは外科手術以外の方法からスタートするのがセオリーです。
 例えば膀胱結石が尿道を通過できるほど小さな場合は圧迫排尿、医学的溶解、バスケット回収法など侵襲性が低い方法からまず試していきます。膀胱結石が尿道を通過できないほど巨大な場合でも医学的溶解、体内レーザー砕石術、経皮的膀胱結石摘出などを優先し、可能な限り大きな傷口を要する膀胱切開は避けるようにします。 犬の膀胱結石におけるバスケット回収法

症状なし/尿道閉塞リスクなし

 自覚症状がなく尿道閉塞を起こす恐れがない膀胱結石に関しては、超音波検査やエックス線検査で結石の大きさ、位置、組成を確かめた上で、体に対する負担が最小になるような治療計画を立てます。
 例えば大きすぎて尿道内に流入する危険性がない膀胱結石や、形がいびつで尿道を完全に閉塞する恐れがない膀胱結石の場合は、定期的なモニタリングと飼い主への適切な教育(症状の早期発見)で経過を観察します。外科的な治療を考慮するのは血尿、排尿障害、尿道感染症といった症状が現れてからです。

症状なし/尿道閉塞リスクあり

 自覚症状がないものの尿道閉塞を起こす恐れがある膀胱結石に関しては侵襲性を最小限にとどめつつ外科的に除去します。
 例えば結石と尿道の直径がほぼ等しいなど尿道閉塞の危険性が高いと判断された場合は、医学的溶解、バスケット回収術、体内レーザー砕石術、経皮的膀胱結石摘出など侵襲性が低いものから優先的に行っていきます。
 ヨークシャーテリアマルチーズチワワといった小型犬やほぼすべてのオス猫は体が小さいため膀胱鏡を尿道に挿入できません。そうした場合は患犬・患猫の体質や体格に合わせ、適宜最適な治療法を選択することが推奨されています。
ストルバイト、シュウ酸カルシウム、尿酸、シスチンなど結石の成分に応じた治療法に関しては「犬の尿路結石症」というページ内にまとめてあります。