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地震災害による避難

 地震による住居の被害が甚大で、建物からの避難を余儀なくされた場合、ペットはどうなってしまうのでしょうか?阪神淡路大震災や東日本大震災などの事例を元に、ペットとの避難生活について考察していきたいと思います。

ペット同行避難の原則

 犬や猫を始めとするペットを飼っている人にとって、ペット同行避難、すなわちペットと自分が一緒に避難することは災害時における基本行動です。これは、過去の苦い経験から学んだ教訓ともいえます。
ペット同行避難の重要性
 2000年3月29日、有珠山の火山活動をモニターしていた火山噴火予知連絡会の発表を受けた気象庁が緊急火山情報を北海道の虻田町・壮瞥町・伊達市に発信、その後避難指示が発令され16,000人の住民は30日までに危険地帯から離れました。しかし「すぐに避難指示がとかれるだろう」という住民たちの甘い見通しから、このとき300匹を超える犬や猫などが危険地帯に取り残されたままになります。
 噴火活動の長期化予測が発表されたのを契機に、地元のみならず、全国からペット救出を嘆願する手紙やFAX、電話などが行政機関に殺到し、急遽、4月2日に危険度が低い有珠地区のペット救出作業が開始されました。
 まず4月4日には壮瞥町に送迎バスが出されて残されたペットを救い出し、その後北海道の依頼を受けた道警察が、虻田町の犬や猫を救出しました。しかし全てのペットを救出できたわけではなく、危険地帯で餓死した犬や猫も多数出る結果となってしまいました。
 少なからぬ数のペットが犠牲となったこの「有珠山噴火」という自然災害は、「災害時の避難はペット同伴が原則」という同行避難の重要性を浮き彫りにした、象徴的な出来事の1つです。また、置いてきたペットを連れ戻しに被災地へ戻り、二次災害にあう住人をなくす、という目的も兼ね備えています。
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ペットの応急処置

 被災直後のペットは、無駄吠え、落ち着きがない、おびえて建物の隙間に隠れる、驚いて逃げ出すなど、いつもとは違う行動をとることがあります。またどこかしらに怪我を負っているような場合は、噛み付いたり引っかいたりしてくるかもしれません。普段から自治体、地元の獣医師会、動物愛護団体の連絡先をあらかじめ登録しておき、動物を診察してくれる最寄の病院をいちはやく発見できるようにしておけば、ペットのパニック状態をなるべく早く落ち着かせることができます。
 なお、動物病院においては、極力スムーズに診察と治療を進行させるため、以下のようなポイントを事前に頭の中で整理しておきましょう。治療の回転率を上げることは、自分のペットのみならず、他のペットを助けることにもつながります。
診察時に念頭に置くこと
  • ペットの年齢
  • 性別
  • 普段の食生活
  • 主症状
  • 発症時期
  • 発症のきっかけ
  • 行った処置
 以下は、災害時にペットが怪我をしてしまったときの簡易応急処置方法です。それほど複雑な手順はありませんので、日ごろからイメージトレーニングや、ペットの体を用いて実際に練習しておくと安心です。 犬の怪我と事故
災害時におけるペットの応急処置
  • 切り傷の応急処置 ペットの体に出血や切り傷が見られるときは、傷口をガーゼなどで押さえ、血が止まるのを待ちます。血が止まったら、ペットが傷口をかきむしらないように包帯や裂いたシーツなどで固定しましょう。
  • 骨折の応急処置 骨折は大変な痛みを伴う怪我ですので、いたずらに触るとペットがパニックを起こしてしまいます。足を引きずっていたり明らかに折れているような場合は無理に副木などをせず、暴れないようにリードやハーネスでペットの体を保定するのが先決です。その後、最寄の動物病院などで診察を受けましょう。
  • やけどの応急処置 やけど直後であれば患部に冷水をかけて熱を冷まし、患部が広がらないようにします。ある程度時間が経過したような場合は無理に触らず、患部にぬれたタオルなどをそっとかけ、ペットの体を保定します。その後、最寄の動物病院などで診察を受けましょう。
  • 嘔吐(おうと)の応急処置 ペットが嘔吐してしまった場合は、吐しゃ物(はいたもの)で窒息しないよう、口の中を洗います。また、吐しゃ物を食べてしまわないよう、なるべく早く掃除するよう心がけましょう。吐しゃ物に血が混じっているようなら、上部消化管(胃や食道)などからの出血が疑われるため、すみやかに病院へ行きます。12~24時間絶食した後、普段の1/5程度の食餌量から与えてみて、回復の度合いを図ります。
  • 下痢の応急処置 ペットが下痢の症状を見せている場合は、脱水症状に陥らないよう、水を飲ませつつ12~24時間絶食します。便が黒かったり赤かったりしたら、下部消化管(大腸や直腸)からの出血を疑い、速やかに動物病院へ行きましょう。
  • 咳の応急処置 ペットのなかなか咳が止まらないようなら、火事による熱風や粉塵(ふんじん)を吸い込んだことによる呼吸不全の可能性を疑い、速やかに動物病院へ行きましょう。
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一時避難所への避難

 市区町村は、自宅から避難する住民のために、その地域にある学校や公民館などを一時避難場所に、そして広い公園を広域避難場所として指定しています。役場から避難の指示・勧告等が出たら、速やかにそれに従いましょう。日頃から最寄りの避難場所を家族で確かめておくと安心です。また避難場所への経路は、火災や建物の倒壊で道がふさがれることも想定し、事前に複数パターンをシミュレーションしておきます。

地域の防災対策を事前に確認

 所属している地域のペットに対する防災対策を事前に確認することは必須です。避難所へペットを連れ込んでよいのか?それとも人間の居住区とは隔離されてしまうのか?ペットの診療体制をどうするのか?などのポイントは抑えておきたいものです。

避難所におけるペットの現実

 避難所における現実は厳しく、動物が嫌いな人、動物アレルギーを持っている人、動物の臭いや糞尿、泣き声の問題などにより、ペットたちは専用区画に隔離されることが多いようです。こうした避難所における生活環境を嫌い、公園にテントを張ったり、自家用車の中に寝泊りしたり、半壊した家の中でペットと暮らす人などが、災害が起こるたびに必ずといっていいほど見受けられます。また、避難所から締め出されたペットを、緊急に開設された動物救護センターなどへやむをえず預けるといった例も見られます。

市街地における避難の原則

 市街地においては避難する際に車を使用せず、徒歩で避難することが原則です。これは、道路の交通渋滞を招き、消防車や救急車などの緊急車両のすみやかな通行を妨げてしまう可能性があるからです。ただし、山間地などでお年寄りや体の不自由な人などが長い距離を避難する必要がある場合などは、車の使用を認める方針を国は示しています。
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災害時の動物救護センター

 災害発生から3日ほどすると、行政の指示を受けた自治体・獣医師会・動物愛護団体・ボランティアなどが協同して「動物救援本部」が設置され、「動物救護センター」が開設されるという流れが一般的になっています。救護センターは、動物たちの病気や怪我の治療のほか、ペットの一時引取りや里親募集、迷子になった犬猫の掲示板を仲介するという役割を担っており、たとえば以下のような動物たちが収容されます。
収容される動物のタイプ
  • 飼い主とはぐれてうろつく犬や猫
  • 瓦礫や半壊した家屋の中に取り残されたペット
  • 飼い主が放棄したと思われるペット
  • 飼い主が避難所で生活する間、やむをえず預けられるペット
 また、過去の災害においては、以下のような動物救護センターが開設されてきたという経緯があります。
過去の大地震における動物救護センター
  • 阪神淡路大震災兵庫県南部地震動物救援本部が発足し、神戸動物救護センターと三田動物救護センターが開設
  • 有珠山噴火北海道獣医師会有珠山動物救護対策本部が発足し、有珠山動物救護センターが開設
  • 三宅島噴火三宅島噴火災害動物救援本部が発足し、三宅島噴火災害動物救援センターが開設
 そして今回の東日本大震災においても、非常に多くの動物救援本部が設けられ、動物たちの救護のために尽力しました。遠く離れた東京都や神奈川県においても緊急に動物救援本部が設置され、被災した動物たちの受け入れなどを行ったのは記憶に新しいでしょう。
 しかし動物救護センターにおけるペットの飼育状況というのは、理想とは程遠いというのが現状です。阪神淡路大震災においては、およそ4,300匹の犬と5,000匹の猫が被災したといわれており、社団法人兵庫県獣医師会、および社団法人神戸市獣医師会の地震直後10日間のデータを見ると、以下のようになっています。  
阪神淡路大震災における動物の診察状況
  • 治療数=1.864匹
    内科的(食欲不振・下痢・嘔吐・咳)治療数=1,635匹
    外科的(切り傷・骨折・打撲・やけど)治療数=229匹
  • 治療数=250匹
    内科的(食欲不振・下痢・嘔吐・咳)治療数=174匹
    外科的(切り傷・骨折・打撲・やけど)治療数=76匹
 一見して、内科的な疾患で診察を受ける犬猫の方が圧倒的に多いことがわかります。この事実から見えてくるのは「環境の変化と災害のストレスが、いかに犬や猫の自律神経系(体を自動的に調整する神経)を乱し、内科的な疾患を増やすか」、という点です。 災害時の恐怖感、飼い主が近くにいない不安、慣れない生活環境といったストレスが波状攻撃でやってきたとき、ペットは容易に体調を崩してしまうという事実は、あらかじめ抑えておきたいものです。
 動物救護センターはペットの治療を施し、動物の命をつなぐ施設であることは間違いありません。しかし空間的な制約や人手不足の問題から、犬猫を狭いケージや檻の中に収容し、散歩もままならないというのが現状です。上記したような様々な内面的ストレスを取り除き、ペットにとって理想的な環境を提供できるほどの余裕は、残念ながらありません。
石巻動物救護センター
 以下でご紹介するのは石巻動物救護センターでの活動の模様です。 元動画は⇒こちら
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仮設住宅への避難

 被災して住む家を失ったり、身を寄せる知人や親族などがいない場合などは、一時避難所から政府が用意する仮設住宅に移動するという選択肢があります。公共施設などにおける避難所生活では、集団で寝泊りしているという環境上、隣人と毛布一枚・段ボール一枚で隔てられているだけの事が多く、プライバシーの問題や疲労の蓄積という問題が浮上してきますので、仮設住宅には、こうした問題を予防するという側面もあります。

仮設住宅とは?

 仮設住宅(かせつじゅうたく)とは、地震を始めとする自然災害などにより住む家を失い、また自らの資金では住宅を得ることのできない被災者に対して、行政が貸与する仮の住宅のことです。もちろん全ての被災者が入居できるわけではなく、希望者が多い場合は抽選などで選ばれます。
 仮設住宅の着工は災害の発生の日から20日以内とされており、規定によると貸与期間は完成の日から2年以内です。また、厚生労働省が災害救助法に準じて示している1戸あたりの標準仕様は、広さが29.7平方メートル、価格が238万7000円となっており、それ以外の細かな仕様に関しては、被災地の都道府県に判断が委ねられています。
福島市森合町 仮設住宅の現状
 以下でご紹介するのは福島市森合町にある仮設住宅の現状です。住居は提供されるものの、光熱費を始めとする生活費は自腹で、なおかつ使用期限は2年ですから、その生活の厳しさが伺われます。 元動画は⇒こちら

仮設住宅におけるペットの受け入れ

 2011年の東日本大震災後に建設された仮設住宅は数多くありますが、ペットとの共生を許可している「ペット受け入れ状況」はおおむねこちらです。
 ご覧いただけるように、「要話し合い」という地域はあるものの、頭ごなしに「ペットは絶対だめ!」という自治体はないようです。1995年の阪神淡路大震災における仮設住宅では、およそ1割の世帯においてペットが飼われていたと言われていますから、ペットの受け入れ状況に関しては大幅に進歩したといえます。こうした進歩の背景には、もしペット不可としてしまうと、「仮設住宅への入居を断念して野外生活したり半壊した家屋の中で生活する人」や、「やむを得ずペットを遺棄してしまう人」が増加してしまうという問題を、事前に防いでいるという側面がありそうです。また、ペットとの共生を許可することで、被災による精神的なショック、避難生活によるストレス、社会からの断絶、対人関係の希薄化などが遠因と考えられる、いわゆる「孤独死」の問題を軽減してくれるという効果もあるでしょう。

仮設住宅におけるペットトラブルとその予防

 さて、ペット共生型仮設住宅にはプラスの側面もありますが、もちろんそればかりではありません。仮設住宅においてよく聞かれるペットトラブルは、おおよそ以下のようなパターンに集約されます。
仮設住宅におけるペットトラブル
  • 泣き声がうるさい
  • おしっこやうんちの臭い
  • 抜け毛が近隣に飛び散る
  • 糞を放置する一部の飼い主がいる
 こうしたペットトラブルを事前に防ぐため、ペットと共生する被災者だけを一定区画に集めている仮設住宅もありますが(宮城県亘理町東郷地区など)、多くの地域は、ペット飼育者と非ペット飼育者とが共同で暮らすというスタイルです。上記したトラブルパターンを避けるためには、ペット飼育者専用の区画に暮らしていようといまいと、最低限以下のようなマナーを遵守することが必要となるでしょう。
飼い主としての最低限のマナー
  • 無駄吠えのしつけをしっかり行う
  • 自分勝手なうんちとおしっこの捨て方をしない
  • ベランダなどでブラッシングしない
  • 散歩とトイレを一緒にしない
犬の無駄吠えのしつけ 犬の毛のケア

仮設住宅に入れなかったら?

 仮設住宅の抽選にもれ、ペットとともに生活する場所を見つけることのできない人は、先述したとおり車の中で生活したり、公園などにテントを張って暮らすことを余儀なくされる場合があります。しかし 資金や蓄えは無限ではありませんので、そのうち生活に支障をきたす段階に達することもあるでしょう。こうした生活苦に陥ると、先行きに対する不安から安易に「ペットの安楽死」を口にする人もいますが、それは早計です。
 当ページ内災害時の動物救護センターのセクションで登場した各地域の動物救護センターにおいては、里親募集の仲介も行ってくれます。ここでは保健所や動物愛護センターのように、一定期間保護した後、殺処分することはありません。事情を説明してペットを里子に出せば、里親候補者を選定し、養子縁組を取り計らってくれます。その際、「やっぱりペットを返して!」というトラブルを未然に防ぐため、ペットの所有権を放棄する念書に署名する必要がありますが、ペットを遺棄したり、安楽死させたりする精神的苦痛よりははるかにましです。
 ペットとの共同生活がどうにもこうにもできなくなった場合は、「遺棄」や「安楽死」ではなく、「動物救護センター」という選択肢があることを念頭においておきましょう。
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